パンダのプンダ、旅に出る その10
最終話「パンダのプンダ」(全10話)
そこにいたのはゼブリでした。
シマウマで、女の子に恋をしていて、でも成就しなかったゼブリ。
それはとても苦しいことだということを、誰かを好きになることを知ったプンダにはわかりました。あのとき理解できなかった痛みが、プンダの中にもあるのですから。
ゼブリはプンダを見ると首をかしげました。
それもそのはず、プンダとゼブリが出会ったのはプンダがまだシロクマだったときです。プンダがパンダになれたことはゼブリは知りません。
ゼブリはじーっと見つめて、じろじろ見て、また首をかしげて、それでも見続けて、「あ!」と言いました。ゼブリはニコニコ笑顔でプンダのもとへ駆けよってきました。
「おいなんだ、プンダじゃないか! パンダに戻れたんだな!」
「うん、北極まで行ってきたんだよぉ」
「北極ぅ!?」
プンダは今までの旅をゼブリに語って聞かせました。プンダの語りは、前に比べてずっとうまくなっていました。
「そうか、そんなことがあったのか」
話を聞き終え、ゼブリは言いました。
「そっかぁ……」ゼブリはどこか遠くを眺めます。その横顔は、どこか寂しげでした。
パンダに戻れたプンダと、シマウマのままのゼブリ。プンダは変われましたが、ゼブリは何にもなれませんでした。ゼブリが好きな女の子は白馬がかっこいいと言います。でもゼブリは、シマウマです。
プンダはゼブリのことを思うと胸が苦しくなりました。プンダのした恋はゼブリのものとすごく似ていたからです。
「ゼ、ゼブリは、どう……?」
プンダはおそるおそる尋ねます。
ゼブリは口元にだけ笑みを作って、首を横に振りました。
「いいんだ、俺は。もうすっかり諦めちまったよ」
でもプンダには、ゼブリの言葉は信じられませんでした。ゼブリの目が、笑っていないのです。
プンダは胸に手を当てると、目をつむって、ゆっくり息を吸いました。手が、かすかに震えています。やがて目を開き、ゼブリに言いました。
「ねぇゼブリ、ちょっとの間だけ抱き合いっこをしようよ」
* * *
パンダの森ではピンダとペンダとポンダが仲良く暮らしています。でも3びきはすこしだけ物足りなさを感じていました。
このパンダの兄弟にはもうひとり、二男のプンダというパンダがいました。プンダはある日シロクマになってしまったので、自分の黒模様を取り戻す旅に出ていました。
ポンダはそのことを思い出すと、「私たちもプンダお兄ちゃんについて行ったら良かったのに」と考えてしまいます。今日もそのことを考えながら、笹スープをコトコトと煮ていました。
すると、ペンダの声が飛び込んできました。
「ねぇねぇ! 誰か来たよ!」
ペンダは森のブランコをギコギコしていました。高くまでブランコが上がったとき、森へ来る誰かさんに気がついたのでした。
「来たって、どんなやつだ?」とピンダは聞きます。
「うんとね、なんか真っ黒なやつ!」
真っ黒。
ピンダは頭の中で全身が真っ黒な友達を探し始めました。けれどもそんなひとはピンダの友達にはいません。
ポンダも心配になって、兄ふたりのもとへ寄ってきました。
3びきの白黒がぎゅっと固まりました。
がさ、ごそ、と足音はもうすぐそこです。
そして笹の林から顔を出したのは真っ黒なクマでした!
ピンダは「ひょえー!」と叫びます。
ペンダは「すげー! 真っ黒カッコイー!」と目を輝かせます。
最後にポンダは「……あれ?」と首をかしげました。
クマに友達のいないポンダでしたが、その顔には見覚えがあります。
「……もしかして、プンダお兄ちゃん?」
真っ黒なクマは「うん!」と言いました。その声はまごうことないプンダです。ピンダもペンダも目をまん丸にして、「プ、プンダなのか!?」「プンダお兄ちゃん!」と言いました。
驚くのは当然です。何しろ、黒模様を取り戻すために旅へ出たシロクマのパンダが、真っ黒のクマになって帰ってきたのですから。
プンダは照れながら、
「うん、色々あったんだよぉ」
と言いました。
プンダはそれから旅の全部をみんなに聞かせました。泥んこになったこと、シマウマのゼブリに会ったこと、シロクマのロクマが怖くなかったこと、アイマに会って恋をしたこと、北極へ行ったこと、パンダになったシロクマに会ったこと。
そして……。
「その帰り道、ゼブリにまた会ってね、ゼブリのことを助けなきゃって思って、その……ゼブリの黒模様を全部もらったんだ」
プンダが言い終えると、みんなは唖然としました。
「でもお前、それ……」とピンダ。「真っ黒だったら、パンダじゃないんじゃ……」
それを聞くと、プンダは少しはにかんで、首を横に振りました。
「パンダ……。どっちかっていうと、パンダ!」
プンダは旅に出て大切なことを学びました。それは世界はとっても広くって、いろんなひとがいて、ひとりひとりみんな違うということです。
ゼブリは恋に悩んでいましたし、ロクマは見た目よりこわくありませんでしたし、アイマは優しくてかわいかったですし、シロクは強がっていたけどホントは弱いシロクマでした。そして、それを見ていたプンダは、どんな姿になってもプンダなのでした。プンダはプンダで、パンダなのでした。プンダがそう思い続けている限り、パンダなのでした。
そう言うと、ピンダもペンダもポンダも何も言えません。
プンダがそうと決めてしまっているのなら……。
でも、ペンダがひとつだけ提案しました、彼はプンダの話を聞いて、ひとつだけいいことを思いついたのです。ペンダはピンダとポンダにそのことをいうと、ふたりは親指を立てました、プンダにはなんのことやらです。
するとペンダが「せーの!」といいました。
その合図とともに、ピンダが、ペンダが、ポンダが、プンダに抱きついたのです。
彼らはそうして、何か一つを強く念じました。
プンダは、びっくりしましたが、でもみんながしていることがわかると、怒るわけにもいかず、ただ心の底から感謝をしました。
そしてピンダとペンダとポンダの黒模様は少しだけ大きくなって、プンダは、パンダになりました。
「助け合うのが家族だよ!」
ペンダは、笑っていいました。
それからピンダとプンダとペンダとポンダ、4ひきのパンダは末永くパンダであり続けました。心の底から、パンダでした。
(パンダのプンダ旅に出る おわり)
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