パンダのプンダ、旅に出る その7
第7話「パンダのプンダ、恋をする」(全10話)
シロクマのロクマに会ったプンダですが、ロクマが言うには北極にパンダになったシロクマがいるとのことでした。もしかすると、これでプンダはパンダに戻れるかもしれません。でもプンダは心の中では「北極は遠いなぁ」と思っていたのでした。
プンダは「ありがとぉ」と深々とおじぎをします。そうしてロクマと別れたプンダは、ちょっとずつ北へ歩き出しました。「北極は北にあるよねぇ」とプンダは考えます。しかしひとりで歩いているとお腹がすきます。ロクマと別れて30分後、
「お腹すいたぁ……」
プンダはお腹がすきすぎて倒れてしまいました。
プンダのまわりには草がたくさん生えていますが、ちっともおいしそうではありません。森の笹が恋しくなりました。
「ねぇ、どうしたの」
プンダがいつまでも倒れていますと、どこからか声が降ってきました。お腹がすいてそれどころではないプンダは「お腹がすいたんだよぉ」と言いました。ついでに「笹が食べたいよぉ」と付け加えました。
すると声は「う~ん」と考え込むと、「ちょっと待ってね」と言いました。
それから5分後、プンダのお鼻においしそうな香りが入ってきました。プンダは目を見開きます。プンダの目の前には笹のようなものがありました。
プンダは無我夢中でそれに飛びつきますと、むしゃむしゃむしゃむしゃと食べました。笹とはちょっと味が違いますが、とてもおいしく感じました。
「笹はないけど、竹ならあるの」
どうやらこれは竹のようです。「笹の次においしい!」とプンダは思いました。前に積まれた竹を全部食べてしまいますと、それを取ってきてくれた誰かさんにプンダはお礼を言いました。
「ありがとぉ」
プンダに竹を届けてくれたのは、アライグマの女の子でした。
「あたしの名前はアイマ、よろしくね」
と、アライグマの女の子は言います。
「ボ、ボクはプンダだよぉ」
とプンダは答えました。プンダはなぜか、ほっぺがぽぉっと温かくなるような気がします。胸もドキドキとして、苦しくなりました。熱でもあるのでしょうか。この気持ちの名前を、プンダはまだ知りません。
「竹なら近くにいっぱいあるの。……でも、シロクマなのに竹を食べるってなんだか変ね」
そう言ってアイマは笑います。でも、プンダはもじもじしてしまい、自分がシロクマではなくパンダであることを言いそびれてしまいました。
アイマはそれから言いました。どうやら彼女はおしゃべりが好きなようです。
「でもよかったぁ、原っぱの真ん中で倒れてるんだもん。もしかしたら死んでるのかと思っちゃった。そしたら『お腹がすいた』って……ぷぷぷ、シロクマって初めて見るけど、みんなあなたみたいに食いしん坊なの?」
プンダはあいまいに頷きました。そしてアイマから目を逸らしてしまいました。照れくさいような、うれしいような気がします。
目を逸らすプンダを、アイマはじろじろと見ます。初めて会ったシロクマが物珍しいのでしょう(ほんとうはパンダなんですけどね)。アイマは上から下までプンダを見ますと、楽しそうに「あはは」と笑いました。
「ほんときれいな白い毛……。初めて会ったときから、きれいだなって思ってたの」アイマはプンダの身体に触りました。プンダのドキドキは、もうドキドキドキドキです。「ふわふわしてて、気持ちいいのね」
プンダはとってもうれしくなりました。今すぐにでも、飛び跳ねてしまいたい気持ちになります。どうしてかはわかりません。
プンダは、はっとしました。シマウマのゼブリのことを思い出したのです。ゼブリは「好き」ということを言っていました。プンダにはその意味がわかりませんでした。ゼブリが言った「好き」と、プンダが抱いているこの気持ちが同じ種類のもののような気がしました。それはとっても大事な気持ちのように思いました。
プンダは、アイマに恋をしてしまったようでした。
アイマはプンダの毛をなでながら、「あたし、プンダの白い毛が大好き」と言いました。
本当のプンダはシロクマではなくてパンダで、白い毛だけでなく黒い毛も生えています。ですから、アイマが「大好き」だというプンダは、本当のプンダではありません。でもプンダは、
「シロクマのままでもいいかもしれないなぁ」
と、考えてしまうのでした。
(第7話 おわり)
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