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(みんなの広場)インターンシップと大学生の自由(という幻想)

 「インターンシップで『あ、この子だめだな』と思われて本選考で落とされた事あるから…」
 我がアパートの入口で、就職活動を終えたと思しき男女が立ち話していた内容である。

 曰く、採用担当者はインターンシップの頃からすでに学生の見定めを始めているという。なんならインターンシップ自体が隠された採用選考であると。そのため、本当に志望している企業のインターンシップに行くのは愚策であり、同じ業界の志望度の低いインターンシップに行って雰囲気を掴むほうが良いというのが、彼らの持論のようであった。

 なんとも慎重な戦い方であり、きっと優れたバランス感覚の日本企業人になるであろうと思わせる。しかしそれはそれとして、この言を聞いた私は考えてしまった。では、彼らは(かつ一応大学生である私は)、いったいいつから「就活」を始めればよいのだろうと。

 現在一般的にインターンシップは、大学3年の夏休みが1番の盛りであると、私は認識している。最近は2年次から行くこともある、などとも聞いているが、ひとまずは3年夏を本場と考えてみよう。すると少なくとも、申し込みが始まる3年の初夏頃には、どの業界を受けるか、ある程度決めておかねばならないということになる。

 さらに、彼らの言葉に従えば、インターンシップは一種の零次選考であるということになる。インターンESや出社期間中の自己紹介トーク、担当者とのメールのやりとりなど、いかにもいたるところに人事の目が張り巡らされていそうだ。所によっては自己PR動画や自己PR作品の提出を求められることもあるという。そうしたものを万全の状態にしてインターンシップに臨もうとするならば、3年の春に始めるのは業界決めだけではなくいわゆる自己分析やら面接練習やら、ということになる。もちろん、彼らの言っていることが事実であれば、だが。

 ところで、大学3年生という言葉から思い浮かぶものを連想してみてほしい。いわゆる「文系」卒の私が思い浮かべるのは「1番楽しい時期」という言葉だ。教養科目は2年生までにある程度取り終え、週に3日ほど専門科目の講義やゼミに出ればよい。大学生活の旨味のようなものがわかり始め、本当に仲の良い人たちというのがはっきりしてくる。卒論もまだ真剣味を増しては来ず、時間と心の余裕を盾にしてちょっと難しい本に挑戦したり、サークル活動の最後の1年に精を出したり、今のうちにと海外旅行にいったりという、楽しく濃厚な1年の印象なのだ。

 果たして、こんな大学3年生は一体どこに行ってしまったのだろうか。それとも、本当はそんなものは夢の中にしかなく、そういう経験をしたという人間は「厳しい社会」の現実が見えていない愚か者ということになるのだろうか。もしそうであったならば、大変お恥ずかしい限りである。

 だが、だがである。それでも私は駄々をこねたい。駄々をこねるために中国の就活事情を引き合いに出す。中国では、就職活動が最も激化するのは、卒業後の半年〜1年であるという。大学を出た就職を望む若者たちは、各企業にインターンを申し込み、結構な期間働いてみるのだという(この申込みや就業期間中に激烈な生存競争があることは言うまでもない)。もちろん、在学中に自己分析や企業探しをするのは当たり前なのだろうが、1番大学生らしい時期を生贄に捧げて、ではないだろう(中国の大学は日本のものよりも、全寮制だったり教員からの補助や救済が少なかったりと少々厳しいので、同じ感覚で考えると良くないだろうが)。

 そう、インターンというのは、本来「本就職する前にとりあえず働いてみる期間」のはずなのだ。働こうという若者たちは企業に勤めてみて、その会社に本当に勤めたいか考える。企業は企業で、使いにくそうな人員を見分けて切ったりする。

 そこに来て、日本のインターンというのは不思議なものである。確かに企業側からすれば、早めに良さそうな人材に目をつけておけるし、ダメそうな人を適当にあしらう準備もできるだろう。しかし、働く側、大学生の側が得るものが、少し少なすぎないだろうか。未だ社会のルールに染まりきらず、大学生の自由をようやく身につけてきた不器用な若者が、貴重な休み期間を捧げて、1週間かそこらの就業体験(いつどこで誰に評価されているか分からない)と引き換えに得られるのは、「こいつはダメそう、本選考に来ても期待しないどこ」というレッテルである。それを避けたければ、3年生の早くから、あるいはもっと前から、就職を考えた振る舞いを身に着けることが望まれている。

 もちろん、日本の就職慣行は、諸外国のそれと比べれば大分穏当な、苛烈さが表に出ないものという利点はあるであろう。だが、新卒採用という制度が、その採用時期の慣行をなくすことなく、よりフレキシブルな人材選考を取り入れようとする時、人買いの目線はモラトリアムの奥深くに突き刺さり、自由を学び取ろうとする若者の手足をもてあそぶ繰糸となるのである、ある、ある…(フェードアウト)。

 …格好つけた愚痴はこの程度にするとして、やはり3年生の時から自己分析やら企業研究やらをしておいたほうが、就職上かなり有利なことに変わりはない。屁理屈をこねず、社会を見つめながら自分が何になりたいかを見極めて戦略を練れば、少なくとも悔いの少ない就活戦線になるはずだ。その手段の一つとして、インターンシップは行っておいて、きっと無駄にはならない。なんならこちらから優良企業をかっさらいにいく姿勢でいたほうが、現代の労働社会を生きる若者としては健全なのかもしれない…。いろいろ落ちまくったプータロー老害院生は、諸君らに幸多き就職があることを祈る。

〔いなかむら(文系院生)〕

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