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祖父が免許を返さない⑪:祖父のセカンドオピニオン ~脳神経外科編~
脳神経外科へ
脳神経外科に到着し、問診票に祖父の病状を記入する。
痛風の診断は出ているが、絶対にこれはおかしい。
痛風で足を引きずることはあったとしても、足元がふらつく、まっすぐ立っていられないなんてことがあるのだろうか?
どこか脳に異常があるに違いない。
ほぼ確信に近い気持ちで問診票に記入していく。
(補足しておきたいのだが、痛風が誤診だったわけではないと思う。
実際、祖父の尿酸値はかなり高かったため、足が痛いと言えば間違いなく痛風の症状が出たと診断されると思われる。
おそらく言葉少なな祖父が、足元のふらつきなどを言わなかったため、上記の診断になったのだろうと私達家族は考えている。)
祖父の名前が呼ばれて、一緒に診察室に入る。
実は一度私はこの脳神経外科を受診したことがあり、今回の病院を選んだ。
所謂「名医」と呼ばれる脳神経外科の先生だが、物凄く物腰柔らかで丁寧で、きっと祖父にも根気強く付き合ってくれるであろうと思ったからであった。
そして、この先生が私達家族を大いに救ってくれることになる。
祖父は案の定、必要最低限のことしか説明しないため、私が説明を補足する。
足が腫れたこと・痛風と診断されたこと・ふらつきがひどいこと・まっすぐ立っていられないこと…など、心配から色んなことを話してしまった。
先生は全てを丁寧に受け止めてくださり、まずはCTとMRI検査をすることになった。
一度受付に戻り、祖父の検査を待った。
検査は15~20分ほどで終了した。
祖父もそこまで負担に感じることもなかったようで、検査終了後も「なんてことないわな」と言っていた。
祖父の検査結果
しばらくしてまた祖父が診察室に呼ばれ、CT・MRI検査の結果を説明された。
・脳は全体的に綺麗
・小さな脳出血はいくつか見受けられるが加齢によるものだろう
なんと…祖父の脳は異常ないのか?と思った刹那、次は悪い点を説明される。
「いい話をした上で、悪い話をする」。
小さなことだがこういうところに気を遣って患者と向き合っているのだなと、改めてこの病院を選んでよかったと思った。
・小脳に病巣のような白いモヤが少し見受けられる(詳細不明)
・小脳が委縮しており、これにより運動機能に障害がでていると思われる
(足がふらつく・まっすぐ立っていられないのもこのせいだろうとのこと)
祖父は小脳にトラブルがあったのだ。
診断を聞いた私は、いろんな感情で胸がいっぱいになった。
原因が分かってよかったという気持ち・連れてきてよかったという気持ち・脳という未知の領域に「何か」があるのだという不安感・祖父は大丈夫なのかという心配・こんな状態なのに運転している祖父への憤り…ここに書き切れないが、沢山の気持ちがこみ上げてきた。
母は尚更思うところがあっただろう。
先生は祖父に丁寧に丁寧に病状を説明して下さった。
ほとんど聞こえていなさそう?聞いていなそう?な祖父に、私が随時耳元で通訳をする。
大きな声を出したりはしないが、祖父自身もまさか脳に異常があると思っていなかったため、祖父なりにかなり驚いているようだった。
「この状態でもまだ運転しているんです、免許返納も拒否で。」というと、「それは危ないのでやめましょう」と先生。
だが、祖父はその場ではふんふんと言うものの、全く免許返納する気はなさそうであった。
また、白いモヤは精密検査をしないと分からない為、造影剤を使っての検査が必要になるとの話だった。
しかし、祖父は腎臓にもトラブルがある。
造影剤を使うことの方が、リスクがありそうなため、来週の泌尿器科の精密検査の結果および泌尿器科の先生の造影剤使用可否の診断を持って、今後の検査方針を決めていこうという話になった。
「付き合いは短いですが、私も今日から主治医です。色々不安なことも多いと思いますが、一緒に解決していきましょうね」
と、先生は祖父に言ったあと、私達に向き直り
「これから困ったことがあれば、何でも相談してください。できる限り力になります。」
そう強く仰ってくださった。
精密検査終わりの一週間後に再受診することになったが、私達家族は、免許返納に一歩近づいたのではないかと希望の光が見えていた。
第三者に味方がいるというのは本当に心強いことなんだと改めて感じながら、祖父の病院通い初日は幕を閉じた。