岐阜県の中小企業の価格転嫁
ご存じの通り、岐阜県内企業の99%は中小企業であり、勤労者の約8割は中小企業で働いています。デジタル化の推進は、企業の収益力向上や生産性向上に大きく貢献し、従業員の賃上げに繋げることで、県民生活、ひいては地域の活性化に直結します。
(2)デジタルインボイス稼働
配布させていただきました資料をご覧ください。
この度、中小企業のDX支援の一環として開発してきましたデジタルインボイスのサービスが開始されました。皆様のご協力に心より感謝申し上げます。
デジタルインボイスは、従来の紙の請求書に代わり、電子データで一連の業務を処理することで、人手による作業の減少、入力ミス防止、郵便料金の削減など、大幅な時間とコストの削減を実現します。受注者と発注者双方に大きなメリットがあります。とりわけ請求書を受領する企業は、岐阜県の基盤を活用することで、ウイルス対策がなされ、安心で安全に請求書を受け取れ、双方の帳簿保管に役立ちます。
現在、県内企業からの請求を電子データで受理できるよう、県の出納システムとの接続を進めています。さらに、16銀行、大垣共立銀行には、デジタルインボイスのデータを活用して、中小企業の資金管理を支援する法人(ポータル)サービスの提供を依頼しています。今後、県内各金融機関にも拡張していく予定ですので、その先導役として両行には、ご協力のほどお願いいたします。
岐阜県の取り組みについては、デジタル庁、金融庁、国税庁などからも注目をいただいております。また、中小企業庁の金融小委員会では、ゼロゼロ融資後の中小企業への保証融資のあり方に関して中小企業の財務状況のモニタリング情報として、インボイスデータの活用が検討されています。岐阜県の取り組みについて、来年1月に研究会にて報告を予定しております。
現在、無料にて会員を募集中です。皆様のご登録と活用により、この新しい仕組みを育てていただきますよう、お願いいたします。
(3)デジタルインボイスの価格転嫁への役立ち
今、デジタルインボイスの導入を進めているのが、大垣市の排水処理装置メーカー、田中工業所です。社員12人の小規模企業ですが、デジタル化によって正確に把握できるようになった製品の原価データをもとに、従来の経験や勘で行っていた見積もりを、案件ごとに適正な利益が出せるよう業務の改革を行っています。
(4)価格転嫁とは
さて、関市のナベヤバイテクの岡本社長は、価格転嫁について、日本経済新聞のインタビューに答えて、単なる価格値上げのお願いではいけない、賃上げを実現するには、まず協力工場からの価格転嫁を受け入れ、1社あたりの売上依存率を1%未満に抑えるなど、企業体質を根本的に改善し、「価格転嫁しやすい収益構造を築く」、経営の改革が価格転嫁に必要だ、と述べています。
価格転嫁の推進に、デジタル技術を活用した方策を3つ提案しております。
(5)データに基づく交渉力の向上
第一は、正確な原価データに基づいて交渉し、適正利益を確保することです。
各務原市の樋口製作所では、IoTによる地道なデータ収集によって、製品ごとの原価を詳細に把握して、全社、部門横断で改善をしてきました。それに加えて、顧客別の収益データをもとにして、特に儲けの出ない顧客には、断ることも辞さない強力な価格引き上げを交渉しています。
(6)新商品開発と新規販路開拓
第二は、自社で価格を決めることのできる新商品、新市場の開拓です。
美濃加茂市の後藤板金から分社した社員15人、日本エコソニックは、屋根工事の技術を生かし、太陽光発電システムや防災対策の大屋根建築、道の駅の屋根にソーラーパネルを取り付けた「みちヤネ」など、環境問題に特化したビジネスを展開しています。経済産業省の「DX認定」の取得、「ぎふSDGs推進パートナー制度」のゴールドパートナーに登録して、岐阜県のSDGsにも貢献しています。
また、刃物の関市、の若手経営者たちは、マクアケというクラウドファンディングを活用して新規市場開拓に取り組んでいます。(株)サンクラフトは刃物技術を生かしたオリジナルの食パンナイフ、野菜ピラーなどのキッチンツール、ツカダは多機能キーホルダー型カッター、そしてニッケン刃物は、人気アニメとコラボした日本刀型ペーパーナイフ、など、関ブランドの革新を目指し、顧客の視点から自社技術に新たな付加価値を作り上げています。
(7)伝統産業のDX
第三は、岐阜の伝統産業の技能、技術を生かして、世界で岐阜にしかないスーパーニッチな製品を作り上げることです。
岐阜県の伝統産業にもDXの波が押し寄せています。東濃の陶磁器メーカー、光洋陶器のロボット工程、飛騨高山では飛騨産業や、日進木工の高付加価値の木工製品製造とマーケティングのデジタル化、そして130年の歴史を持つ羽島の長谷虎紡績は、70年前の古い機械を活かしながら、IoT化を進め、ロケットに組み込まれる部品など、世界でここでしか作れないという高度な品質の繊維など、「素材と技術で世界を変える」と、知識製造業への転換を目指しています。
いずれの企業も、若い経営者が、伝統とデジタル技術を融合して、存続の危機を乗り越えようとしています。
これらの取り組みに共通しているのは、価格転嫁できない事業領域を縮小し、価格転嫁できる事業領域に特化しようとしていることです。
引き続き、関係諸団体、各位のご指導、ご支援のほど、よろしくお願いたします。
(8)振り返って、
岐阜県の第4次産業革命から8年間、産業のデジタル化をお手伝いさせていただきました。その間、数多くのアトツギの若手経営者がDXに取り組み、大きく育っており、岐阜県産業の将来をこころ強く感じております。