QEEG検査『発達障害の傾向あり』と診断されたときの原因と対処法
自分が発達障害ではないかと心配し、クリニックに相談し、QEEG検査という何やら最新らしい検査をしてもらい、『発達障害の傾向あり』と診断されたことはないだろうか?
自分では軽い気持ちで受診したのに、仰々しいQEEGと称する脳波検査結果と白衣を着たお医者さんに『発達障害の傾向がある』『改善するためには〇〇〇(高額な治療法)が必要です』といわれ、思わず契約したくなるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。その診断、ニセモノかもしれない。
今回は、QEEG検査で発達障害の傾向ありと診断された場合の対処法について、精神科医(精神保健指定医)、脳機能研究者の監修のもと、解説する。『発達傾向の傾向がある』と診断されても慌てて高額な治療法を契約せず、こちらの解説を参照してほしい。
■QEEG検査の結果『発達障害の傾向がある』の実態は?
冒頭で言われるようなお医者さんの発言は診断ではなくセールストークだという。
患者さんの困りごとの不安を煽り、発達障害が原因であると誤った誘導をして、高額な契約報酬を得るための営業というわけだ。
しかし、すべての発言がセールストークだと思ってしまうと、本物の発達障害の特性に気が付かず、大きな被害を受けてしまう可能性もある。では、お医者さんの発言がニセモノか本物か、どのように見極めればいいのだろう。
■ニセモノかホンモノを見極める方法は?
まず、ニセモノである場合、つまりセールストークである場合は、高額な治療の契約に誘導する。『あなたの症状は発達障害の特性からくる可能性があるので、この治療法が一番有効だ』という発言がある場合、それは診断を装っただけのセールストークなので、契約してはならない。
一方、以下の3つのケースについては、ニセモノではなく本当の診断である可能性が高いため、注意深く見極めることが必要だ。
【本物である可能性が高い発言】
・発達障害以外の可能性も、具体的に説明してくれる場合。
・成育歴や発達歴から考えられる現症への影響を、わかりやすく説明してくれる場合。
・薬物治療など、代替治療も説明してくれる場合。
多くの場合、QEEG検査後に高額治療をすすめられるときの発言はセールストークなのだが、そのセールストークをすっかり信じ込んでしまい、その結果を周りの人や、ネット上にアップしてしまい、さらにそれが他の人に誤った情報をまき散らす可能性もある。
検査結果の用紙を渡されるのだが、QEEG検査の結果が何故このような評価になるのかをその場でしっかりと説明を求め、納得がいくまで説明してもらうように注意したい。
ADHDのQEEG検査の利用については、アメリカ神経学会から声明がでているのでその画面を示しておこう。
ADHD診断において、QEEG検査は臨床診察の精度を上げるか?に疑問を呈している。
■納得できる説明をしてくれない!どうしたらいい?
動揺してしまうのは、お医者さんから発達障害についての発言があったあと、しっかりと診断できるのかどうか曖昧にされた場合だ。「ああ、結局、自分が発達障害かどうかはわからないのか・・・」と弱気にならず、落ち着いて以下の対処を試みてほしい。
1)現在の精神医学におけるQEEG検査の意義を、お医者さんに確認する。
2)1で明確な返答がない場合は、お医者さんに精神保健指定医/精神科専門医の資格があるかを確認する。(学会所属だけでは不可。所属だけなら申請してお金払えば入れるから。仮に資格がない場合でも、入院可能な精神科病院(クリニック経験だけでは不可)で3年以上の精神科研修を受けていれば最低限の信頼はできるとのこと。)
3)もし資格がない場合は、何を根拠に診断しているのかを確認する。もし根拠となる論文があるのであれば、その論文の信頼性(どの論文誌に掲載されたか。引用度合はどのくらいかなど)も確認する。
上記の方法で、納得いく説明をしてもらえなかった場合は、そのお医者さんはニセモノの精神科医であり、セールストークのみをクリニックから教え込まれた可能性が高い。
もし英文が読めるならば、アメリカ神経学会のガイドラインや医学文献検索サイトPubmedを利用して、各自で確認してほしい。日本精神神経学会、アメリカ精神医学会、アメリカ神経学会などが適切だろう。
■うっかり高額な治療に契約してしまった場合の対処法は?
冒頭で「あなたの困りごとは発達障害の特性と診断し、高額な治療へ誘導するのはセールストークでありニセモノ」と説明したが、万が一、ニセモノの診断と気が付かず誘導されるままに高額な治療を契約してしまった場合はどうすればいいのか。慌てずに、契約書を読み返し、返金もしくはクーリングオフをしてしまおう。
クーリングオフとは、一定の契約に限り、一定時間、説明不要で無条件で申し込みの撤回または契約を解除できる法制度である。しかし、実際に治療してしまった回数については返金できない可能性が高い。
また、ニセモノの診断であっても、高額な治療自体は脳に良い影響がある場合も多いという。脳はとても複雑な臓器であり、高額治療によるプラシーボ刺激であっても偽薬効果と同じように、不調が改善することも多いのだ。高額な治療を行っているということ自体が、治療効果をもたらすという心理効果があるという。ニセモノの診断をされても、治療自体は効果がある場合も多く(脳に対する刺激治療は、うつなどの症状に幅広く効果が期待できる)、そこはあなたのお財布事情と相談といったところだろう。
■結局、発達障害対策はどうしたらいいの?
では、こうしたニセモノの精神科医のセールストークを受けないようにするためには、どのような方法があるのだろうか。
基本的な対策としては、不用意にQEEG検査を受けに行かないことや、ニセモノの精神科医からの説明を真に受けないことなどが挙げられる。また、万が一QEEG検査を受けに行ってしまった場合は、お医者さんから説明されたときに、追加してこちらからどんな質問をするかしっかりと準備しておくことも重要だ。
さらに有効な対策として、QEEG検査の結果についてセカンドオピニオンを受けたり、QEEG検査についてアメリカ神経学会のガイドラインなどを読み込むという手もある。たとえばアメリカ神経学会の場合、主な主張は3点ある
・アメリカ食品医薬局(FDA)は2013年に頭頂部Czの脳波θとβの比率を、6~17歳におけるADHD診断の「支援(aid in the diagnosis)」とした。
・診療評価の「支援」として「のみ」使用すべきであり、QEEG検査のみで診断に利用してはいけない。(not to be used)
・ましてや成人の発達障害においては現時点では推奨されない。(it cannot be recommended)
以上のように、アメリカ神経学会はQEEG検査を6~17歳のADHD診断についても「支援」としてのみ使うようにガイドラインで注意喚起し、ましてや成人の発達障害については、安易な利用を戒めているのだ。
QEEG検査という目新しい検査に興味を惹かれ、誤ったニセモノの診断に惑わされ、自分自身を見失わないようにしてほしい。
学会が出しているガイドラインはいざという時の頼みの綱。英文を読める必要はあるが、日本語翻訳でポイントは素人にも読み取れるし、精神科医療に携わる人にとっても、惑わされることを防いでくれる防波堤になる。複数の信頼のある精神科医に質問し、意見を聞くのも良いだろう。
■不安に煽られないことが第一、落ち着いて対処するのが第二
脳波検査をして、いきなり「あなたは発達障害の特性があり、今の困りごとはそれが原因だ」などと言われれば、普通の人であれば慌てるに違いない。QEEG検査という一見すると最新のネーミングに目を奪われ、セールストークにうっかり騙されてしまうと、自分だけの被害にとどまらず、それを見聞きした他人に迷惑をかけてしまう可能性もある。まずは落ち着いて、本記事に記載した対処や対策を行ってみて欲しい。
文:増田啓二
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