法務&内部監査 兼務奮闘記
この記事は「裏 法務系 Advent Calendar 2020」の12/8分として投稿してます。初参加!wakatebenさんよりバトンをいただきました。
今日は、私の法務と内部監査室の兼務の経験を通じて感じた事を、文献とか引かずに主観だけで記します。この機会なのにあまり法務っぽくない内容になってしまいましたが、これから部下を他部門と兼務させることになりそうな人、そして、これから兼務をすることになるかもしれないすべての人に対する提言と捉えていただければ幸いです。
以下、いつもどおり、である調で行きます。
法務ブログって、もしかして、ですます調が多い?
さて、兼務にも色々な形があるが、今回は、一つの部署で様々な業務を遂行するというものではなく、異なる部員で構成される複数の部署に所属し、働くことをいう。
私が兼務になった経緯
私は前職で、カスタマーサポートのスーパーバイザーという立場から、内部監査員に転向した経験があった。1年半と短い期間ではあったが、上場前のタイミングから、内部監査室の立ち上げや、内部統制構築等もしていたので、期間の割には良い経験はできた。
上場後すぐに「上場果たせたし、内部統制構築もできたから後は他の人にやらせればよろし。それより、手が足りなくてヤバイ法務を、君にはやってもらいたい」といった打診を受け、法務に転向することになった。
正直、もう1年ぐらいは内部監査の経験もしておきたいところではあったが、長く内部監査をやりたいと思っていたわけではなかったので、最初に内部監査室に抜擢されたときより、迷いなく法務への転向を決意した。
それから3年が経ち、今の職場に転職することになった。
入社前のオファー面談で、断っても採用するという前置きのもと「もし良ければ内部監査室と兼務してほしい」と言われた。正直、法務としてのレベルを上げるために転職したのであり、内部監査業務はこれっぽっちもやりたくなかった。兼務の経験もないので不安でもあった。
そこで「兼務となると、各業務の優先度付けや業務バランスを取るのが難しそうだが、そこは大丈夫なのか?」という旨の質問を管理部門の部長にしたところ、「そこはH氏(私の法務での上司となる弁護士)も内部監査室マネージャーを兼務するので大丈夫」と、何が問題なのか分からないという感じで回答を得たので、それ以上は踏み込まなかった。しかし全然大丈夫ではなかった事は後に分かる。
あまり嬉しくないお願いではあったものの、中途半端な内部監査の経験を風化させる前に補強しておくことはマイナスにはならないし、多方面で活躍できたほうが重宝される。入社意思も固まっていたところでもあり、法務メインでやりたい旨、伝えた上で引き受けることにした。入社前後は「なんでもやりまっせ」精神が大事だし。
…というより、このタイミングでNoと言う勇気がなかっただけである。
入社からの兼務状況
内部監査室唯一の専任者のS氏とH氏の関係はお世辞にも良いとは言えなかった。H氏は内部監査室の業務にあまり立ち入らず、S氏は私に気を使い私に最低限の内部監査業務しか振らなかった。当初の私はそれで、法務に注力できていたので、特に問題を感じていなかった。
しかし、S氏の業務は見える化されていなかった上、漏れたり遅延することが頻発していた。しかも、それがしっかり報告されないものだから、ギリギリのタイミングで監査法人に出すべき資料が出されていない等、問題が発覚する。そのせいで、私が急にリカバリー業務に回らざるを得ない事が何度か発生し、結構苦労した。
S氏は充分に経験のある方だったので、手が足りないなら事前に私に仕事を割り当てるだろうし「内部監査業務は、S氏に任せておけば大丈夫だろう」と私もH氏も軽く考えていたのだ。しかし、これも全然大丈夫じゃなかったのである。
法務業務だけでもやることはいくらでもあったので、私は、法務業務は積極的に取りに行くが、内部監査室の業務は言われたことだけやるというスタンスにしていた。兼務マネージャーであるH氏は、内部監査の経験・知見があるわけでもないので、法務業務で結果を出した方が評価されやすいという現実もあった。この結果、私が所属しているにも関わらず、炎上に気づかないという有様で、内部監査室において成果を出したとは到底言えなかった。
そういった状況の中、私個人の(主に法務側での)働きを高く評価をしてもらえても、兼務の内部監査室側がボロボロの状態だと、あまり胸を張れたもんじゃないな、と気持ち悪さばかりが残った。とは言え、法務業務に加えての内部監査業務に、自分からゴリゴリ入っていく余裕は当時の私にはなかったので、どうするのが正解だったのかはよく分からない。兼務の難しさを痛感した一幕であった。
内部監査室専任マネージャー入社
今年の7月になると、唯一の内部監査専任者であったS氏は会社を去り、新たにT氏が内部監査室専任のマネージャーとして入社した。
この頃には、内部監査室に明らかにマネジメントが足りていない事は明らかになっていた。T氏は、そのレイヤーで人材採用をかけ、想像以上に首尾よく獲得できた人材である。内部監査のマネージャー層は応募自体が非常に少ないので、マッチした人材が早期に見つかることは奇跡的だと言える。これにより、私の兼務が解かれる日も近いかに思えたが、T氏は、経験・実力・行動力のあるタイプの内部監査マネージャーであり、兼務の私が存分に活用されるようになるのである。
T氏は、これまでの自社及び子会社の全体の内部統制評価資料や監査手続きについて確認する過程で、それらの質が著しく低く、会計監査人の監査工数を増加させている恐れがあることに早々に気づいた。彼は、それらの内部統制評価資料を総ざらいして、より良いものに作り直すことを一つのミッションとして設定した。私が内部統制構築の経験者であることもあり、その相当割合を、私が担当することになったのは言うまでもない。
この頃には、通常の法務業務はほぼ私一人で何とか回している中で、内部監査の重めな業務が乗っかって来ることになった。
兼務はつらいよ
それでもT氏は、私の繁忙状況をある程度確認しながら、仕事を振ってくれたので、正しく兼務者を活用していたと言えよう。指示も明確になった。しかし、法務業務だけで頭も体も満杯の状態で乗っかってきた業務はなかなか重かった。その業務自体へのモチベーションが低いので尚更である。
日々忙殺されると、1件1件の法務チェックや相談も、細かく検討できず、スピード重視で質を犠牲にしたり、是正したい部分を後回しにせざるを得なくなる。並行して進んでいくM&Aについても、最低限の関わり方しか出来ない。本を読む時間も減った。これでは、付加価値を出すどころではない。
法務業務としてやりたいこと、チャレンジしたいことがある中での内部監査の資料作成や評価業務は、これまでの経験を活かした作業でしかなく、スキルアップに繋がるものではない。法務としてのスキルアップを志向している中で、時間と脳が兼務の方に持っていかれるのは、ストレスになる。
せめて、兼務手当てを…!
兼務解消に向けて
私としては自社の法務業務は好きだし、やりがいもあるので、いかにして内部監査の兼務を解消するかというのが目下のテーマになった。直属の上司H氏にも、内部監査室マネージャーT氏にも、ちょこちょこジャブを打って、その意向は伝えてきた。
その甲斐あってか、前職で法務業務の経験が少しだけある経理担当のM氏に兼務で法務を手伝ってもらえることになった(⇦それでいいのだろうか…)。兼務者の気持ちがわかるだけに、M氏が辞めたくならないよう意向を聞きながら、適切な兼務マネジメントをしていなくてはならない。そう、兼務マネジメントは非常に気を使うのである。
それに加え、顧問弁護士との契約や総務のサポート強化等により、法務業務を分散できる見込みが立ってきた。
・・・って、あれ? 相対的に内部監査業務が増えてしまうのでは?
法務よりも内部監査のサポートができる人材の方が稀少なので、内部監査室の専任者がもう1人採用されることは考えにくい。私が内部監査の兼務を抜けられるのは、内部監査の兼務ができるような別の人材が入った時なのかもしれない…。
まあ、少しでも身軽になれば、やりたいことができる時間も増えるから、取り敢えずは良しとしよう。
ともかく、意に反して兼務業務をすることになってしまった場合は、本業を目一杯頑張って成果出して、兼務業務はそつなくやって、評価された上で、兼務解消したい旨を言い続けるという事が効果的なのだろう。
法務が内部監査室機能を持つことの是非
兼務しんどい話をして来たが、リスクを扱う業務・法律を扱う業務として、法務と内部監査の親和性は高い。経理や内部統制の知識を得ると、事業部や経理とお金に関する話も堂々とできるようになるので、内部監査の経験をすることはオススメできる。内部統制評価に使用する業務フローを細かく把握して、その中からリスクを検証するというプロセスも、リスク感度が上がり、法務業務にも繋がる経験になる。
そのため、法務部門が内部監査機能を持つことでには大いに賛成である。
厳密に考えると、内部監査室はあくまでも会社の事業活動を監査・助言する立場で、法務は会社の事業活動を時に実行する立場にある。内部監査室は、独立していないと、コンフリクトの問題が生じる。
お金に直接絡むことが少ない法務には、監査したいポイントが少ないとも思えるが、内部監査の結果、会社のルールが不足している又は実態とあっていないという指摘をすることは多い。これを自分で指摘して自分で是正するというのは、マッチポンプ臭はあるものの、結果的に問題解決できるなら悪いことではない。
問題になるのは、監査業務に置いて、法務の問題を隠して合格を与えるという恣意的な運用ができてしまうことだ。しかし、考えてみると、積極的にリスク対応に動くべき法務が重大な問題をあえて隠蔽するような体たらくなら、内部監査以前にもう会社が全体的にダメなんだと思う。諦めた方が良い。
と、言いたいところではあるが、現実的には、法務部門が内部監査機能も持っている場合には、他部門との兼務者を1人以上入れるのが健全だ。その上で任期を1~2年程度にして、色んな人に持ち回りで内部監査を経験させるのが良い。
結論
兼務は、確かに会社にとっては便利であるし、短期的に安定したパフォーマンスを出させやすい。リソースが余っている部署から、リソース枯渇部署への短期的な補充としては、最適ではなかろうか。
また、個人を短期間で大きく成長させる可能性もあると言える。ジャンルが違うことを同時期にするときは、脳を切り替えなくてはいけないので、単純に仕事が多いときと違った難しさがある。丁寧に仕事がしたいタイプの私にも、大量の仕事をこなすために、どこに手を抜くか選別する能力がついたのかもしれない。
しかし、これまでに述べてきたように問題点は色々ある。
①兼務者が、業務過多により疲弊する
②マネジメントが行き届かず、兼務者の適切な指示出し/評価ができない
③兼務者の本業の質が停滞・低下する
その行き着く先として、兼務者のモチベーションが低下して退職してしまうこともあるだろう。そうなると、兼務対象の2部門に穴が空くことにもなってしまう。
結論、兼務は以下のいずれかに該当する場合に限るのが良い。
①兼務候補者が自ら求めた場合
②兼務候補者のリソースに十分な余裕がある場合
③兼務候補者の昇進やキャリアアップを目的とする場合
④兼務自体が目的の場合(部門横断のミッション遂行、異動の引き継ぎ期間等)
いずれにせよ、永続的に続けるべきものではないので任期は決めたほうが良いだろう。そして、何より兼務者の上司には、通常よりきめ細かで高度なマネジメント能力が求められる。その辺りは、しっかり理解しておいて欲しいところである。
随分長文になってしまいましたが、読んでくれた方ありがとうございました。お次はokmrkj_classさんです。