北米アニメ研究所3|カナダの山の上の有名大学に5000人ものアニメファンが集結した理由
本社を香港に構えながら、開発はカナダ、デザインはロンドン等、世界中のネットワークを使ってサービスの展開を行なう企業、KLKTN(コレクション)。そんなKLKTNが発信する本noteは「北米アニメ研究所」と題し、グローバル市場での事業展開の中で築いたネットワークを生かして得た知見をもとに、北米に住むアニメファンの実態に迫るインタビューシリーズを展開します。これまで把握が難しかった海外のアニメファンの実態を、「統計情報」ではなく「エピソード」を交えてお伝えすることで、是非多くの国内のアニメ業界関係者の皆様には、グローバル市場における「日本のアニメ」の新たな価値を掘り起こし、新サービス・プロダクトを検討するきっかけを作っていただければと考えています。
前回と前々回に続き、引き続き、カナダのブリティッシュコロンビア州バーナビー市にメインキャンパスを構えるサイモン・フレイザー大学(以下、SFU)のアニメクラブに所属する皆さんにお話を伺いました。同校は、雑誌「Maclean's」が発表する国内総合大学ランキングでも15年連続で1位を獲得するなど、カナダを牽引する州立総合大学。ビジネスやアート、犯罪学、刑事法学、コンピューターサイエンスに強いことでも知られています。
SFUアニメクラブのディスコード(※アメリカ発のゲーマー用チャットサービスとして登場したコミュニケーションツール)の登録者数は、現在3100人ほど。「SFUサマーフェスティバル」というクラブ主催のイベントを開催した時には約5000人もの人が集まったそうです。そんなカナダ国内でもトップクラスの盛り上がりを見せるアニ研。今回はクラブの特徴や、運営の裏側に迫りました。
SFUに進学した理由を聞かせて
Matteo:もともと犯罪学を学びたい思いがあって、この大学にはすごくいいプログラムがあるって聞いたんだ。卒業後は警察官になりたいんだよね。バンクーバーポリスか、RCMP (Royal Canadian Mounted Police)っていう国の警察組織に入りたい。
Jaz:僕はキネジオロジー(機能的運動学)を、科学的根拠に基づいてしっかり勉強できるところを探していたんだ。それでSFUに決めたよ。
Kyu:実は僕は違う大学にいっているんだ。SFUアニメクラブ(以下、SFUアニメ)には所属しているんだけど、通っているのはブライトンカレッジだよ。
Ono:僕はもともと1年生までUBC(ブリティッシュコロンビア大学)にいたんだよね。UBCアニメクラブ(以下、UBCアニ)にも入会して、友達もたくさんできた。新入生だったし、もともと内向的な性格なこともあって対面イベントにはあまり行かなかったけど、ディスコード(※ゲーマー用に開発されたコミュニケーションツール)での交流は楽しんでいたんだ。
ある日そこで、(今SFUで所属している)デザイン学科専攻の人に出会ったんだ。仲良くなって話を聞いたり、ポートフォリオを見せてもらったりしているうちに、「僕もデザインを勉強したい!」って思うようになってさ。結局その彼が、希望の専攻に変えられるようUBCからSFUへの編入手続きまでいろいろと手伝ってくれた。後から判明したんだけど、実はその彼がSFUアニメの当時のプレジデントだったんだ。その流れもあって、僕も自然とSFUアニメに入って、今では活動5年目になるよ。
ほかの皆は、どんな経緯でSFUアニメクラブに入ることに?
Matteo:僕の場合、実は入部当初は何のクラブかきちんと把握していなかったんだ(笑)。従妹が「これアニメクラブだよ?」って教えてくれた時にはびっくりしたのと同時に嬉しくて、そこからいろんな人とたくさん交流をするようになっていった。もともとアニメは好きだったからね!今ではすごく楽しんでるよ。
Jaz:SFUに入学したのは2017年あたりだったかな。でもその頃は、アニメクラブって自分とは割と無縁だと思ってたんだ。新入生が入ってくると、各クラブが音楽を流したりバナーを掲げて新歓の宣伝をしているんだよね。そういう場でアニメクラブのバナーも見かけたことはあった。でも当時は「アニメファンってちょっと変わってるよなぁ」とさえ思ってたんだ。
それから数年経ったある日のこと。その時所属していた別のクラブを代表してとある集まりに参加したら、となりに座ったのがアニメクラブの人だったんだ。ディスコードの話をしてたから気になって会話に加わったら、すごい盛り上がって。それがきっかけで、アニメを見たりアニメクラブの活動に参加するようになっていったんだ。
だから僕がアニメを見だしたのは割と最近!といっても 2010年頃かな。もちろん今ではアニメファンが変わり者だなんて印象は全くないよ! そもそも、ひとつのクラブに所属する人とか趣味を持つ人の個性をひとくくりに表現できるわけがないもんね。
Kyu:僕の場合、最初は友達に誘われてUBCアニに顔を出していたんだ。でもそのうちOnoと知り合ってSFUのアニメクラブで活動するようになったよ。
Ono:Kyuとは、数年前にアニメのイベントで知り合っていたんだ。僕がコスプレをしてたから、Kyuが「写真撮っていい?」って聞いてきたんだよね。その2年後、UBCアニのイベントでまた会って話しているうちに、Kyuが携帯を見ながら「ちょっと待って!僕、君と撮った写真を持ってる!」って言ってきて。そこでお互い、過去にも会ったことがあるって気が付いたんだ。
Kyu:小野寺小咲のコスプレをしてたよね。
Ono:うん。僕がコスプレをする時はだいたいクロスプレー(コスプレの一種で、異なる性別のキャラクターに扮すること)で、小野寺小咲のほかにも、もう2つくらいコスプレするキャラクターがいるよ。メイクアップして、ウィッグをかぶることもあるね。
SFUアニメクラブの運営チームには、どんな役割があるの?
Matteo:僕は「スポンサーシップコーディネーター」として活動している。企業にスポンサーになってもらうように働きかけるのがメインの仕事だね。グッズの割引交渉をしたり、イベントで使う景品を提供してもらったりするんだ。扱うのはフィギュアやプラッシー(ぬいぐるみ)が多いかな。
Ono:コーディネーターとしては、ほかにもSNSコーディネーターやイベントコーディネーターがいるよ。月一でイベントをしているから、そこでこうしたコーディネーターたちが大活躍するんだ。あとはリクルーター、そしてミーティングの議事録をとったりする秘書がいるね。
Jazは今プレジデント(会長)を任されている。前任のプレジデントは僕がやってたんだけど、退任してからはプロジェクトマネジャーとして関わっているよ。グッズ製作を担当したり、それを販売するためのウェブサイトを作ったりしてる。広告を作るのも僕の仕事なんだ。グッズとして製作するのは、パーカーやトレーナーなどのアパレルがメイン。デザインを担当するのはKyuみたいなアーティストボランティアで、アーティストは結構たくさんいるよ。今販売中のグッズをデザインしてくれたのはKyuと、よもぎっていう日本人のアーティスト。アパレル以外にもメンバーシップカードがあって、それを使うとスポンサー企業でグッズを買う時に割引がきくんだ。
UBCアニメクラブとSFUアニメクラブの違いは?
Ono:この2つのクラブはよくコラボレーションもするし、メンバー同士が仲良い人も多い。だから身近な存在なんだけど、それぞれカラーの違いはあるね。
まず、SFUは「コミュータースクール」と言われたりもするんだ。立地的に山の上にあるから、みんな必要な時だけ通学(コミュート)して、授業が終わったら割とすぐ自宅に帰るスタイル。バスを使って通学する人も多いし、寮も周りにあまりない。一方、UBCには寮もたくさんあるし、ビルひとつとってもゆったり活動するスペースがある。敷地サイズでいうと、SFUの3~5倍くらいあるかな。だからUBCではもっと対面でのキャンパスライフを楽しめる環境が整ってるんだよね。
必然的にSFUアニメではオンラインコミュニティーを確立する方に力を入れていて。実際、ディスコードのメンバー数はカナダのアニメクラブとしては実質2位で、最大規模を誇るよ。UBCアニはリアルイベントの動員数もすごいし、そっちで強い絆を築いているね。
ちなみにカナダ国内にあるアニメクラブのディスコードは今、UBCアニがおよそ2700~2800人。SFUは3100人。1位はトロントにあるんだけど、今3400~3500人程度だね。
SFUアニメクラブではどんなイベントを開催しているの?
Jaz:対面イベントとしては、UBCアニみたいに「バレンタインソーシャル」や「ハロウィンイベント」など、季節の行事に合わせてイベントを企画することもあるし、定期的に集まってカラオケやゲームを楽しむこともある。ほかのアニメクラブとコラボして一緒に映画を観ることもあるよ。最後に映画鑑賞をしたのは、去年「ONE PIECE FILM RED(フィルム・レッド)」の映画がリリースされた時だったな。来月は、新海誠の新作「すずめの戸締まり」を観に行くんだ(※本取材を実施した2023年3月時点)。
Ono:「フードイベント」にで、みんなで何か食べに行くこともあるね。だけどコロナが流行ってからは、さらにオンラインでのイベントが多くなった。ジャックポットなどのパーティゲームをしたり、後はアーティストのメンバーたちにも楽しんでもらえるようにアートイベントもよく企画したりするよ。
毎年10月には絵を描くための「インク」と「オクトーバー」をかけて「インクトーバー」と名付けたイベントも実施しているんだ。期間中は、参加者が毎日絵を描くチャレンジをするっていう主旨。これもUBCアニとのコラボイベントにしたんだけど、さらに規模が広がって去年にはカナダ国内の大学10校ほどのアニメクラブが参加することになった。名前も「カナダアニメクラブインクトーバー」(略してCANItoberカニトーバー)と改めて、大成功だったよ。SFUアニメとUBCアニの両クラブのメンバーのアートワークを見せてるインスタアカウントがあるんだけど、そこのハイライトに、この時の作品もまとめてあるよ。
ほかにもうちのクラブでのイベントとして外せないのが、SFUサマーフェスティバル。これはSFUアニメが企画するお祭りスタイルの大イベントで、キャンパスにアニメファンが溢れてすごく盛り上がるんだ。入場無料にしていたんだけど、去年は4000~5000人ほどの動員数になったよ。
これまでで一番楽しかったイベントは?
Jaz:新入生歓迎会の「アイスブレーカー」かな。僕とOnoともうひとりJastinっていうメンバーで主催したんだけど、アニメクラブを代表して新メンバーにプレゼンするのは僕自身楽しいし、やりがいがあるよ。事前にかっちりと計画して進行を決めるというよりも、その場のノリを大切に進めるんだ。だから、参加者とやりとりをするライブ感が楽しい。
Ono:そういう意味ではあのイベントは、コメディアンのトークショーみたいな雰囲気あるよね(笑)。僕が好きなのは、ほかのアニメクラブと集まって皆で共催する「大学祭」。ノリとしては、「アイスブレーカー」の大規模バージョンって感じもするかな。ほかのアニメクラブのメンバーとは普段からオンラインで話すし、交流はある。でも物理的にお互いのキャンパスが遠いから、一挙に集まるのはなかなか難しいんだよね。だからこそ、貴重なイベントなんだ!
次回は、彼らから聞いた、「コスプレの楽しさ」についての記事を、6月前半に公開予定です。
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