【北米アニメ研究所#1(中編) 】北米アニメファンが好きな制作会社・日本アニメの魅力とは?
本社を香港に構えながら、開発はカナダ、デザインはロンドン等、世界中のネットワークを使ってサービスの展開を行なうベンチャー企業、KLKTN(コレクション)。そんなKLKTNが発信する本noteは「北米アニメ研究所」と題し、グローバル市場での事業展開の中で築いたネットワークを生かして得た知見をもとに、北米に住むアニメファンの実態に迫るインタビューシリーズを展開します。これまで把握が難しかった海外のアニメファンの実態を、「統計情報」ではなく「エピソード」を交えてお伝えすることで、是非多くの国内のアニメ業界関係者の皆様には、グローバル市場における「日本のアニメ」の新たな価値を掘り起こし、新サービス・プロダクトを検討するきっかけを作っていただければと考えています。
前回の続編として、今回もカナダの名門大学・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)にあるアニ研(アニメクラブ)に所属する3人にお話を伺いました。
【前回に引き続き、取材に回答してくれた3名】
みんなの好きなアニメについてもっと深掘りさせて!まず、好きな制作スタジオはある?
アンドレ:特に「ここじゃなきゃ!」っていうのはないけど、「MAPPA」(※1)とか「トリガー」(※2)はいい作品が多いなと思っているよ!
MAPPAが手掛けた『チェンソーマン』では、3D CGI(Computer Generated Image/コンピュータを使って動画を制作すること)が使われていたけど、どう思った?
アンドレ:「MAPPA」はすごく綺麗に3Dをつくるよね!『チェンソーマン』はよくできていたけど、そこに労力をかけるアニメスタジオは他にあまりないように感じる。多くの場合は、CGIだと、コストを抑えているように見えちゃうことの方が多いかな。
例えば、『オーバーロード』で大きなスケルトン・ソルジャーが出てきたときのCGIは、正直コストと時間を削減したかったのかなって感じたな。シーンに馴染んでない気もして、個人的にはちょっとがっかりしたんだ。
マシュー:僕は『Fate(フェイト)』シリーズを手掛けた制作会社の「ユーフォ―テーブル」(※3)が好き。アンドレも挙げてたけど、『サイバーパンク』とか『キルラキル』を作った「トリガー」も好きだよ。両方とも色使いが鮮やかで、アクションシーンが映えるんだ。「トリガー」の作るスローモーションシーンは、カラフルなだけでなく表情のひとつひとつまで拘ってて、そうしたディテールも目を楽しませてくれるよね。
アンドレ:『サイバーパンク:エッジランナーズ』は、とにかくすごかったよね!すごい悲劇で、思わず心を揺さぶられたよ。
マシュー:うん、あれは本当にすごかった!最終話の少し前から見だしたんだけど止まらなくなっちゃって、朝の5時まで一気に見たよ!いつもは「1日3話まで!」とか自分に言い聞かせたりしてるのに(笑)。
『チェンソーマン』の中のチェーンソーを使って身体を真っ二つに切るシーンなど、アニメには残酷な描写もある。なぜそうした作品も、多くの人に受け入れられてヒットするのかな?
アンドレ:それに対しては、個人的に思うところがあるんだ。古代ローマ帝国の剣闘士たちが民衆を熱狂させたように、人々の中のどこかに「狂気じみた暴力を見てみたい」っていう怖いもの見たさの本能があると思う。アニメだけに、「これは空想の世界で、現実の世界とは違う」って境界線も引きやすいと思うし。『チェンソーマン』が例に出たけど、ああいった飛び散る血や肉片のグロテスクな描写は現実離れしてて、でもだからこそある意味本能を刺激するというか…。
マシュー:英語の授業で、このテーマが話題になったことがあるよ。僕が思うに、これはある意味、普段の生活の中で抑圧されたファンタジーなんだ。何かいやなことがあったとしても、怒りに任せて誰かを殴るなんて現実社会ではとてもできない。だけど、空想の世界のアニメの世界で再現されたそれを見ることで、たちまちエンターテイメントになってしまうんだ。
『HELLSING (ヘルシング)』や『Warhammer(ウォーハンマー)』や、『 Alucard(アーカード), Berserk(ベルセルク)』なんかは、そんな暴力とかエグいシーンがたくさん出てくるいい例だよね。『鬼滅の刃』とかになると、暴力というよりは、アクション。
漫画の場合は、心情の動きが丁寧に表現されていて、「悪魔はよくない」とか「自分の中の悪は隠さなくてはいけない」みたいな心の葛藤までよく描かれる。それに対して、アニメの場合はもっと暴力シーンがスピーディーで激しく、ドラマチックに描かれると思うな。
作中に描かれる日本の日常生活シーンは、君たちのような日本に住んだ経験のないアニメファンの目にはどう映っているの?
アンドレ:僕の父はトラベルジャーナリストで、日本へも何度も行っているんだ。そんな父から日本の話はたくさん聞かせてもらってたし、特に不自然に感じることはなかった。
NR:私も、ほとんどの人はむしろそこに好感をもって、惹きつけられているんじゃないかなって思う。「自分の文化よりクールだな」って。
例えば日本では、思春期の複雑な時期にプレッシャーを感じたり、社会から感情を抑圧されてしまうことが多いのかなって、アニメを見てて感じるんだよね。「グループについていかないと」とか、そういう種類のプレッシャー。ここに共感してる海外のアニメファンは、私以外にもたくさんいると思う。しかも日本のクリエイターたちは、そうした場面で人が感じる痛みから情熱まで、繊細なこころの動きを丁寧に捉えていて、個人的にもすごく感情移入しちゃう!
マシュー:同感だよ。切なかったり悲しかったりする繊細で奥深い描写が、ストーリーにより深みを与えてるよね。
あと、僕にとって日本アニメからのカルチャーショックは、複数の女性が一人の男性に好意を寄せるハーレムな設定が結構多いこと(笑)!そして女性がかなり積極的に描かれているんだ。もちろん、古風でそうでない人もいるんだろうけど、男の人を抑え込んで告白するシーンなんかもあって、驚いたよ。
アンドレ:(笑)
今まで何本くらいのアニメを見た?みたアニメは、どうやって記録している?
アンドレ: 今45作品を見終わっていて、36作はまだ見ている途中。リストは「MyAnimeList(マイアニメリスト)」(アニメや漫画の作品情報をリスト形式で管理できるSNSサイト)のフリーアカウントを使ってるよ。主に記録用に使ってて、これから見たいものというよりは、見たものだけリストしてる。時々レビューも書くけど、レビューならほかにもたくさんしっかり書いてる人たちがいるし、それは僕のメインの使い方じゃない。
携帯アプリのノートに記録したりもするよ。社会人になったらまた状況は変わるだろうけど、今はまだ学生だし、こうした記録用ツールに課金するよりは、もっとグッズの購入にお金を使いたいな。
マシュー:僕は「UBCアニメクラブ」に入るまで、ほかの人とアニメ作品の情報交換をすることはほとんどなかったから、「マイアニメリスト」も最近使い始めたばかり。だからこれまで一体何作品見たのか、正確には覚えてないんだけど、だいたい60〜90作品くらいかな。全体的に大作をみるっていうより、短めの作品を見ることの方が多いね。『鋼の錬金術師』なんかは別だけど!
NR:自分が見た作品や気になる作品は、私も「マイアニメリスト」に残してる。200タイトルくらい見たけど、それでもまだ私のリストは少ないなって感じてる。
アンドレ:それは十分多い方じゃない!?まあ、研究会の中には「公開された作品は全部網羅しているんじゃないのか?」って思っちゃうような人もいるからね(笑)
NR:そうなの(笑)。そのうち100作品弱くらいは、漫画も読んだよ。
アンドレ:僕が漫画で読んだのは、3作品。そのうち完読したのは『暗殺教室』だけで、残りの『呪術廻戦』と『SPY×FAMILY』はまだ読み終わってない。
マシュー:しばらくフォローしてないからタイトルをよく覚えてないんだけど、僕の場合、漫画は韓国とかほかのアジアの国のものも読んでた。フィリピン人の作者が書いた『Mage & Demon Queen』あたりもお気に入りだったな。
新作情報はどうやって入手してるの?
アンドレ: 僕は、ユーチューバーのおすすめ作品情報を信頼しているんだ。このあたりのアカウントからの発信は定期的にチェックしてるよ!
中でも「Mother's Basement」は、四半期ごとに新作のレビューをまとめて発表していて見やすいんだ。そのほかにも、掲示板型ニュースサイトの「Reddit(レディット)」の「Anime Memes」あたりに上がってるコメントを見に行ったりもするし、研究会の友だちの意見を聞くこともあるよ。
マシュー:僕の場合、コミュニケーションツールの「Discord(ディスコード)」のコミュニティで友だちにおすすめのものを聞いてた時期もあったけど、今はユーチューバーの意見から影響を受けることの方が多いかな!「レディット」も情報収集に使うけど、そこまで左右はされないよ。「Twitch(ツイッチ)」(ライブストリーミングの動画配信用プラットフォーム)でVtuber(2Dまたは3Dのアバターを使い活動しているYouTuber)が流す配信を見ることもあるけど、やっぱり「ユーチューブ」から情報をとることの方が多いな!
NR:私も以前はオンライン上のコミュニティーにあがってくる情報もフォローしてたんだけど、今は勝手にまわりから情報が入ってきて、既に見れてないリストがどんどん膨らんでるくらいなの。だから新作情報に困るってことはなくて、自分から取りにも行ってない。
でも、もし何かそのシーズンの新作を探したければ、「マイアニメリスト」に行って、その時々のランキングをチェックするよ。「レディット」だとAnime huh(anime_irl)あたりをチェックしてるけど、アニメというよりも漫画の情報がメインかな。アニメを選ぶ時は、試しにさわりや冒頭の部分だけ見てから考えるということはほとんどなくて、一度見始めたらシリーズ全部制覇することが多いよ。
次回のトピックは、みんなのアニメグッズコレクションや、海外からの購入法について。3月頭頃に公開予定です。
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