東方原曲分析「ルナレインボー」
前置き
どうも、Klavierです。またも日が空いてしまいすみません。今回は「ルナレインボー」の分析をします。これまた譜面は今年の春例の後くらいには出来てたんですが、ヘッダーを描くのを先延ばしにしていた結果、表に出すのがこんな時期になってしまいました。自分の記事を読むのが初めてだという方は、以下の記事の諸注意に先に目を通していただけると幸いです。
さて、「ルナレインボー」です。自分が『虹龍洞』で一番好きな曲です。というのはどうでもいいとして、この曲はあまりの特殊性から東方音楽界隈では結構有名だったりします。まずは自分の採譜をご覧いただきましょう。以下のリンクから試聴できます。基本的にはスマホで閲覧することを想定してレイアウトを設定していますので、タブレットなどで見るとこちらの意図した通りに譜面が表示されない場合があります。
まずはお断りから入るんですが、今回は聴こえる限りのパート(+コード)を楽譜に起こしてみました。これは単純に自分がやりたかったからというのもありますが、今回の分析をするには複数のパートを採譜するのが必須だったという事情にもよります。あと、どうもこの曲の全パートを楽譜に起こしている方がいないらしいので、折角だからやってみるかという気持ちもありました。
あと、重要なこととして、今回の楽譜、ドラムは適当です。しかも一般的な記譜法に則ってもいません。なので、あくまでドラムは雰囲気でお楽しみください。これは単に、自分にドラムの知識がないためです。ほんまゴメン。いずれちゃんと勉強したら更新します。
ついでに、パート分けをサボったせいでカイリキー専用の楽譜になってます。実際に弾く際はいい感じにパート分けしてください。
A
まずはセクションAです(キー=B♭m)。6/4拍子で始まっている時点で普通の曲じゃねえ!って感じですが、聴いているうちにどうもそれ以上にヤバいところがあるらしいという心持ちにさせられます。どこがヤバいかというと、やはり拍子ですね。
まず、5小節目からドラムが4/4拍子になっています。ちなみになんですが、本稿の最初で提示したリンク先で試聴できる楽譜の方では、ここでドラム譜が6/4拍子のままになっています。が、これはソフトの機能上の問題です。この先も拍子がエグいことになっていきますが、リンク先の楽譜は小節線をいじれなかったので、表に出ている拍子に小節線を合わせています。また、拍子が各パートで異なる影響で、小節番号もパートによって変わってくるんですが、今回は楽譜の左上に記載した小節番号で説明していきます。
さて、9小節目に入ると、ドラムだけでなくメインのパートも4/4拍子になっていますね。
つまり、このセクションは
①6拍子×8小節+4拍子×2小節=計56拍
②6拍子×4小節+4拍子×8小節=計56拍
という二つの拍子が組み合わさって56拍に収まっているわけです(①がメインメロディ、②がドラム)。このように、同時に複数の拍子が流れることをポリリズムと言います。
…というのは結構有名な話ですが、実はポリリズムには二種類あって、「ルナレインボー」はあまり見ない方のポリリズムです。この二種類というのは、以下の通りです。
①複数の声部が1小節の長さを共有しており、その1小節の中で異なる拍子を重ねる。
②複数の声部が1拍の長さを共有しており、複数の拍子を重ねることで小節の頭がズレていく。
これを楽譜に表してみると次のようになります。
どうでしょうか。①のタイプの方が有名で、例えばショパンの「幻想即興曲」などはこのタイプのポリリズムです。最近話題の音ゲー、「ポリリリリズム」で鍛えられるのもこのタイプですね。もっとも、①のタイプのポリリズムは、実際には拍子記号を段ごとに変えたりはせずに、連符を使ってリズムを変えるのが一般的だと思います。
そして、「ルナレインボー」は②のタイプのポリリズムです。このタイプのポリリズムは、①と区別するためにポリメーター(polymeter)などともいうようですが、本稿ではどちらも「ポリリズム」と呼称します。
さて、セクションAの話に戻りますが、今回は楽譜の五段目にコードを採譜しています。とはいえ「i→♭Ⅵ→Ⅴ/Ⅶ」という東方原曲では非常によくみかけるコード進行になっているため、特に語ることはありません。これは、「i→♭Ⅵ」という、ZUN進行の反行形(i→♭Ⅶ→♭Ⅵ)の♭Ⅶが省略された形が、Vに進んで半終止になっていると捉えるのが一番わかりやすいと思います。セクション最後の「V/Ⅶ」については「ⅶdim」と捉えても響きの上では問題ないです。
メロディについては、何だか古の東方原曲を彷彿とさせる高速アルペジオで聴いていて気持ちいいですね。自分の採譜は何か原曲と印象が違うんですが、アクセントとペダルをつければそれっぽくなります。多分。
B
セクションBです(キー=B♭m)。7/4拍子のメロディが入ってきて、6/4拍子のアルペジオは裏に回りました。ドラムはずっと4/4拍子です。
楽譜作成ソフトの都合で、4,5段目の音符がわけわかんないところでタイで繋がってますが、大目に見てください。(6拍子らしく、付点2分・付点2分をタイで繋ぎたかったんですが、色々と無理やりポリリズムっぽくしているせいでできませんでした)
7/4拍子が入ってきたことでさらにややこしいことになっていますが、ここでは①メインメロディ(7拍子)②アルペジオ・コード(6拍子)③ドラム(4拍子)の3つの拍子が流れているとみてよいでしょう。拍の内訳は次のようになります。
①7拍子×8小節=計56拍
②6拍子×8小節+4拍子×2小節=計56拍
③4拍子×14小節=計56拍
7拍子は3+4(3+2+2)で取ってますが、実際神主がどう考えているのかはよくわかりません。それにしてもこの7拍子のメロディ、一発で憶えられた人っているんですかね?個人的に、ここ最近の神主の曲の中で一番劇伴っぽい部分だと思ってたりします。コードがV/Ⅶになるところで、メインメロディもその影響を受けているのがいいですよね。
あとは、自分の採譜だと裏で鳴ってる6拍子のアルペジオが意図しない響きになってて面白いですが、原曲だとベロシティを上手く調整してて、変な響きにならないようにしてますね。普通に聴いている分には、裏のアルペジオはほとんど聴こえないんじゃないでしょうか。
コードについてはセクションAと同じなので割愛します。
C(前半)
セクションC前半です(キー=B♭m)。満を持して4/4拍子のメインメロディが入ってきました。サビです。セクションBの裏で鳴っていた6/4拍子のアルペジオは、このセクションでは鳴っているのかよくわからなかったので採譜していません。が、コードの移り変わりがおそらく6拍子なので、6拍子のビートは失われていません。
ここのビートは①メインメロディ・ドラム(4拍子)②裏のメロディ(7拍子)③コード(6拍子)からなり、その内訳は以下の通りです。
①4拍子×14小節=計56拍
②7拍子×8小節=計56拍
③6拍子×8小節+4拍子×2小節=計56拍
コードはセクションA,Bと変わりません。というか、この曲はずっとコード進行が同じで、転調こそしますが、ディグリーで見ると本当にずっと同じコード進行を繰り返しています。
C(後半)
セクションC後半です。半音上に転調して、キーがBmになっています。ここの転調すき。キーが変わるのでセクションCは前半・後半に分けましたが、キー以外に違うところはないので、詳しくはセクションC(前半)を参照してください。
A'
セクションC(後半)のキー(Bm)のまま、6/4拍子のアルペジオが戻ってきました。キーの他には、ドラムパターンも最初のセクションAとは異なっています。ドラムは4/4拍子ということにして採譜していますが、正直6/4拍子な気がしないでもないです。4/4拍子として話を進めると、このセクションでは①アルペジオ・コード(6拍子)②ドラム(4拍子)の二つの拍子が流れていることになります。56拍の内訳は以下の通り。
①6拍子×8小節+4拍子×2小節=計56拍
②4拍子×14小節=計56拍
メロディ・コードについてはセクションAをご参照ください。
B'
半音下に転調して(というか元の調に戻って)セクションB'に入りました(キー=B♭m)。ここは多分セクションBと完全に一致してるので、詳しくはセクションBの方を参照してください。
C'
セクションC'です。ここもセクションCと特に変わらないので、解説はそちらを参照してください。途中で半音上に転調するのも変わりません。ループ前に2拍分無音の時間を挟む点のみ異なります。
まとめ
というわけで、究極のポリリズム「ルナレインボー」を見てきましたが、いかがだったでしょうか。全体的に、複雑なのは拍子だけで、その他コード進行や構成はむしろ単純な曲だったと思います。特に構成については、Aメロ(セクションA)、Bメロ(セクションB)、サビ(セクションC)を繰り返すだけなので、東方原曲の中でもかなり簡素な方ですね。
しかしなんというか…楽譜の完成度が微妙なので、いずれちゃんと書き直したいです。特にドラム。あとは拍子記号をもうちょっとこまごまと入れた方がよかったかなあ、などと反省点が多い内容になりましたね…。今の自分の実力ではこんなもんです。すみません。後は未来の自分に頑張ってもらいます。
さて、最後になりますが、本記事が皆さんの東方原曲ライフの何らかの足しになれば嬉しいです。神主は本当にどうやってこんな曲を書いたんだ…。
音楽的な部分の参考文献は以下にまとめていますのでよろしければご覧ください。
事務連絡
弊サークル、秋例出ません!!!!!!!!!!!
次に参加する即売会はおそらく来年の春例になります。なんとか新刊を出せるようにしますので、しばらくお待ちください。『東方原曲分析入門』も再版するつもりでいます。どうぞよしなに。
noteでの活動についてですが、おそらく新刊の内容に関わる分析記事を来年の春例までにいくつか出すんじゃないかなあと思います。多分。またヘッダーが書けずに日が経ったらすみません。ではまたどこかで。
2024/09/24 小惑星「トリフネ」に感激しながら
※本記事は上海アリス幻樂団様の作品「東方Project」の二次創作です。