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日本中のSNSで見えた「場所と行動」と「感情」のリアル──AIが読み解く意外なつながりとは?

SNSを眺めていると、「このお店、最高!」「駅が混みすぎてストレス……」なんて投稿を見かけることってありませんか? 私自身も、どこで何をしているかが感情表現に影響するんだろうなぁと薄々思っていました。そんな「場所と行動」が感情にどう関わるのかを、大量の日本語ツイートをAI解析して解き明かした研究があります。論文タイトルは「Emotions, behaviors and places: Mapping sentiments with behaviors in Japanese tweets」。2024年12月に学術誌『Cities』に掲載。なにやら大がかりで、読んでみると新しい発見が多かったので、ここでわかりやすくご紹介します。



研究の背景と目的

人々の感情と行動を「大きなデータ」で捉えたい

近年、SNSには「いつ」「どこにいて」「何をして」「どう感じたか」を書き込む人が増えました。特にTwitter(現・X)のジオタグ(位置情報)付き投稿は、ユーザーが訪れた場所や、そのとき抱いた感情をほぼリアルタイムで収集できる点が魅力です。災害時の人々の不安を把握したり、観光地の評判を素早く知るなど、実際に社会課題やマーケティングの分野で活用が進みつつあります。

しかし、これまでの研究では「公園だからポジティブ」「役所だからネガティブ」と場所の種類に注目したものが多い一方で、「そこで何をしていたか」にまで踏み込んだ分析は十分ではなかったそうです。たとえば病院に行っても「献血でやりがいを感じる人」と「治療の痛みにネガティブになる人」が混在していますよね。そんなふうに、場所だけでは語れない行動の違いが大きいのでは――そこが本研究の出発点です。


分析方法の全体像

1年分・7000万件超のツイートを収集

研究チームはTwitterのAcademic APIを使い、2021年に日本国内から投稿されたジオタグ付きツイート約7000万件を収集しました。そのうち、実際に「特定の店舗や施設などのポイント(POI)」が付与されたツイートは約485万件。この部分にフォーカスして、さらに施設を8種類に分類しています。

  • 商業施設(レストラン、ショッピングモールなど)

  • 観光地(遊園地、コンサート会場、スポーツ会場など)

  • 交通拠点(駅、バス停、空港など)

  • 文化施設(神社仏閣、美術館、映画館など)

  • 公園・緑地

  • 医療・福祉施設(病院、クリニック、高齢者施設など)

  • 教育施設(学校、大学、予備校など)

  • 行政施設(市役所、区役所、郵便局、警察署など)

区分には、国土交通省のデジタル地図データやキーワード検索を組み合わせて割り当てているとのこと。投稿者が「スターバックス○○店」など具体的に書いた場合は、その位置情報から「商業施設」へ分類するといった手法を使っています。

BERTモデルで感情を自動判定

集めたツイートの「感情」をポジティブ/ネガティブ/ニュートラルの三つに分類するため、日本語のBERTモデルを使ったとのこと。SNS投稿特有の短文やスラングにも対応できるよう、研究チームは自分たちで6,000件の手動ラベリング(正解データ)を作り、モデルをさらに微調整したそうです。その結果、約74%の精度で感情を推定できるようになりました。

たとえば「ここのカレー、本気でうまい!」「最高にハマるわ」「幸せ」などはポジティブに分類。逆に「混みすぎてしんどい」「痛すぎる」「帰りたい」などはネガティブ、といった具合ですね。
また、ツイート本文中に含まれる行動を表すキーワード(「食べる」「並ぶ」「献血する」など)も抽出して、「どんな行動とどんな感情がセットになりやすいのか」まで検証しています。


主な結果

ポジティブになりやすい場所 vs. ネガティブになりやすい場所

まず、集計したところ「商業施設」と「観光地」はポジティブなツイート割合が高いことが判明しました。店での食事やショッピング、スポーツ観戦やイベント参加など、楽しみを求める場面が多いからかもしれません。実際「おいしい」「わくわく」「盛り上がる」など肯定的なワードが目立ちました。

反対に「医療・福祉施設」や「行政施設」、「交通拠点」はネガティブな投稿がやや多め。病院での心配事や役所手続きの面倒、駅や空港の混雑など、ストレスを感じるシーンが想像できますよね。ここで「なんだ、結局場所のイメージ通りじゃない?」と思うかもしれませんが、研究チームは「さらに行動面の違いが大きい」と強調しています。

行動の違いが感情を左右する

いちばん顕著だった例が医療・福祉施設です。ポジティブ投稿の具体的キーワードを見ると「献血する」「頑張ろうと思う」など前向きな行動や感情が多く、一方でネガティブ投稿は「痛い」「混んでる」「治療中で不安」などでした。場所は同じでも、「何をしているか」で感情がはっきり分かれるわけです。

また、商業施設でもポジティブ派は「楽しい」「美味しい」の言葉が目立つのに対し、ネガティブ派は「混雑きつい」「疲れた」「帰りたい」という投稿が増えていました。同じレストランやショッピングモールでも、周りの様子や体調次第で「最高!」にも「もう限界……」にもなるわけです。


新たな視点:行動を見なければ本当の感情は見えにくい

従来研究との差分

これまでの研究だと「公園や自然空間はポジティブが多い」「病院はネガティブ多め」といった、場所のカテゴリ別に感情を分類する手法が中心でした。でも本研究によると、行動の差が感情を左右する度合いは想像以上に大きい。
著者たちは「空間と感情を結びつける際、そこに“どんな行動”が含まれるか考える必要がある」と主張しています。特に同じタイプの施設でも、アクティビティの違いで喜怒哀楽が変わるわけですから、都市計画や観光開発で活かすには、この視点が不可欠だということですね。

コロナ禍の影響も

研究対象となった2021年は、新型コロナウイルスが人々の生活や感情に大きく影響していた時期。医療機関への投稿で「ワクチン」「混雑」「不安」などの単語がよく見られたり、観光地でも「イベント中止」「リモート参加」という話題が絡んでいたようです。そうした社会状況も、行動と感情をさらに複雑にしていたのではないかと考察されています。


まとめと今後の展望

人々のリアルな声を都市づくりに活かす

以上の結果から、研究者たちは「SNSのビッグデータを活用すれば、場所と行動、感情の三つ巴の関係が大まかに可視化できる」と指摘します。今後は、リアルタイムでこうした感情解析を行えれば、混雑緩和やイベント設計、街の魅力づくりに役立てられる可能性が高いはずです。

ただし、ツイートする人は若年層が中心だったり、そもそもSNSを使わない人たちの声は拾いきれないなどの偏りもあると論文は言及しています。それでも、ひとつの手がかりとして「どの場所で、どんな行動が、どんな感情を生むのか」をつかむには十分有用でしょう。今後は海外都市と比較したり、インタビューや別の調査データと組み合わせることで、さらに多角的な知見が期待できそうです。


参考情報・ライセンス表記

  • 論文タイトル: “Emotions, behaviors and places: Mapping sentiments with behaviors in Japanese tweets”

  • 著者: Mingchen Liu, Yuya Shibuya, Yoshihide Sekimoto

  • 掲載誌: Cities, Volume 155, December 2024, 105449

  • URL: https://doi.org/10.1016/j.cities.2024.105449

  • この論文は CC BY 4.0 ライセンスで公開されています

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