
小さな街のブランディングって、ホントに難しい! オランダ・Heerlenの挑戦と住民たちの本音
最近、街の個性を見つけてうまくPRする「街のブランディング」ってよく聞くようになったと思いませんか? 特に、工場が閉鎖されて元気をなくした街にとっては、未来への希望をつなぐ大事な取り組みなんです。
でも、小さな街で、しかもマイナスのイメージが染みついちゃってる街で、ブランディングを成功させるのって、想像以上に大変。
今回紹介するのは、Katherine VanHoose氏らによる論文「Marketing the unmarketable: Place branding in a postindustrial medium-sized town(売れないものを売る:脱工業化の中規模都市におけるプレイスブランディング)」(Cities, 2021年7月号)を基にした、オランダの小さな街Heerlenの挑戦と、そこに住む人たちの本音のお話。街のブランディングって、どうすればうまくいくのか、一緒に考えてみませんか?
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264275121001141
この論文、何が新しいの?
この論文のポイントは、街のブランディングを「都会のイメージ」という視点から分析しているところ。大都市のブランディング研究はたくさんあるけれど、中小規模の都市、特に昔の工業が衰退した街のブランディングって、あまり研究されてこなかったんです。Heerlenの事例を通して、住民たちの街への思いとブランディング戦略のズレを明らかにすることで、街のブランディングを成功させるヒントを探っています。

Heerlenってどんな街? 炭鉱の街の栄光と衰退
オランダ南東部にあるHeerlen。20世紀初頭、炭鉱が見つかったことで、この街は大きく変わりました。静かな農業地帯だったHeerlenは、炭鉱のおかげで一気に発展!活気に満ち溢れ、人々は豊かな暮らしを送っていました。
ところが、1959年に北海で天然ガスが見つかったことで、状況は一変。海外との競争も厳しくなり、Heerlenの炭鉱はどんどん衰退。1965年から1974年にかけて、ついにすべての炭鉱が閉鎖されてしまったんです。
その後、政府は観光に力を入れて街を盛り上げようとしたけれど、長年炭鉱でやってきた街の経済は、そう簡単には変わりません。失業、貧困、薬物問題……。「暗い」イメージが街に広がり、Heerlenは深刻な社会問題を抱える街になってしまいました。
「都会的」をアピール! Heerlenの大胆なブランディング戦略
暗いイメージを払拭して、Heerlenに活気を取り戻すために、2015年に始まったのが「Urban Heerlen(都会のHeerlen)」キャンペーン。都会的なイメージを前面に出して、ショッピングやレジャーを楽しめる街として、生まれ変わろうとしたんです。
街の中心部は4つのエリアに再編され、若者向けのイベントやおしゃれなお店の誘致、高級住宅地の開発など、様々なプロジェクトがスタート。街にはカラフルなポスターが貼られ、今までにないイベントもたくさん開催されて、Heerlenに新しい風を吹き込んだんです。
でも実は、このUrban Heerlenキャンペーン、みんなが喜んで受け入れているわけじゃなかったんです……。
住民たちの本音。Heerlenらしさって、何?
インタビュー調査をしてみると、Heerlenを「都会的」と表現することに、違和感を感じている人がたくさんいることがわかりました。
「Heerlenって、都会っていうより、大きな村みたいな感じじゃない? アットホームな雰囲気がいいのに……」 「昔は大変だったけど、今は落ち着いて暮らしやすい街になったのに。無理に都会ぶる必要あるのかな……」 「都会的をアピールするより、Heerlenらしさを大切にしてほしい」
こんな声が上がってきたんです。Heerlenの人たちにとって、「都会的」っていうのは、この街が昔から持っている温かさや親しみやすさとは、ちょっと違うイメージだったのかもしれません。
それに、郊外に住んでいる人たちからは、「中心部ばかりお金を使って、私たちの地域は忘れられてる!」っていう不満の声も。貧困や住宅問題みたいに、もっと他に解決しなきゃいけないことがあるのに……っていう切実な思いが聞こえてきたんです。
Heerlenの挑戦、私たちに教えてくれること
Heerlenの挑戦は、中小規模の都市でブランディングをする難しさを私たちに教えてくれます。画一的なブランディング戦略は、逆効果になってしまうこともあるんですね。
街を元気にするには、そこに住む人たちの声に耳を傾けて、その街が持っている歴史や文化、そしてそこに住む人たちの思いを大切にしたブランディング戦略を作る必要がある。Heerlenの物語は、私たちにそんな大切なヒントを与えてくれているんだと思います。
どんな街にも、必ずいいところがある。Heerlenの未来は、そこに住む人たちの思いが街づくりに反映されたとき、きっと明るいものになるはずです。
この研究、どんなことに役立つ?
この研究は、衰退した街のブランディング戦略を考える上で、とても役に立ちます。住民の街へのイメージを理解することの重要性を示し、多様な住民の視点を踏まえた、より効果的なブランディング戦略の立案に役立つでしょう。また、トップダウン型の政策だけでなく、住民参加型の街づくりを進める上での示唆も与えてくれます。