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都市の“雰囲気”をAIに分析させたら? イギリス全土をまるっと分類しちゃう斬新アプローチ

「この街って、なんか雰囲気がいいよね」とか「ここは歴史を感じる街並みだなぁ」なんて、日常でよく思うことがありますよね。でも、それって感覚的な話になりがち。都市計画やデータ分析の世界では、地域の特性を数値化するためにいろんな手法が使われてきたんです。

今回紹介するのは、そんな“街の雰囲気”を衛星画像とディープラーニングだけでバシッとあぶり出してしまおう、という面白い研究です。発表されたのはComputers, Environment and Urban Systems誌に掲載された
“Estimating generalized measures of local neighbourhood context from multispectral satellite images using a convolutional neural network”
イギリスの研究チームが手がけたもので、イギリス国内の郵便番号をすべて対象に、人工知能(AI)の一種である畳み込みオートエンコーダ(Convolutional Autoencoder:CAE)を活用し、衛星画像から地域の特徴を自動的に抽出するという試みなんです。


イギリス全土の郵便番号×AI、そもそも何をやったの?

イギリスの郵便番号ってめちゃくちゃ多くて、1つの郵便番号あたりの平均世帯数は十数軒。全国を合計すると、なんと170万件以上になるんだとか。論文の著者たちは、それぞれの郵便番号の座標を中心に、10m解像度で160m四方(16×16ピクセル)の衛星画像を切り出し、全部AIに読み込ませちゃいました。

通常、画像解析で「ここは住宅」「ここは工場」みたいにラベルを付けるには、正解データをたくさん用意する必要があります。ところが本研究では、そういった“教師ラベル”を用意していません。AI自身が「なんか似てる」「ここは違うぞ」と勝手に見分けていくという「教師なし学習」の方法を採用しています。

具体的には「オートエンコーダ」というニューラルネットを使い、まずは衛星画像を圧縮(エンコード)し、そこから元画像を再現(デコード)できるように学習。再現の精度を上げることで、圧縮時に“重要そうな空間情報”がギュッとまとめられるわけです。さらに、そのまとめられたベクトル(64次元!)を使って、イギリス全土の地域を「似たところどうし」に分類していくという寸法。


でも、そのままだと雑多になっちゃうので“スムージング”

実は、このままクラスタリングすると、「道路一本挟んだだけで違うラベル」みたいに、やたら細かい区切りがズラッと現れてしまいました。それはそれで興味深いけど、実用的にはちょっと扱いにくい。
そこで研究チームは、郵便番号同士が近いほど、AIが抽出した特徴ベクトルを“平滑化(スムージング)”する工夫を入れました。いわば「隣り合うエリアなら、もうちょっと似た値にしてあげよう」という感じですね。結果的に、“隣なのに全然違う分類”という無数の断片が減り、もう少し連続的な街並みの特徴を捉えられるようになったそうです。

スムージング後にk-meansクラスタリングを試したら、「7つのクラスターに分けるのがちょうど良さそう」という結果が出たんだとか。たとえば「都市中心部の商業・オフィス混在エリア」「広めの庭付き一戸建てが集まる郊外」「集落っぽい田園エリア」「農場が目立つ超農村地帯」など、人間の目で見ても「ああ、なるほど」なカテゴリーが浮き上がってきたそう。


リバプールで実験してみたら、けっこうイイ感じ

論文では、イギリス北西部のリバプールを例に、どんなふうに分かれたかをビジュアルで見せてくれています。
市の中心部はビルや商業施設が密集しているので、スペクトル画像でもけっこう独特のパターンが出る。一方、郊外の住宅街は住宅+緑地がどれくらいの割合で混じっているか、農村部なら大きめの農場建物がどんな形で並んでいるか…など、10m解像度でも意外とわかるみたいです。
ただし、そこまで高精細な画像ではないので、「同じクラスターに入ってても、実際行ってみたらぜんぜん違った!」という例ももちろんある。だからこそ、この研究は「じゃあもっと解像度高いデータがあれば、さらに面白いことになるんじゃ?」って期待を感じさせます。

新しい“街並み分類”が生む可能性って?

この研究、真骨頂は「衛星画像だけで、街の構造や文脈がざっくりわかる指標を作る」ってところ。通常は社会統計データ(家族構成とか世帯収入とか)を合わせて“ジオデモグラフィ”として分析することが多いんですが、本論文の手法なら、それすらなくても物理的な街並みの特徴だけで分類が可能なんです。

もちろん課題もあります。論文でも触れられているように、衛星画像の解像度が10mだと「マンションか戸建てか」「その建物が古いか新しいか」みたいな詳細を全自動で見分けるのはむずかしい。社会経済的な要素までは読み取れない。だけど、建物の密度や緑地の分布ならしっかり捉えられるし、これと人口統計や経済指標を組み合わせれば、今までにない豊かな都市データ分析ができるかもしれません。


まとめ

イギリス全土170万以上もの郵便番号エリアを、AIで一気に解析して「街の文脈」を可視化しちゃおうという試み。10m解像度の衛星画像でも、かなり面白いパターンが見えてくるらしいのです。
論文はオープンアクセスなので、興味があればぜひ原文をチェックしてみてください。今後はより高解像度の衛星画像や他のデータと組み合わせることで、災害対策や都市計画、さらには環境保全なんかにも役立つ可能性があります。自分の住んでる街がどんなふうにAIに映ってるのか、ちょっと気になりませんか?

Reference
Singleton, A., Arribas-Bel, D., Murray, J., & Fleischmann, M. (2022). Estimating generalized measures of local neighbourhood context from multispectral satellite images using a convolutional neural network. Computers, Environment and Urban Systems, 95, 101802.
https://doi.org/10.1016/j.compenvurbsys.2022.101802

衛星画像で街の特性を“いい感じ”にまとめ上げるAI分析、ぜひ今後の続報を楽しみにしたいところです。

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