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「街の心地よさ」をみんなで測る!オープンソースのツールキットが実現する、新しい都市研究

私たちは日々、街を歩き、様々な場所で様々な印象を受けながら生活しています。「この道、なんだか歩きやすいな」「この場所、すごく落ち着けるな」といった、言葉にしにくいけれど確かに感じる、街の“心地よさ”。実は、そんな私たちの何気ない感覚をデータとして捉え、街づくりに活かそうという、とても興味深い研究が進められています。

今回ご紹介するのは、科学誌「Computers, Environment and Urban Systems」の2025年3月号に掲載された、マシュー・ダニッシュ氏らの研究チームによる論文「A citizen science toolkit to collect human perceptions of urban environments using open street view images」で開発された、オープンソースのツールキットです。この研究の斬新な点は、これまでコストや制約が大きかった都市環境の主観的な評価を、市民参加型の方法で、しかも大規模に収集できる仕組みを構築したことにあります。商用サービスに頼らず、オープンなストリートビュー画像を活用することで、研究の透明性や再現性を高めている点も注目されます。


あなたの「いいね!」が街を変える力に!
スマホで気軽にできる社会貢献

これまでの都市に関する調査といえば、専門家が街を歩き回って記録を取ったり、住民にアンケートに答えてもらったりするのが一般的でした。もちろん、これらの調査も重要なのですが、時間もお金もかかりますし、広い範囲をくまなく調べるのはなかなか大変でした。そんな中、私たちの日常に溶け込むスマートフォンを活用して、もっと手軽に、そして多くの人の意見を集められるようにと開発されたのが、このツールキットなんです。

特別なアプリをインストールする必要がないのも嬉しいポイントです。新しいアプリをたくさん入れると、スマホの画面がごちゃごちゃして嫌だなって思うこと、ありますよね。でも、このツールキットはウェブブラウザ上で動くので、アプリのダウンロードは一切不要。表示される街の写真を見て、「ここは歩きやすいかな?」「なんだか魅力的だな」「安心して歩けるかな?」といった項目について、あなたの直感で5段階評価を選ぶだけ。電車に乗っている間や、カフェでちょっと休憩している時など、ほんの少しの時間でできるのが魅力です。スワイプ操作にも対応しているから、まるでゲームをしているみたいに、サクサク進められますよ。

世界中の街路景観画像を集めて分析! オープンデータが拓く可能性

このツールキットが画期的なのは、手軽さだけではありません。その裏側では、世界中の人が撮影して公開しているストリートビュー画像(Mapillaryというサービスが提供しています)を活用しているんです。これまで、こういった研究にストリートビュー画像を使うとなると、どうしてもGoogleなどの商用サービスを利用する必要があり、費用がかかったり、利用規約で色々と制限があったりしました。でも、このツールキットは、誰でも自由に使えるオープンなデータを使うことで、そういった問題をクリアしているんです。研究結果の透明性が高まりますし、他の研究者が同じように研究を進めたり、結果を検証したりすることも容易になります。

さらに、集められた画像の中には、画質が悪かったり、評価に適さないものが含まれている可能性もあります。そこで、このツールキットには、質の低い画像を自動的に見つけて除外する機能や、広角で撮影されたパノラマ画像の中から、評価に最適な部分を切り出す高度な技術も搭載されています。例えば、暗すぎる写真や、ピンボケしている写真、あるいは、ただ壁だけが写っているような写真は、自動的に除外されます。パノラマ画像の場合は、道路の中心をAIが見つけ出し、そこから少し左右にずらした、人間が実際に街を歩いている時に近い視点の画像を切り出すといった工夫がされています。

みんなの「心地いい」が、これからの街のカタチになる!

このツールキットを使って、実際にどんなことがわかるのでしょうか? オランダのアムステルダムで行われた実験では、多くの人がこのツールキットを使って街の印象を評価しました。その結果、面白い傾向が見えてきたんです。例えば、アムステルダムの中心部は、「歩きやすい」と感じる人が多い一方で、少し郊外に行くと、そう感じる人が少なくなる、といった具合です。

このようなデータが集まることで、都市計画や交通政策に関わる人たちは、これまで以上に、そこに住む人々の感覚に基づいた街づくりを進めることができるようになります。「ここは、もっと歩道が広ければ、気持ちよく歩ける人が増えるかもしれないな」「この場所に緑が増えれば、もっと多くの人が安全だと感じるかもしれないな」といった具体的な改善策を、データに基づいて検討できるのです。論文の中では、犯罪統計と人々の感じる安全性に相関関係があるか、歩きやすいと感じる場所に実際に歩行者が多いか、といった具体的な研究テーマの例も挙げられています。

あなたも参加しよう! オープンソースで広がる、参加と共創の輪

このツールキットの素晴らしいところは、研究者だけでなく、一般の私たちも開発に参加できる、オープンソースとして公開されている点です。「もっとこんな評価項目があったら面白いんじゃないか」「この部分のデザインを少し変えた方が使いやすいんじゃないか」といったアイデアがあれば、プログラミングの知識を活かして、ツールを自分好みに進化させることができるんです。みんなで知恵を出し合うことで、より使いやすく、より役に立つツールに成長していくことが期待されます。

「プログラミングはちょっと…」と感じた方もいるかもしれませんが、まずは気軽に、いつもの街並みを評価することから始めてみませんか? あなたの何気ない「いいね!」が、未来の街をより良くするための、大切な一歩になるかもしれません。

このツールキットは、以下のサイトで公開されています。興味を持たれた方は、ぜひアクセスしてみてください。

  • 論文タイトル: A citizen science toolkit to collect human perceptions of urban environments using open street view images

  • 著者: Matthew Danish, S.M. Labib, Britta Ricker, Marco Helbich

  • 掲載誌: Computers, Environment and Urban Systems, Volume 116, March 2025, 102207

  • DOI: https://doi.org/10.1016/j.compenvurbsys.2024.102207

  • ソフトウェア名: Human perception and volunteered street view imagery project (percept)

  • 開発者: Matthew Danish, m.r.danish@uu.nl

  • ソースコード / データ: github.com/Spatial-Data-Science-and-GEO-AI-Lab/percept

  • 公開日: 2024年2月



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