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表銀座縦走を振り返って

2年前、初めて北アルプス・表銀座に登山に行った3日間、その時に感じたことなど殴り書きしていたものを、2年間寝かせ熟成させて、そのままnoteに投稿した。

あの時はせっかく内定も貰ったのに大学を留年してしまったこともあり、結構人生投げやりな感じだった。

なのに初めての山小屋、初めての3000m級とかで緊張していたのか、死ぬかもしれないとか言って結構ビビっていて、今読むと面白い。

夜に竹橋から深夜バスに乗り込む時くらいまでは、常に天気の心配をしていた気がする。3泊4日、全て晴れで終わってくれないと怖かった。今まで山でガスったことは幾度となくあっても、荒天になったことはなかった。日帰り登山ばかりで天候のすぐれない日は登山しなかったからだ。レインウェアなど準備はしていたものの、未知の標高で、稜線で雨風にさらされるようなことは避けたかった。終わってみれば2泊3日、歩いている時はほぼ晴れていて助かった。

竹橋から中房温泉へ向かう深夜バス「まいにちアルペン号」は、途中常念岳かなんかの登山口に停車する。深夜の暗い山道に突然降ろされるような感じ。その暗さ・怖さは半端ではなく、登山への不安を一層募らせられた。ここで降ろされなくてよかったと心底思った。

中房温泉まで行くとそれなりに日も昇って明るくなっていたので一安心。登山届けを急いで書いて出発したが、ここの合戦尾根に関しては今までの関東での登山と同じように、森の中の道を登っていった。緊張感も特になく、合戦小屋のスイカ以外の記憶はあまりない。ただ合戦小屋を超えてからの1時間あまりで森林限界がきて、景色が急に開けて北アルプスっぽさを見せられたことは印象深い。

稜線に出た時点で10時ぐらい。天気も良くなく、友人の高山病もあって、登りきったところにある燕山荘で一泊。

ここの燕山荘が、山小屋だと思って期待していなかったのだが、本当に綺麗で驚いた。ご飯も美味しく、二階の部屋で、窓から雲海が見えたことも思い出深い。ただ初日はガスっており燕岳には登頂できなかった。

早朝、日が昇る前に目覚め、満点の星空のもと山小屋から燕岳までヘッドライトを着けて初めてナイトハイクをした。そして初めてのご来光登山。頂上に着いたのが比較的早く、まだ人も少ない中でとても怖かったのを覚えている。これは経験しないと想像がつかないことと思うが、日が昇る前に2700mの山の頂上にいるというのは結構怖い。当然暗いし、周りには何も遮るものはなく、遠くに稜線が続いていくのが見える。なおかつ遠くの方で積乱雲の中で雷が光っていたのも怖かった。周りが明るくなってくるにつれて遠くに槍ヶ岳がぼんやりと見えてきた。

そしてそのまま見たご来光。ここまで本格的な雲海を見たのは初めてで、非常に感動した。日が昇っていく一瞬一瞬が非常に美しくて、カメラで撮りまくったが、写真では到底伝わらないと思った。

その後この登山の一番の目的であった表銀座縦走路へと向かったが、それも期待を上回る景観だった。左手に雲海、右手に裏銀座の山々と槍ヶ岳を見ながら歩いていく稜線は、見どころが多すぎて混乱するほどだった。

ヒュッテ西岳でお昼に燕山荘のお弁当を食べたがとても美味しくて驚いた。また行ったら買いたい。ここで泊まるか進むかの決断を迫られたが、疲れていながらも進むという決断は自分で言うのもなんだが合理的だったと思う。天気も徐々に悪くなっており雨も怖かったが、結果大丈夫だった。翌日の行程などを鑑みても正解だった。

2日目は結構歩いて、燕山荘から一気にヒュッテ大槍まで来て足が棒になった。山小屋につく直前はもうガスっていて、いつ降り出すか、というような天候だった。実際着いて少ししたら外は大雨になっていた。この時も2階スペースを借りれたが、足が攣ってハシゴの上り下りがきつく、普通に座れなかったのを覚えている。山小屋自体は、燕山荘と比べればこじんまりとしているものの、ご飯も美味しく無料で充電もできて、非常に快適だった。イカスミパスタとワインが印象的だった。夕食の席で知らない人と話したりワインをあげたりしたのも思い出深い。

翌朝もありがたいことに晴れ、未明に外に出て、昨日の昼以来初めて槍ヶ岳を背後に確認。1日でこんなに近づいたのかと驚いた。星空は寝過ごしたがご来光を拝んで、山小屋でヘルメットをレンタルし東鎌尾根から槍ヶ岳へ挑戦した。

東鎌尾根自体も高度感があり足元も安定しなかったが、槍の肩までは特に危ないこともなく行けた。肩に着く直前に救助ヘリのようなヘリが飛んで行った映像が鮮明に思い出される。

そしていよいよ槍ヶ岳に取り付いたが、ここからの道は結構冷や汗ものだった。道というか、ここからは完全に四肢を使って登っていく。岩壁に張り付くように登る箇所もあり、高所ダメな人とかは割と怖いだろうなと感じた。ご老人も登っていたが、老若男女誰でもウェルカムな山でもない気がした。登っていく途中で頂上付近がガスったりして怖かった。

ただ恐怖の時間は20分程度で、最後の長い垂直なハシゴを登り終えたあとはまず安心。そして槍ヶ岳の山頂に立ったんだという喜びと、じわじわと達成感がやってきた。

登山を始めてからずっと登山雑誌などで見ていた、憧れの山の頂上に行くことができたという実感が、山頂にいると湧いてきた。何となく自分には無理かな、と思っていたものが目の前にあるという感覚は不思議だった。

たった3日間の旅だったが、非常に長く感じられた。当時は学生でカメラを買う余裕もなかったので、iPhoneで死ぬほど写真を撮った。

あの登山から帰ってからは、自分でも何か成し遂げられるんだ、と槍ヶ岳の頂上で覚えたささやかな達成感を噛み締めながら、少しずつ前向きに人生を歩むことができるようになった。

自分の好きなこと、やりたいことをやり、そのために時には挑戦し、乗り越える。こんなに楽しいことだったんだと感じた。これを山々に教えて貰ってから、自分の人生を大切にすることができるようになった。誇張なしに、俺の人生を変えてくれた経験だ。

そんなわけでこの表銀座縦走は、普段運動不足の俺には、普通に座れなくなるくらい辛かったのだが、自分で行きたいと思って、自分で地図を見て準備して、自分で泊まる場所を決めて、一緒に行ってくれる友達もいて、2人でそこに行って、辛いことも多くて全部が全部楽しかったとは言えないけど、かけがえのない素晴らしい思い出になった。本当にきつかったけど、本当に行ってよかった。

これからどんな山に登ろうが、あの登山で感じたことを、忘れないでいる。

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