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表銀座縦走 [Day3]

槍ヶ岳、上高地

- 8/4 スケジュール -
天気: ☀️
04:00 起床
04:50 日の出
06:00 ヒュッテ大槍出発
06:40 槍の肩到着
07:00 槍ヶ岳登頂
07:25 山頂出発
07:40 槍の肩着
08:20 ヒュッテ大槍着
08:40 ヒュッテ大槍出発
12:00 横尾山荘着、昼食
12:40 横尾山荘出発
14:50 上高地河童橋着
16:15 上高地発バス出発
21:00 バスタ新宿着

4時、何かに身体が揺すられる感覚で目覚めた。Mが起こしてくれたのだ。前日の夜は、燕山荘で見たような星空をまた見たいと2人で話し、日の出よりやや早めの4時起床を約束したのだった。しかしさすがに2日連続の早起きは少しこたえたようで、すっきりとした目覚めとはいかなかった。きっとMも同じ気持ちではあろうが、グズグズしていると星空を見逃してしまうということで、急いでヘッデンを装着しレインウェアに着替えて外に出る。

外へ出ると既に少し明るくなっており、星はもうほとんど見えなくなっていた。といっても日の出までにはまだまだ時間があるという、一番中途半端な時間に出てきてしまった。今思えば確かに眠かったが、日の出までの静かな時間をたっぷり楽しめたのでよかったと思う。僕らの前には女性が1人展望スペースに立っていた。こんにちは、と声をかけられるまで全く気づかなかったため慌ててヘッデンの光量を下げた。

明るい東の空から後ろを振り返ると、槍ヶ岳はすぐそばまで迫っていた。昨日はヒュッテ大槍に到着した時はおろかそのずっと前から槍の姿は見えていなかったので、かなり近づいたなと驚いた。昨日よりはっきり、槍ヶ岳からライトの光がチラチラと見える。槍ヶ岳山荘に泊まっていた人々のご来光登山のヘッドライトの光だろう。

今朝は昨日と違って山頂ではなく、山荘前で朝日を拝んだ。常念岳の上辺りから太陽は昇った。雲海も併せて、何度見ても神秘的な光景。

槍ヶ岳は朝日に照らされ徐々に紅く染まっていった。いよいよあれに登るのか、とかそんなことはあまり考えず、槍ヶ岳が堂々とそこにあるのをぼーっと眺めていた。昨日と同じく朝の山々にみとれていた僕らはやはり少し遅れて朝食をとった後、準備をしてヘルメットを借りて(色を選べた笑)山荘を出た。ザックは部屋にデポした。

昨日と同じくらいの時間、6時過ぎに出発した。東鎌尾根の続きを越えて槍ヶ岳山荘まで行き、そこから山頂にアタックする。ここからの道は今までと一転し岩がゴロゴロしたガレ場になる。足元と手元を確認しながら、怪我や滑落しないよう一歩一歩慎重に進んだ。

朝はやはり晴れていて、槍ヶ岳含む風景は青空に映えて写真のようだった。6時を過ぎて太陽が昇るとこの高地でももう暑く、雪渓が残っているのが信じられないほどだった。東鎌尾根の本番はヒュッテ大槍からだったんじゃないかと思うほど、尾根らしく切れ落ちて危険な感じがした。今朝ご来光の時に見た、槍ヶ岳に続く岩の尾根、「あそこを登るの?」とMと話したまさしくそこを登っていった。さらに怖いのはそこをピストンするということで、無事に槍ヶ岳に登り終えても帰り道またここを通るのか、ということが何回か頭をよぎり、その度少し憂鬱な気分になった。

40分ほどかけて東鎌尾根を終えようとしていた時、荷物を持っていない今まで見なかった色合いの救助ヘリのようなヘリコプターが、槍ヶ岳山荘のヘリポートに目の前で停まり、しばらくしてまた飛び立っていった。こちらは穂先に登る前だというのに、不安が募った。槍ヶ岳山荘方面から来た登山者に何があったのか聞こうか迷ったが、何となくやめておいた。そしていよいよ槍ヶ岳山荘、いよいよ槍の肩のアタック拠点に到着した。槍ヶ岳はこちらから見ると若干太く、ゴツゴツしている印象。逆光を受けて迫力があった。槍の肩周辺の景色が綺麗だったのでしばらく眺めていると、そこは槍ヶ岳山荘のヘリポートだったようで、次のヘリが来るとのことでおそらく小屋のおじさんであろう人に急かされて、慌てて穂先に取り付くことになった。

取り付き地点が日陰になっているということ、そして思ったより人が少ないことなどから僕の中で怖さがどんどん増していた。最初数mは歩いて登り、その後いよいよロッククライミングの様相を呈してくる。上りは鎖場はあまりなく岩そのものや岩に打たれた鉄杭、垂直なハシゴなどを頼りに登っていく。老若男女誰でも登っている山だから、見た目より怖くないだろうと勝手に踏んでいたものの、見た目通り高度感があって怖かった。リーチが長く足がギリギリ届くくらいの足掛かりだったり、岩の小さな窪みに足を引っ掛けて登ったり、日を浴びていない冷たい濡れたハシゴで手が冷えたりと、冷や汗をかく場面は非常に多かった。

ガスが昇ってきた時も非常に焦った。唯一救いだったのはそれが継続する時間が短いということだ。取り付きから約20分ほどで山頂手前まで来ることが出来た。
山頂の手前には最後に長いハシゴがあり、そこを登り終えると山頂のようだった。一段一段手と足を確かめながら慎重に慎重に登った。緊張で息が切れていた。槍ヶ岳山頂が見えた。

両足がしっかり山頂を踏んだ時、安堵感が先に来た。しばらくしてMが登り終え、ハイタッチしようと言ってきた。僕はここでやっと、槍ヶ岳の山頂までやってきたことを実感した。映像や画像でしか見たことのない場所で、大げさかもしれないが、達成感を感じた。

Mが日の出山登山に誘ってくれたのが去年の8月で、あの時はなんとなく行ってみたものの登山もいいなあと感じて、あれからちょうど一年、自分は憧れていた槍ヶ岳の頂上にいる。普段登山を嗜んでいる人にとっては何てことないであろうこのルートも、僕にとっては大きな挑戦であり、僕に登山に対する新たな視点を与えてくれたことは確かだ。

晴れ渡って360°展望があったことや、人が少なかったこともあって、山頂には20分以上いた。お年を召したご夫婦や、見た目70歳近いおばあちゃんとおそらくその娘さんが助け合いながら登っていた。ハアハア言っているが、僕らはまだ20代前半。ご夫婦には「君らは若いから何回でも来れるね」と言われた。もう二度と来ません、と笑いながら返したが、若いうちにもっと色んなところに行ってみたい、自分の目で色んな景色を見たいと思った。自分には無理だと思っても、一歩一歩進めば必ず辿り着けるのだなあと感じた。

槍ヶ岳の下りの道は登りと分かれており、下りの方が危険度や高度感は低いように感じた。しかし下りほどよく事故が起きる登山なので、慎重に手足を使って確実に降りていき、地上に立った。そのまま東鎌尾根をヒュッテ大槍まで帰った。槍ヶ岳のことで頭がいっぱいで、山荘にはすぐに着いた気がした。

誰もいなくなった山荘で僕らはヘルメットを返し身支度を整えると、上高地に向けて長い下山の道を歩き始めた。時刻は8:45。やはり少し遅れている。コースタイム通りでは上高地に17時頃着の予定となり、その頃には天気も崩れるかもしれない。

僕らは槍沢ルートで上高地まで下っていった。沢なのでやはり岩がゴロゴロしており、捻挫には注意が必要。ただ今までの道のように滑落や落石の危険性が薄い分気が抜けてしまいそうだった。地に足がついているのっていいなあと思った。僕らが降りてすぐ、槍ヶ岳の穂先は雲の中に隠れてしまった。

最初の下りこそ斜度もあり足がプルプル震えながらの下山になるが、上高地に近づくにつれてなだらかな道になっていき、横尾を過ぎてからはほぼ平坦な砂利道または土の道になる。そこからは明らかに登山客ではないカジュアルな服装の人も増えていき、ああ、下界に帰ってきたんだなという実感が湧いてくる。

話は戻るが槍沢ルートはとてもアルプスっぽさを味わいながら歩くことができる道である。スケールの大きな谷の中を、綺麗な山々の風景に囲まれながら歩くいい道。ただいかにせん長いので登りの場合精神的につらいものがあるかもしれない。最後の方は正面に見える槍に向かって登っていけるいいルートだが、登りの人とよくすれ違ったがみなさん顔が苦しそうだった。「あとどれくらい?」とよく聞かれた。「まだまだありますよ」と言っておいた。

槍沢を進んでいくと大きな川になっていくのだが、その風景が非常に美しい。これまでとは違うが、しかしこれもアルプスらしい景色を味わいながら歩いた。途中道が色々分岐していてわかりにくい部分もあるが、人も多く見通しもきくので初めての人でも迷うことはないと思う。更に進んでいくと樹林帯に突入し、ここまで来るとなぜか安堵感が増す。

槍沢ロッジを越え、ひたすら歩く。基本的に歩きやすい道で、たまに沢や泥道などもあったが問題ない。景色も最高で、河童橋付近よりも自然に近い形の、綺麗な川を見ることができる。河原に降りられるポイントがいくつかあり、そのうちの一つで小休憩したりした。川の水は非常に冷たくて気持ちいい。一応生水を飲むのはやめておいた。

12時過ぎ、横尾山荘で昼食をとった。1時間ほど前に着いた槍沢ロッジでもすでにお腹は空いていて、そこで昼食にしてもよかったのだが、横尾山荘の方が美味しいご飯が食べられそうという僕の勝手な直感のもと横尾での昼食となった。

僕は山菜うどんを頼んだが、美味しかった。横尾からは涸沢に向かう横尾大橋も伸びており、1日早く終わりそうなこの旅を涸沢で延長しようかと本気で考えたが、足の疲労からもう登りの道は無理だと思いすぐに断念した。

次来るときはテント泊やな、とか話したりした(本当にそうなった)。横尾から見る穂高連峰は青空に映えてとても美しかった。ぜひまた晴れの日にここに来たいと思った。

横尾でのんびりしたあと12:40頃、再び僕らは上高地に向けて歩き出した。この調子なら上高地に15時過ぎには到着しそうだ。神が降りる地で神降地というらしい。綺麗な景観をぜひ天候が悪くなる前に見たいということで、歩くペースは早まった。ここからの道は本当に平坦で歩きやすい。

僕らは余裕でいつものようにどうでもいい話をしながら歩く。北アルプスは樹林帯も本当に綺麗で、何というか標高の高さを感じた。奥多摩の渓谷美とは全く違った美しさを醸し出していた。

川の景色を見ながら歩くと突然、道の先に猿が見えてきた。よく見るとこれがたくさんいた。マレーシアのバツー洞窟で猿に襲われそうになった苦い経験が頭をよぎった。あの時はまだコンディションも良かったが、今は猿と戦う体力はすでに残されていない。しかしそれらは杞憂で、ここの猿は非常に行儀がよかった。近づいても何もしてこない。緊張したが、すべての猿(子連れもいた)と普通にすれ違うことが出来た。マレーシアや日光と違って、無闇に野生動物に餌をあげる人が少ないのだろうか。何十mか行くといつの間にか猿たちはいなくなっていた。

徳沢に着くと色とりどりのテントが張られていた。ここのテント場は本当に楽しそうで、いつか来てみたいと思った。そしてこの辺からはもう観光客より登山客の方が少なくなってきたように思う。3日風呂に入っていない身体で歩くのが申し訳なくなるくらいだった。

途中明神池への分岐があったが、往復1.2kmという距離に2人とも負けて行けなかった。次来たときは行こうと思う。

そして15時前、上高地の河童橋に到着した。小中学生らしき集団をやり過ごしたあと急いで河童橋の上へ。自分の子供の頃の写真で見たことのある上高地の風景が広がった。穂高連峰の堂々とした山容がかっこよかった。

某アドベンチャーレーサーのように上高地アイスを買い、梓川の河原でそれを食べた。ゴミをゴミ箱に捨てることが出来て新鮮だった。しばらくそうやってぼーっと余韻を味わったのち、バスの時間を調べようと上高地バスターミナルまで数分歩いた。案内所で聞いてみると、松本へ向かう路線バスの他に、新宿まで直通のさわやか信州号のチケットも席が空いていれば買えるとのことで、チケットカウンターへ。

16:15発の便の席が空いていたのでそれに乗れることになった。¥7,400なので普通に交通機関を使って帰るより安上がりかもしれない。お土産を物色して時間を潰したあと、サポートタイツをトイレで脱いで乗車。最初は山道で酔いそうになりながらも無事に帰路につくことが出来た。SAでの買い食いを我慢し、新宿に着いたあとはMと西口のねぎしに行った。

汗臭い身体で若干肩身がせまいながらも、乾杯して終わり。

後日、2年後の銀次が今回の表銀座縦走を振り返ります。

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