2022年 9月4日(日)第9回 ルセッタアミュゼ吹奏楽団 定期演奏会OCTOPATH TRAVELER-SUITE FROM PRIMROSE-の編曲話

第9回定期演奏会の大曲枠で編曲したOCTOPATH TRAVELER-SUITE FROM PRIMROSE-編曲の裏話について

奏者にこだわりを伝えるために書いた怪文書です。
その文章を少し加筆修正して公開します。
こういうアレンジがあることを認識して頂けたら幸いです。


・編曲についての想い


この編曲の大きなコンセプトは物語音楽です。今回の演奏会のテーマに例えるなら、「ゲーム音楽をコンクールの自由曲風に編曲してみた」です。
※弊楽団の第9回のテーマはV-Tuberでした。
8人のうちの主人公の一人、プリムロゼの物語に視点を絞り、自分なりに考察したことをサンホラ、吹奏楽コンクール定番曲の曲構成を参考にして編曲しました。
るーみゅの定期演奏会で大曲枠の編曲は大きな目標でした。知識と経験不足で未熟な部分はたくさんありますが、今回、第9回定期演奏会に向けて編曲したこの楽譜は、私がるーみゅ在籍した日々の集大成を詰め込んだ意欲作品です(2022年の時点で9年ぐらいです)。
また、編曲者の作品愛と好きな音楽の嗜好を徹底的にぶちまけた1つの芸術作品でもあります。

・制作秘話と制作するまで※ゲームのシナリオネタバレあるため、未プレイの方はご注意ください。


編曲の構想で最初にぶつかったのは選曲でした。
オクトパストラベラーの楽曲は、主人公8人分のテーマ曲、通常戦闘曲3曲、ボス曲6曲、フィールド曲8曲、各場面にも細かくバリエーションのあるBGMがあり、ディスク4枚組と非常に高カロリーな音楽ボリュームです。
自分が楽しいと思う曲からと、お気に入りの曲をピックアップしてみると、企画演奏会並みのボリューム……真剣に企画演奏会を検討した方がいいのではと思いました。
妥協案の中にはゲームのEDで取り入れられているフィールド曲メドレーのオケを耳コピして吹奏楽に当てはめたほうがいいかと思いました。
ですが、やっぱり私が自分らしく表現するオクトパストラベラーの世界観を、素晴らしいと思う編曲で表現したい、そしてるーみゅで演奏したい強い気持ちがありました。
そして8人の主人公の中から一人に絞ることも難航しました。結果、好き基準だとキリがないので一番印象に残ったシーンについて考えることにしました。それがプリムロゼでした。黒幕との戦闘が劇場と演出がなかなかに好みでした。
ドット絵で可愛らしい世界観に感じるようには見えますが、シナリオは中世ヨーロッパの芸術の黒さとエグさが出ています。
詳しい内容についてはゲームを実際にプレイしていただくことが推奨です。
曲についての製作背景は作曲者の西木さんご本人が語られているページが公開されています。私自身、西木さんの解説を読んで、どのように編曲したいか何度も読んで練ったので、お目通し推奨です。

・1楽章 


オクトパストラベラーメインテーマ


原曲から大きく改変をしております。当初は大陸の覇者のメインテーマ風にする構想もありましたが、本編の世界観を大事にしたいため、その構想は外しました。
オクトパストラベラーを知らなくてもコンクールバンド経験者が懐かしさを感じるようにと意識しました。
風景としてはグレートブリテン島北部(リアルな意味でのハイランド地方)の景色をイメージしました。プリムロゼの故郷であるノーブルコートは中世イギリスの地方(領地とか呼ばれてた時代)っぽいなーと思ったのがきっかけでした。
穏やかで平和で充実していた日々……トランペットのソロは貴族の気高さを持ちつつ、それは遠き日のことで今はもう戻ってこない儚さも併せております。
プリムロゼのシナリオの始まりは尊敬する父親が何者かに殺された日の悪夢から始まります。そこで、逆に幸せだった日々の夢を表現しました。夢からの覚める瞬間は次のサンランド地方へと繋がります。
ちなみにオーボエとアングレのソリはハイランド賛歌の1楽章のオーボエとホルンソリのオマージュです。
(ハイランド賛歌でとっても好きな部分の1つです)
メインテーマと聞いてはあの8分刻みの入りをイメージしている人が多いので、そのイメージを持っている人を驚かせたいところです。

サンランド地方

フィールド曲は主人公の軸となっている舞台に合わせているのも、このゲームの特徴です。フィールド曲だからそのままの冒険風景というよりは、旅に至る過程、サンシェイドの踊り子の日常に目を置きました。(スウィングのアレンジが怖いのも大きいですが、今回のアレンジにサンシェイドを入れるとちょっと浮いちゃうかなと思うところもありました)
中間部の切ないメロディーは自由のない辛い日々からカラスの入れ墨をした男を見かけた瞬間へ……別れ、そして旅のはじまりと仲間のとの出会い、徐々に感情的になっていくようにと意識してつくりました。

バトル3

シナリオが3章にはいった時にバトル2が流れた瞬間は驚きました。
アニメでいうと、予想外にopが変わってクライマックスに向けて一気にテンション高まる感覚です。
原曲聴く度に主人公達のこれまでの冒険が入ってくるんですよ(盛り上がりの部分でオルベルクさんとエアハルトさんが戦場で熱く剣を交えて戦ってる場面とか、暗躍するそれぞれのシナリオ黒幕など想像するとめっちゃクライマックス感あるのですよ)
30分規模のボリュームで管楽器のスタミナ考えなくていいのなら、3曲全部入れたいぐらいにバトル曲はどれもかっこいいです。
バトル曲の位置付けは冒険のダイジェストです。ゲームをプレイ済みの人はこの曲の中で1章~3章の流れを感じながら演奏していただければと思っています。
アレンジとしてはアニメの最終クールに突入したopを意識しました。また、バトル3選んだもうひとつの理由は所々にあるハッチポッチステーションっぽいメロディーのリズムをものすごく気に入っているからですw
この曲は基本的に原曲の再現重視でアレンジしました。

渦巻く凶兆

曲の繋ぎは低音で決めたいと思って浮かんだのがこの曲です。プリムロゼを雇っていた支配人、ヘルゲニシュの曲、そして良くない時に流れる悪人の曲です。低音で重々しい雰囲気をイメージしました。

・2楽章


決意


原曲は主人公達の心の強さや旅の仲間達との絆が強く表現されています。ですがこの編曲では決意に至るまでの孤独や葛藤の過程を表現しました。
アングレとオーボエ、ピアノのトリオは原曲のおいしさを残しつつ、黒幕との戦いを決意する葛藤、共に戦う仲間との絆を表現しました。(黒幕との戦闘場所は劇場なのでホールで演奏してシナリオとリンクした演奏をしたいと思ったのが制作のきっかけでした)。
中世ヨーロッパの狂気があるけど惹き付ける芸術性を意識しています。
強い決意をするとき、多くの人は一人で考えて葛藤した末に決断をするか、信頼できる人に相談することが多いと思います。
主人公達も決意に至るまでさまざまな人に出会って決意を固め、黒幕と戦っています。そんな流れが、この曲が流れる瞬間が一番熱いのはプリムロゼのシナリオなんですよ。
黒幕のひとつ前のバトルに流れ、その後の演出はなかなかに芸術性があります。
出だしのピアノソロは決意に戸惑いがある心情を、そしてその次にあるアングレは原曲の要素を残しつつ、プリムロゼが尊敬する父親の言葉、「己を信じ、貫け」を突き通す場面を表現しました。
そして激動のバトル展開、最後のオーボエソロはついに揺らいでいた決意が固まり、仲間達と黒幕を倒す強い意思を表現しました。
アングレソロの時は独りで戦う陰の部分(後ろのオーボエの高音はソロを引き立てるヴァイオリンをイメージしており、影で支える旅の仲間を表現しています)、オーボエソロの時は旅の仲間と共に戦う陽の部分を出しています。(後ろで鳴っているアングレはソロを支えてくれた恩返しをするように、チェロのようなやさしい包容するような音をイメージしました)
または、アングレの音色は父親の強く支えるたくましさ、オーボエの音色は父親の優しさを受け継ぎ、強く生きていく娘という2重の意図もあります。
オクトパストラベラーの楽曲で一番気に入っている曲であり、この曲のために編曲したと言っても過言ではないほどです。(やっぱり企画演奏会かオフ会にしようかなと揺らいだとき、やっぱり決意の部分はるーみゅの演奏じゃなきゃダメだという気持ちが支えてくれました)
常設楽団だからこそできる表現ができればいいなーと思いながらアレンジしました。

復讐のために

耳コピに難航しました。拍子の件ではすみませんでした(どうやら宗教戦争の部分だったのと、私がまだまだ未熟な部分が多いことを痛感しました)
弦のじゃらじゃら音を再現するのは難しいし、そのままもなにかちがうと思い、ちょっと自分なりに工夫しました。原曲だと目立たない部分をあえてぬきだし、低音楽器のソロにしたことで黒幕との対峙になったのではとかんじます。
そして後半はできるだけ原曲に近づけ、なんだあの曲だったのかと出せたらと思えるように工夫しました。

旅路の果てに立ちはだかる者

このメドレーのメインとなる曲なので一番容赦なく作っています。美しいソロを聴いてそろそろ金管楽器は回復したよね???
プリムロゼ視点なので、少々打楽器もこれいれたらプリムロゼっぽいのではと色々追加しています。
ゲーム内ではこの戦いのあとに更なる強敵(裏ボス)がいますが、主人公の心情を踏まえるとこの戦いも全力です。ただしまだまだ曲はつづきます。
RPGにありがちなスタミナ配分との戦いです。やっぱりこの曲もかっこいいなー。

大平原を望む町村

戦いのあと、平和になった穏やかなノーブルコートの風景をイメージしました。(プリムロゼの故郷です)亡き父親の墓参りをし、この先、なにを軸に生きていけばいいか。
物語はそんなプリムロゼの迷いを残して終わります。そんな迷いは次のプリムロゼのテーマにて表現しています。

・3楽章


踊子プリムロゼのテーマ


二度と戻らない優しい日々を儚く表現するために敢えて、原曲から大きく改変しました。
主人公達のテーマ曲の中には様々な物語や物語に至る背景、冒険への軸が見えないところで含まれていると思います。それを大きく広げ、背景を引き出してみようと思ったのが改変の意図です。
ピッコロはプリムロゼの無邪気に父親を慕う幼少時を、サックスのアンサンブルはシメオンと出会い、初恋を、そして最後は幸せだった日々の終焉へという流れで作っています。
原曲はサンランドの砂漠の渇いた雰囲気をだしていますが、このアレンジは湿っぽく、穏やかだけども、どこか寂しさのあるノーブルコート表現しました。
1楽章のメインテーマとは対となるアレンジにしております。

オクトパストラベラーメインテーマ

やっぱり最後は吹奏楽曲でありがちなテーマ曲で始まり、テーマ曲で終わらせたい。序盤と同じくメインテーマです。
ゲーム音楽、一般吹奏楽曲の王道を私なりにしつこいぐらいに詰め込めました。
フィニスの門はすっ飛ばしました(時間があればフィニスの門も取り入れたかったのですが、入れたら入れたらで色々とバランス崩れるので断念しました)。
8人の物語、そしてフィニスの門の後もきっと8人は楽しく旅を続けている、そんな様子を表現しました。
……第六の要素もちょっと入れたかったかもと、修正している時にちょっと思いましたw
この部分は各々のコンクール曲を吹き切った時のことを思い出しながら吹く演奏にしたいですね。

・編曲した後に書いたあとがき


長かった……実に長かった……。実はこの曲、一部は2019年に従来のオフ会のように人を集めて合奏をしつつ、プロ音楽家(ながはなさんとやまぴこさん)が曲のアドバイスをするという編曲オフ会向けに作ったのが始まりでした。その時は5分以内という制約だったので今回の完全版と比べれば体験版の規模でした(一番の地獄は徹夜でパート譜を作ってその後仕事に行き、その後にクラリネットレッスンに行くというムーブメントを飛ばしたことです→次の日は身体が緊急事態宣言を出したので休みましたw)
その後、コロナ騒ぎが始まりあの緊急事態宣言。その間にコツコツと継ぎ足して編曲オフ会でできなった部分もモリモリ入れて15分規模というとっても大きな曲と化しました。
制作している時からるーみゅの演奏会でやりたいと思っていたので、演奏会の話が上がった時は待ってましたという気持ちでした。
それから曲の完成、合奏再開、演奏会情報解禁、一つ一つのことが始まってやっとここまで来たとしみじみと感じます(特に合奏再開にこぎつくのは長かったですよね)
ただ、曲の完成は始まりに過ぎません。あとは他の演奏曲と一緒に演奏会に向けて突っ走っていくだけです。演奏会まで情勢がどうなるか分からず、本当に演奏会ができるのか不安な日々ですが、少なくても、最悪延期になろうとも、楽しかった、演奏して良かった、そんな存在の曲になればいいな~と思っています。
何卒、演奏会までよろしくお願いいたします。

2022年1月某日

・演奏会を終えて

何度も思いました。
本当にこの重い曲を演奏して頂いてありがとうと。
指揮を引き受けていただいた黒箱先生、そして奏者、エキストラさん……編曲している時は一人だけど、こうやって素敵なものへと完成させるにはたくさんの人のご協力があってできるものだと再認識しました。
本番当日のホールリハで序盤の音が聞こえた時、何度も何度も泣きそうになりました。
本当にでっかいものをつくったなーと。
演奏会の準備、他の曲の編曲、自分が担当する指揮、本業の仕事、家庭環境のこと……今回の演奏会は自分は時間がある方だから色々とやろうとした結果、プライベートの方で同時多発的に何かが起きたりと追い詰められておりましたが、支えられたのはこの曲でした。
自分のキャパシティーを過信して無茶をしてはいけないと痛感しました。
演奏会を終わりを迎えるまで、そんな自分の今の限界を叩きつけられ、「もう天井かな、随分低い天井だったな……」と自分の中で終わりを真剣に考えておりました。
ですがそんな天井は本番の演奏で壊れました。
あの時、あの瞬間、それぞれの箇所に素敵な演奏をしていただいた箇所にありがとうと思った瞬間は今後の人生の中で大事にしたい時間です。
そう、これよりももっと素敵だと思うものを作りたいという気持ちがよみがえったのです。
これからの目標は、この組曲を超えるものを編曲することと、この曲を振れる指揮の技術をつけることです。
Twitterでも発言しましたが、演奏会は本当に一人で成立するものではないですね。
団の運営さん、統括の仲間たち、団員の皆様、ステージのスタッフさん達、フロアのスタッフさん達、ホールのスタッフさん、今回急なお願いにも関わらず演奏を引き受けていただいたエキストラさん、ご来場して頂いたお客様。
いろんな人のご協力があってこんなにも素敵な瞬間に立ち会えることができました。
本当に、本当にありがとうございました!!!!!
2022/9/6



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