「尋ねるプロジェクト」4-3
家に帰ってきて、僕はふと困ってしまった。
油絵は額装されている。もう1枚の版画or絵画は紙挟みに挟んで壁に掲げればよい。
「でも麦さんの作品はどうしよう?」
画廊のご主人は額装するのであれば、新宿の世界堂がよいと言っていたが、額装にお金をかけるならば、そのお金で作品を購入した方がよいとも言っていた。その晩、僕はベッドにもぐりこんでから、麦さんの作品をどのように展示しようかあれこれ考えているうちに眠りに落ちた。
「絵はまず自分で購入することから始まります」
ご主人が言っていたこの言葉の意味がじわじわと分かってきた。特に理由はない。作品を購入して自分のものにすることで、紙の上に表現された作品を作った人がどんな人だろうと興味が湧くのと同時に親近感を感じるのである。
翌朝、購入した麦さんの作品を観ながら、この作家がどんな方なのか、ものすごく興味が湧いてきた。インターネット検索をして、何点か麦さんの作品を見る。ただ、麦さんの詳しい情報はわからない。PCのディスプレイに映し出された麦さんの作品は多くが幻想的なもので、非常に魅力的だった。
「他の作品も欲しい」
画廊のご主人の術中に僕ははまってしまったのかもしれない。
その次の日。僕はまた銀座にいた。そのまま帰るつもりが、どうも足が画廊に向いてしまう。気づいた時には画廊の階段を上がっていた。
「こんにちは。先日はどうも」
ご主人はお客さんの接客中だった。僕に気付くと、
「いただいたメールにさっき返信しようと思っていたところです」
実はインターネットで見つけた麦さんのある作品に惹かれて、僕はご主人にメールで問い合わせをしていたのだ。画廊にはそのうちの1枚があったことを僕は覚えていた。でもその作品には対になるもう一つの作品がある。僕はできれば2枚一緒に購入したいと考えていた。
暫くするとお客さんが帰り、ご主人に尋ねてみる。
「ありますよ」
何ともうれしい返事だった。奥のスペースからその作品を手にしてご主人が戻ってきた。
「展示してあるのは夜。こちらは昼です」
2つの作品を見比べる。一つはレールが川を渡り、明るい風景に延びている。もう一つは、朽ち果てたレールが暗い夜の風景に延び、哀しげな印象を与える。これがその作品である。
ご主人の知っている麦さんの情報は以下のものだった。
・作家として生計を立てているわけではない。
・画廊に来るのは必ず昼過ぎで、仕事をしているようには見えない。
・年に数点作品を作るだけで、個展もそれほど行っていない。
「もう彼とは10年以上の付き合いですが、自分からあまり話す人ではないので私も彼の詳しいことは知らないんです」とご主人が言う。
何とも謎めいた方である。また画廊のご主人が彼のことをあまり詳しくないこともとても気に入った。なぜなら、作品そのもので麦さんとご主人が繋がっているからだ。
いま、僕はこの2点を購入し、どのように飾ろうか思案中である。ちょっとしたアイディアがあるので額装を自ら作る予定だ。(額装と呼べるほど立派なものではないけれど)完成したらここで公表したいと思います。
乞うご期待!
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