「尋ねるプロジェクト」4-1
前回の「尋ねるプロジェクト3」に福岡行の予定を書いたが、昨今の状況から出かけるのを躊躇している自分がいる。僕は何の根拠もなく、罹患しないとの確信を持っているが、高齢者家族の視線が厳しい。ウィルスはその宿主がキャリアとなり、何らかの形で拡散させる可能性を秘めているからだ。
まだ行かないと決めたわけではないが、福岡行のことは一旦おいて、「人に尋ねる」について書いてみたいと思う。
僕には一種の放浪癖がある。そして自然よりも都市が好きだ。マガジンに掲載した連載小説2「ブラックシューシャイン」の中に『人の目につかない場所探しコンテスト』について書いた。実はこれを僕は実践している。もうかれこれ10年以上になろうか。最近では直観で足が勝手に向くことがある。
先日、銀座で水素吸引(最近これにはまっている)をした後、徒歩で東京駅に向かって歩いていた。すると、とある場所で足が自然に止まった。高架脇のビルにある画廊の前だ。
画廊は2階にあるらしく、階段の登り口に沿って版画やらポスターが手招きをしているように置かれていた。僕は画廊に入ったことが一度もない。正確に言うと個展を開催している画廊には足を踏み入れたことはあったものの、メニューのない鮨屋と一緒で画廊(美術品を販売している場所)には近づかない方がよいと固く信じていた。
しかしながら得体の知れない不思議な誘惑はそんな僕の箍を外した。階段を上がっていくとドアの前に「ご自由にお入りください」という貼り紙がある。一旦、このドアを開けて中に入ったら、どんなことをすればよいのだろう。
ドアを開けて中に入ると、小さな部屋にびっしり絵が置かれていた。そこはニューヨークのビレッジにある中古レコード屋を髣髴とさせる場所だった。壁一面に絵が掲げられ、梱包されたままのものや額装がむき出しになったものが床の上にレコード棚のジャケットのように所狭しと置かれている。
「こういった場所に来るのは初めてなんです」
僕の口からついて出た言葉は平凡なせりふだった。
「ご自由に見てください。ただすみませんが、マスクは外していただけますか」
?????
ご自由にと言われても僕は戸惑うばかりだった。とりあえず僕はマスクを外し、手を後ろに組んで壁にかかっている絵を眺めた。するとオーナーらしきご主人のいるカウンターの横に貼り紙があった。
「マスクは覆面と一緒です。お外しください」
そいうことか。僕の?????は氷解していった。
「この重ねてあるものも見ていいですか?」
「どうぞ、どうぞ。何なら箱に入っているのも出してみてください」
そんなやり取りの中、僕は緊張しながら重ねられた額装をレコードジャケットを繰るように自分の方に倒し、絵を順々に見ていった。
「うちはほとんど版画です」
いきなりご主人が僕に声をかけた。確かにほとんどのものに合計枚数と何番目のものかを表す数字が記載されている。
(つづく)
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