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つくみず 『シメジ シミュレーション 01』 感想


Kindleで予約していたのを日付が変わってすぐに読んだ。とりいそぎの感想(なぜ取り急ぐ?)



かなり好き。『少女終末旅行』でガッツリ終末世界を描いた(星雲賞おめでとうございます)反動からか、今作は学園日常ギャグ漫画であった。おそらく作者も本来はこっち系のほうが描きたい作風であるような気も、終末のアンソロを読んでいると、する。知らんけど

かといって画のタッチやキャラクター構成(少女2人がメイン)などはほぼそのままであり、他にも魚や電柱や巨大建造物など、つくみず先生の"性癖"を感じられるアイコンやモチーフが随所に見られるのもあって、結果的な読み味は前作からそれほど変わらないとも言える。

こういう雰囲気のシュール系日常漫画としては、阿部共実の最新作『潮が舞い子が舞い』(めちゃくちゃ好き)をまず連想した。あとは平方イコルスン『スペシャル』とか。他にも穴掘り部顧問のもがわ先生にはとてつもないkashmir味を感じ、7話の「さんぽ」にはやはりpanpanya味を感じた。ここで挙げたような作家さんたちはなんとなく作風的にゆるくひとまとまりになっていて、ファンも大体同じ層である印象。つくみずさんはアニメ化の影響で他の層からの支持も膨大だけれど。

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鉄道ひとり旅が好きそうな顧問の先生(p.34より引用)

日常系の話の作り・展開自体は、例えば『潮が舞い~』ほどの突き抜けたオリジナリティはなく、どちらかといえば割と正統派な日常ギャグをしっかりやってるな〜と感じた。日常パートにオリジナリティが(それほど)ないのは、この漫画の場合はむしろプラスに働いている気がする。なぜならつくみず氏の最大の武器は「画」にあると個人的には思うから。本当に画が魅力的。この人の描くものを見ていると、画力というのは上手い/下手という単純な指標ではなく、いかにその人の描きたい作風にあった画のスタイルを確立できるかにかかっているんだなぁと思う。全く絵を描かない者が偉そうに言うことではないが。

画の時点でじゅうぶんに魅力的だから、おはなしを無理にキバツにしなくてもよい。むしろありきたりな日常系を基本に据えることで、そこからの逸脱だったり挑戦だったりズレだったりが引き立つタイプではないか?

その一例としてはコマ割りが挙げられる。
本作はたいてい基本に忠実な4コマ形式の画面構成となっている。だからといって4コマ漫画のように起承転結で落とす気はほとんどなく、ただ4コマ漫画のコマ割りを借りただけの普通の1話完結モノである。要するに、あたかも「コマ割りを考えるのが面倒だから」いちばんシンプルな4コマ割りにしているかのようである。(本懐は私の知るところではない)

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(p.23より引用)

だからこそ、時々現れる、4コマからは逸脱した部分が非常に引き立っている。特に「コマがないコマ」と言うべきか、ページ全体に背景が浸透したような演出をしてくることがあって(上図参照)、これが氏の背景デッサンの上手さと相まって最高の効果を発揮している。

このように、おはなし自体の面白さというよりも、そのおはなしの傍らにある小道具や背景、それらが絡み合って効果的に演出されたひとつの作品として、この漫画を楽しんだ。おはなしだけなら小説でもよく、画ならイラスト集でもいいなかで、考えてみればこれはまさに漫画ならではの表現ではないか。
4つのコマに寄り添うように並び立つ電柱(下図参照)とか、こういうストーリーに直接は関係ないけれどその存在が確かにそのページの雰囲気の醸成に繋がっているような表現にものすごく惹かれる。

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(p.12より引用)


「日常系としてはありきたり」と書いたが、本巻の終盤ではそのモードが解け、かなり前衛的な展開・画作りになる。ここはさすがの想像力と表現技術だなぁと感嘆させられた。日常系をやりつつ、大きなストーリーのうねりがありそうな予感を漂わせつつ次巻へ続く。ひたすらに並ぶ建造物群がどうしても好きだという癖を隠しきれていない点もよい(そもそも隠すつもりもない)。


キャラについて。
メインの少女ふたりは一見するとチト&ユーリだが、ちゃんと日常モノに合ったキャラ設定になっている。最も大きな違いは、ボケ・ツッコミが固定されていない点ではなかろうか。賢明で頭脳派なチトに対して適当で行動派なユーリ、という明確な対比関係は、放浪・冒険モノのストーリーを進める上では扱いやすい。しかしこれでは日常モノとしてはあまりに2人のやりとりがワンパターン過ぎる。何話も持たない。そこでしじま(しめじ)&まじめ(目玉焼き)という今作のメインふたりのキャラ造形がある。

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(p.18より引用)

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(p.22より引用)

基本的には、「友達になろうよ〜」とベタつくまじめをなげやりにいなすしじま、という構図ではある。しかし上図のようにどちらもボケ・ツッコミをこなせるため、やりとりが一辺倒にならずギャグを描きやすい。
(「ボケ・ツッコミ両方こなせる」というのはギャグ漫画ではまぁ基礎体力のようなものではあるため、わざわざ指摘するほどのことでもないが…)

「ツッコめる」ということは、そのやりとりにおいて比較的冷静に、場を客観視できているということだ。つまりツッコミキャラはわれわれ読者に近い心的立場にあるといえる。これを踏まえると、『シメジ シミュレーション』の2人はどちらも、われわれ読者が感情移入しやすいようなリアリティを持っている、ということになる。その象徴的な例が、いかにも頭の良さそうなしじまが「べつに勉強そんなできない」点にある。まじめも物凄い振り回しキャラかと思いきや、かなり普通の「真面目な」子の一面も強くあり、二人ともどこかにいそうな分だけ、日常的な掛け合いの幅が生まれる。もちろん「ボケ」もこなす分、フィクショナルな方向へ寄ることにはなるが、本作ではこの点において2人のバランスがかなり良いため、絶妙な虚構性と現実感を保ったキャラクターになっている。

また注目したいのが2人のクラスメイトである「よしこ」ら仲良し3人組。彼女らのような、メインキャラと少しだけ絡むけどまだ打ち解けるまではいかず物語の中心にも躍り出ていないグループの存在は、『ゆゆ式』の3人組(あいちゃん・岡ちー・ふみおちゃん)を連想させ、いずれは同じように2グループがより接近するのかもしれないと想像が膨らんで楽しい。

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(p.11より引用)

まぁあとは特筆すべきこととしてやっぱりあれがあると思うが、わざわざ書いてしまうのも趣がないため読んだ者のお楽しみということにする。

とりあえず次巻が楽しみ。お姉ちゃんや「間違いを直す」役割をしている謎の子供などを巡る大きなストーリーがどうなるか、2人の関係性がどうなるか…が気になるというよりは、独特そうで実は正統的で、かと思えばやっぱり独特なつくみず世界をもっと堪能したいという気持ち。

これを読むと阿部共実・panpanya・kashmir・平方イコルスンなどが読みたくなってくるので、2巻まではそれで間を繋ぐことにする。

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