志村貴子『敷居の住人』&『ラヴ・バズ』感想メモ
志村貴子さんの『敷居の住人』(新装版, 全6巻) と『ラヴ・バズ』(全3巻)を数ヶ月前に読んだときにとっていた感想メモをコピペしました。まじでコピペしただけです。読みにくいです。
Q. なぜいまさら?
A. 気分
『敷居の住人』感想メモ
1巻
これが志村貴子さんの連載デビュー作か〜
コマ割りや扉絵など、全体的に平成初期感がすごい。
BLEACH死神代行篇のような青春の雰囲気でとても好み。
ただ、初期作ということで色々と荒削りで場面転換が相変わらず多く、結構読みづらい。
凝った演出がたくさんある。コマの後ろにデザインを施してみたりとか。
話は……今のところ、不良イケメン緑髪中学生、本田千暁が自分にそっくりの顔の不良担任と、死んだと聞かされていた長赤髪クソ親父と出会って……どうなるんだ?という話
あとそれから、格ゲーが強い菊池奈々子と、お嬢様学校に通う近藤ゆか という2人の女子キャラも話に絡んできそう。
ストーリーに大きな目的も流れもなく、キャラクターが次々に登場してはかき乱していくプロットはこの時からそうなんだな。
全体的に話のトーンがぶっ飛んでる。
1話目から、男子中学生が痴漢にあってズボンに精液かけられるとかどうなってんだよ。
その主人公ちあきも喫煙するわ平気で学校サボるわの不良だし、兼田先生も授業中に生徒と一緒に校外へ散歩しに行く問題児だし……
最初、嫌なおっさん枠かと思ったハゲ教師がいちばんまともまである。振り回されてて可哀想に思えてくる。
キャラもストーリーも倫理観ぶっ飛んでてヤバいのに、誌面を覆うのはあっけらかんとしたのどかな雰囲気で、それが本作では若書き感と青春感へと繋がっている。
読みにくいけどこれはすき。
3巻読んだ
やべ〜 面白いとかではなく、ひたすら今の自分に沁みる。これほど青春・モラトリアムを体現した漫画があるだろうか
一応メインの登場人物は、ちあき、ナナコ、ゆかの3人でいいのかな
でも三角関係ではなく、こいつら全然互いに恋愛感情を持たない。そのくせ、女子は2人ともちあきに迫っているし、ゆかは付き合いまでする。
そもそも主人公のちあきは、中学から喫煙して髪を緑に染めて学校サボる問題児のクセに美少年で女の子からちやほやされる、どう考えても好きになれない属性の役満みたいなキャラなのに、心地良いんだよなぁ……次第に彼に同情したり、「若いな〜」と笑いつつも応援してしまう。
おそらくこの作品は、生きるのが上手な人には全く面白くないと思う。
子供がモラトリアムを謳歌してるならまだしも、大人までがロクに仕事もせずに親の責任も果たさずにのうのうと生きているクズばかり。
社会的な正しさなんてものとは無縁のところで、彼ら彼女らは何やかんや悩みながら生きている。
そこには感動する展開も、ご立派な思想やテーマも全くなくて、ただ人間関係と生活だけが描かれている。
志村貴子、初連載でこれってヤバすぎるだろ
完成度が高いというわけじゃなく、「売れよう」「読者を獲得しよう」という気概がほとんど見えない。堂に入っている。
志村貴子『敷居の住人 新装版 3』p.239より
ここのメタっぽい台詞好き。
実際そうなりそうだけどどうなんかな
兼田センセの彼女、今のところ最萌えキャラだな。めちゃくちゃ良い彼女でびびった。
たた、キクチナナコや近藤ゆか達、若者たちを応援したい気持ちが強い。
応援って言っても、別に彼女らの恋が実るのを願っているのではなく(本作は恋愛漫画でも少女漫画でもない)、ただ感情移入してしまう。
キクチナナコの危なっかしさは、放浪息子の千葉さおりに通ずるものがある。近藤ゆかも大概だが。
志村貴子『敷居の住人 新装版 3』p.170
ここすき
4巻よんだ。
何だかんだで色んな事件やイベントが高密度で起こってはいるんだよな。それを重大事として描かないから「何もないのらりくらりな日常」話っぽく思えるだけで。
アイドル養成所に普通に受かって普通に通い始めて普通に辞めたの笑った。こういうところだよなぁ
夢のなかで彼女が別の女子たちに変わりながら対話するところエヴァかと思った。
というか近藤ゆかもキクチナナコも割とアスカっぽい……のか?レイではない。2人ともアスカとマリとミサトさんを混ぜ合わせた感じ。
ゆかの外見は散髪前はアスカっぽかったけど。
行為後にゆかがそっけなく返すシーンが4巻でいちばん良かった。
何だかんだで千暁を中心とした恋愛多角関係が形成されつつある。
だけど、マリーみたいなドロドロ生々しい雰囲気にならない。皆わりと冷めているというか達観しているというか。
それぞれに悩みを抱えて情緒不安定ではあるんだけど、互いに激昂するお仕着せの修羅場にはならない。1人で対処することが多い。
千暁の家にひと訊ねてきすぎ問題
作者あとがきによると、やっぱり90年代を意識して扉絵とか書いてたんだな。
90年代どころか80年代だと指摘されるのはウケる。やっぱり古臭いんだね……でも好きだなぁこの画風
巻の途中でいきなりカラーページになってオレンジ髪の子が現れてBLEACH19巻かと思った。
なんだかんだで最初の2人が都合のいいところで丸く収まりそうな雰囲気も出始めたが、どうなるかな。
5巻
23歳で連載始めたってマジかよ……いちばんの衝撃……
5巻あとがき
〈敷居の住人のよくないところ〉
1 主人公がなまいき
2 ヒロインがネガティブ
3 ヒロインがわがまま
4 主人公もわがまま
5 なにもはじまらない
6 なにもおわらない
6巻
ぜんぶ読み終えた。
いやーーーー・・・・・これは……ヤバいな。ここまで一切畳まない、カタルシスの欠片もない、主人公たちに成長もない(歳をとって卒業はしたが)漫画は初めてだ。
最終巻といいつつ、すでにずっと後日談のようで……
というか、この漫画は最初から最後まで、何かの前日譚か後日譚のようだった。
志村貴子恐ろしすぎる。こんな漫画ただでさえ描けないのに、初連載作って……(初連載作だからにしてもおかしい)
まぁこの後の長篇はこれに比べればまだ大まかなストーリーがあるので、丸くなったというか成長したというか……
でも、何のカタルシスもないけど、この漫画でしか感じられない凄み、気の緩みと同等の質感の凄みがある。
終盤でさらに主要キャラたちに子供を蹴らせたりする……
読者に好感を持ってもらおうという意識がまるでないのが最高
早川さんに結局出さなかったキクチナナコの手紙(千暁が書いた)とか、やる気を失ったテディベアの裁縫やアイドルへの道、鎌倉旅行で泊めてもらった人とか、そういう物語未満の物語が積み重なってこの作品は出来ていて、それこそが人生だというまとめ方をすればいい感じになるのだろうけど、今はもう少し、言葉で言い表せないこの余韻を味わっていたい。
つぎ
『ラヴ・バズ』感想メモ
1巻
敷居の住人から続くダメ人間モノ
ここまでダメな大人・親もなかなかいない
幼稚園前の娘に「あたしが母親でしまったとか思ってる?」と尋ねたり、「家族をバカにしてもあたしをバカにするな!」という痛快な台詞を言ったり…
逃げて逃げて逃げ続けて、それでもなんやかんやで頑張ってはいて、でも逃げて周りに迷惑をかけ続けて……
いちばんヤバいのは「子供の面倒見れなくなったら言って」と吐く好青年な父親だが。
育児をちゃんとやらない母親が創作で出てくるとき、あからさまな勧善懲悪される悪役か、実は彼女も辛いんです同情誘い系か、テンプレが決まっているものだが、
この主人公はただただ人間として大人として問題がありまくり、でも露悪にもならずなんやかんや周りに囲まれて殴られながら生きている。
・その場のツッコミ・罪の清算としてのプロレス技
主人公は周りに迷惑をかけまくるので、その反動で殴られたり技をかけられたりよくしている。
普通の漫画・生活だと、こうした物理的な暴力はそうそうあり得ないが、本作ではプロレスによって、その場で主人公の問題行動が清算されていく趣がある。
暴力ヒロインによってセクハラが清算されるのに少し似ている。
これは他の志村貴子作品と大きく異なる特徴であると思われる。
例えば敷居の住人にもどうしようもない大人はたくさん出てくるが、彼らは暴力で懲らしめられることなくのうのうと生きている。
まぁこの主人公かおるも殴られながらのうのうと生きてはいるのだが。
ゆりちゃんとのライバル?関係、百合として普通に強い
安易な消費を許さない関係が最高
相変わらず場面の飛ばし方・繋ぎ方がアクロバティック。
なのを全然アクロバティックにみせずに平然とやるので、一瞬場面が飛んでいることに気付かない。
会話も説明的ではなく、読者に易しくない。いつものことだが。
敷居の住人からモノローグがぐっと少なくなっている。
2巻
男が逃げたんじゃなくてあんたが逃げた(&ナンパした)のか……
人生の醜態成
3巻
素晴らしかった…泣いた
志村貴子作品でいちばんと言っていいほどまとまってるんじゃないか。
そこは敷居の住人と真逆だな。
後日譚では、かおるとゆりの間にはえりかの存在が重大になっている。
〜〜
おわり。気が向いたら追加でなにか書くかも。
いま思ったのは「暴力が平然と存在するのにほのぼのとした雰囲気の現代ドラマ」としては『水は海に向かって流れる』などの田島列島作品にちょい近いかも、ということ。
『敷居の住人』の雰囲気が尾崎翠の小説『第七官界彷徨』に近いという指摘にはなるほどたしかにと膝を打った。