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500円で買った幸せな思い出

息子が不登校になってしばらく経った頃だと思う。
娘と2人で家電屋さんに行った。

弟が学校に行かなくなって、私なら弟ばっかり家でゆっくりしててズルい!と思いそうなものなのに、彼女は一言も不満を言わずに登校を続けていて、そのことが心の負担になっていないかとても気になっていた。
状況は説明してるし、もしあなたも休憩が欲しければ学校を休んでお出かけしようねと伝えてはいたけれど、本当に大丈夫かなと心配していた。
あまり、アレしたいコレ欲しいと言わない娘に、娘だけのために何か喜ぶことをしてあげたいと考えていた、そんな時期だった。

買い物を終えてさあ帰ろうかという時、2人同時にオレンジジュースの自販機が目に入った。
最近ところどころで見かける、その場でオレンジを絞ってくれるやつ。
前から娘が目線を送っていて、飲んでみたいのかなあと思っていた、あれ。

おいしいのかなあ、気になるよねえ。でも今は息子いないし…一緒にいる時に飲んでみよっか!と言うと、娘はこっくりと頷いた。
お店を出て一歩二歩…と歩いたところで、いやちがう!今だ!と言った私を、娘はきょとんとして見上げた。

娘、飲もう!今だ、今飲もう!!!

そう言って引き返した。
彼女の喜ぶ顔が見たかった私のために、引き返した。

娘に500円玉を渡す。お金を入れると、オレンジが転がり機械が動き、果汁が搾られていく。
ジュースを飲んだ娘は、とっっっっっても嬉しそうな顔で、おいしい〜!!!と笑った。
おいしそうにごくごくと飲む顔が500円で見られるなんて、安いもんだと思った。

そのあとも、街なかでその機械を見かける度に、娘はこっそり私を見て嬉しそうに笑う。
私も娘の顔をみて、ねっ!という表情でこっそり笑う。
多分私は、娘が大人になってからもこの顔を思い出すだろう。
あの時引き返してよかったと、今でも心から思う。
500円のオレンジジュース、幸せな思い出をありがとう。

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