路面電車
ボクは路面電車が大好きだ。本当に、なモノ。
物心ついたころには電車が大好きだったボクにとって、一番大好きだったのがそう。路面電車だった。
親戚の家が荒川にあって、よく都電荒川線に乗って遊びに行ったもんです。あらかわ遊園に行ったり、サンシャインシティに行ったり。
チンチン電車の愛称そのままに、発車合図をチンチンと鳴らし、吊り掛け車特有の唸りと共に発車。そして路面電車でしか味わえない急に音が上がっていく感じと、家々や車の間を軽快に飛ばしていく景色。そしてマスコンハンドルには手編みの謎のモノ。回る扇風機。アレこそがボクが一番懐かしいと思う風景なのかもしれない。そして今でも追い続けている。つまりボクは過去に囚われ、過去を懐かしみ、過去に還りたいのかも知れない。
そして路面電車で記憶が次に深いのが、自分の父方の故郷である長崎だ。冒頭の写真のように長崎は路面電車がある街だ。非常に古い電車から、リトルダンサーシリーズと呼ばれるアルナ工機の新型路面電車までもが勢ぞろい。まさに路面電車の博物館と博覧会ともいうべき場所である。
しかし、自分が関東在住ということもあって、あまり行く機会もなく結局最初に物心が付いてから訪れたのは、自分の祖父が危篤になった時だった。
祖父は家族が言う所、ボクそっくりなのだという。そして怒りやすい性格だからそっくりな人間が来たら口論になるから、会わなくてよかったのではないかと。
はっきり言って、直接話してみたかった。電話でしか自分の父方の祖父とは話をしたことが無かった。だからこそ、長崎という街に惹かれ、一か月免許を取るついでに暮らして、自分の祖父が生まれ、育ち、骨を埋めていった街を知りたかったのかもしれない。
その時はそんな気持ちは無かったかもしれない。でも、今改めて考えるとそういう気持ちも少しはあったんじゃないかなと思う部分がある。
でも、長崎の路面電車は都電荒川線のように懐かしさではなく、ただの知らない場所のただ路面電車であったというだけだった。乗って楽しい。これだけ。そう、これだけで良いのだが自分の求めていたものは見つからなかった。寂しいような、疎外感のような、長崎に認められなかった、長崎を認められなかった。そういう感情が今巡っている。
大阪の阪堺電車にも乗りに行った。ここは非常に面白かった。大阪特有の喧騒感が妙に落ち着くものがあり、住吉駅前から天王寺駅まで楽しく乗った記憶がある。あの喧騒感は到底都電荒川線や長崎電軌では味わえない。今度は他の電停でも降りてみたいが、当分先だろう。
京福電車に初めて乗ったのは、修学旅行だった。中学の。ボクはどうしても鉄道要素が修学旅行に欲しく、梅小路はドン引きされるなぁと思って無理やり嵐山観光を入れて嵐電を利用するように仕向けた。そして乗って、ああ。この電車は路面電車でも自分が求めている路面電車ではない。とすぐに悟ってしまった。京福電車が嫌いなわけではないし、むしろ好きな部類なのだが、自分が考える路面電車、というモノとは違った。京都らしさがある意味違いを感じてしまったのかもしれない。ボクにとって路面電車はお上品であってはならない。
路面電車を求めて、岡山まで出向いたこともあった。18キッパーだったので東北本線・東海道線・山陽本線を乗り継いで岡山まで行ったのは非常にいい経験だった。岡山ではただただ路面電車に乗り、そして町の文房具屋で軽い談笑をした。アレはいい。皆さんも是非、見知らぬ街で見知らぬ店に入って話をすると良い。自分の知らないモノが見えてくる。
ふと思うと、ボクが成長する上で大事な考え事をしていたのはいつも東海道本線だった気がする。『1984年』をムーンライトながらで読み"ながら"、自分がどういう生き方をするのが一番大切なのかについて考え事をし"ながら"、明けの明星を見"ながら""長良"川橋梁を渡った。あれはいい思い出だ。というか、何回「ながら」を登場させるんだ?
路面電車と言えば、江ノ電も腰越~江ノ島間は併用軌道だから路面電車と呼べるのかもしれない。だが、江ノ電は撮影するのは好きだし、乗り物としては非常に好きなのだが、考え事をするのには非常に向いていない。生活感の無い喧騒感が非常に苦手だからだ。行楽気分の人間の喧騒感はイマイチいけ好かない部分がある。だってボクくらいでしょうね、楽しい時でも、悪い事を考える人間は。
やっぱりボクの中心は、都電荒川線なんだなぁって思う。いつまでたっても。
なんとも言えない喧騒感。都心であるにも関わらず、地方都市感が少し残っている雰囲気。かといって田舎らしさは無い。東京に憧れるオトコの原点は、都電と首都高なのかも知れない。
そして心の傷を都電荒川線によって癒すたびに、自分はどんどん弱くなっていく。いつか記憶の電車は消えていくにもかかわらずだ。そして自分は強くならなければならないにもかかわらずだ。大人になるということはそういうことなのだから。
もう一度、あの都電荒川線に乗りたい。かなわぬ夢だが。