【B4作品批評レポート#9】〈U〉の世界観

こんにちは。門脇研B4作品批評レポートリレーのアンカーを務めさせていただきます、小野恵実です。私は先月公開された細田守監督の最新作、「竜とそばかすの姫」のメインテーマ「U」について批評します。


はじめに

初めて「U」を映画館で聴いた時は鳥肌がぶわっと出てきて、一瞬で世界観に引き込まれました。映画が終わった後も余韻は冷めず、帰りの電車では「U」のメロディが脳内リピートされていました。世界観に合った音楽にはどのようなトリックがあるのか、頭の中にずっと残る原因は何か、客観的に分析することで何か面白いことが分かるのではないかと思い、音楽を批評することにしました。

メインテーマ

あらすじ                                                                                                                高知の自然豊かな村に住む17歳の女子高生・すずは幼い頃に母を事故で亡くし、心に大きな傷を抱えていた。ある日、インターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加し、As(アズ)と呼ばれる自分の分身を作ることに。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことが出来た。ベルの歌は瞬く間に話題となり、世界中の人気者になっていく。そんなベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在。やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探し(アンベイル)。ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。https://hlo.tohotheater.jp/net/movie/TNPI3060J01.do?sakuhin_cd=019412

あらすじにあるように、主人公は仮想世界で歌を歌い、人気者になっていきます。この設定があるため、音楽が本編で重要な要素であることがわかります。中でもメインテーマ「U」は本編冒頭で流れ、映画の第一印象を決定づける大事な楽曲です。


※今回出てくる音楽用語や楽器の説明(音楽に特別詳しいわけではないので、大体こんな感じという説明です。)

マリンバ・・・木琴のような鍵盤打楽器。
ティンパニ・・・打楽器。低音。様々な音を出せる。
バスドラム・・・打楽器。低音。
ドラムロール・・・超速で連打しているような奏法。
小節・・・数個の音を含む程度の長さ。
16ビート・・・音符が多く、細かい。(1小節にタタタタ タタタタ タタタタ タタタタと細かいリズムが刻まれる。4ビートの場合は1小節にタン タン タン タン。8ビートの場合は1小節にタタ タタ タタ タタ。)
アクセント・・・音を強調して。
クレッシェンド・・・だんだん大きく。


構成

イントロ(16小節)→サビ(8小節)→間奏(8小節)→Aメロ(8小節)→Bメロ(6小節)→サビ(8小節)→Cメロ(8小節)→Bメロ(10小節)→サビ(8小節)→アウトロ(8小節)

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サビ前は落ち着いていて、サビでどかんと盛り上がる。J-popでよく見られる構成だと思います。この曲ではその「どかん」を作り出す鍵として歌のメロディの他に、楽器が生み出す音の厚みが考えられます。始めから終わりまで、この曲には多くの打楽器が登場します。イントロは短いドラムロール(超速で連打しているような奏法)から始まり、16ビートでドラムが鳴り続け、Aメロ・Bメロに関してはほぼ打楽器で構成されています。サビはというと、電子音が加わり、2番では金管楽器も加わります。様々な音の重なり方によって厚みが変化し、曲が構成されています。


リズム

この曲を一度聴いてうまく口ずさむことができる人は少ないと思います。それはおそらく1小節に入る言葉の数が多く(=細かいリズム)、不規則なリズムであることが原因です。しかし音自体は単純で、調号もなく(ピアノで言うと全て白い鍵盤で構成)、サビの歌い出しは「ドシラソファミレド」ときれいに一音ずつ下がっています。リズムによって音の並びの単純さが明快でなくなっているのです。

画像2


また、細かいリズムによる効果はこの映画の世界観の演出にも繋がります。<U>はインターネット上にある仮想空間です。インターネットの世界では数多くの情報がものすごい速さで飛び交っています。細かいリズムはその速さを表していると捉えることもできます。(※写真の楽譜は耳コピでかいたものなので間違っているかもしれません。ご了承ください。)


音色

先ほどリズムによる効果を書きましたが、次は音色による効果について考えていきたいと思います。ドラムなどの打楽器が一定のテンポで鳴っていて、そこに金管楽器(トランペットなど)や低音の打楽器(ティンパニやバスドラム)、鍵盤打楽器(マリンバ)が入ってきます。トランペットはサビ直前のクレッシェンド部分や、Cメロ以降の盛り上がるところで使われ、音に広がりを持たせます。低音の打楽器は、振動の振れ幅が大きいため体に響き、迫力を感じさせます。私が映画館で曲を聴いて鳥肌が立った原因は、重低音によるものだったのかもしれません。最後はマリンバについて。聴いてもらえば分かると思いますが、マリンバはとても幻想的な音色を出します。キャラクターが飛んで移動する<U>の非現実的な世界観をマリンバの軽やかで幻想的な音色で表現していると捉えられます。


まとめ

「U」は<U>の世界観をリズム・音で表現し、構成や音の強弱によって観客にこの後に続く映画本編への期待を抱かせます。「U」は様々な手法を用いて、観客に強い印象を与えているのではないでしょうか。


最後に

音楽の捉え方や感じ方は人それぞれで正解はないと思っています。そもそも音楽批評に意味はあるのか、という議論もされるくらいですから、今回音楽を取り扱うことに対して不安もありました。いざ分析を始めると面白い発見があり、やりがいもありましたが、音楽の表現手法を言葉にして伝えるということに苦労し、詳しくない分野の作品批評の難しさを感じました。言葉で表現しきれずもやもやした気持ちが残っておりますが、このあたりでお終いにさせていただきます。お読みいただきありがとうございました。

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