―順応―
少女は、何も聞こえない世界に憧れた.
耳をふさいでも、物の声が聞こえる.
人の唇が視覚で動かなくても.
その人の声や感情が流れてくる.
何時からか少女は.
何も聞こえない世界に憧れた.
かたく口を噤む人になって.
誰もいなく.
人の手に、思いに触れている物の無い.
雑草敷き詰まる川べりに行くようになった.
空ばかり見上げて.
雲の動きばかりを見やる.
その時間の流れだけは.
唯一、少女の安息をゆるし.
唯一、誰の何の意識も気遣わずにすんだ.
人は少女を奇異な目でみる.
何時しか少女は、生き方のコツをおぼえる.
おぼえざるをえなかったから.
そしていつからか少女は.
俗世に染まり.
何も、
聞こえなくなった..
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