「最終兵器彼女」を読んだよ
・お久しぶりです、ゆーぼんです。今まで(というか6月中)は毎日日記を書いていましたが、今回から不定期で最近読んだり観たり聴いたりした作品の感想を書いていきます。お暇があれば是非とも読んでいってくれ。
事前印象
・私が作品を見るまでにこの作品に対してどういうイメージを持っていたかというと、何一つなにも知らなかった。どんなジャンルかも読むまで分からなかったレベルである。かろうじてタイトルをどこかで聞いたことあるかな…?いや…?どーだろ?うん?という、もうまっさらといっても差し支えないような知識量で読み始めたのだった。勿論誰が途中で死ぬかとか、オチはどんな風になるのかも全く知らない。漫画を読む状態としては最高にベストな状態だ。そんな漫画をよく全巻読もうと決心したなと思うかもしれないが、本作を私にオススメしてきた知人が今までオススメしてくれた漫画が漏れなくめちゃめちゃに面白かったので、今回も絶対そうだろう!とろくに内容を調べることもせずに、メルカリで一気に全巻購入したのだ。この記事があるのは漫画センスのいいこの知人のおかげです。この場をお借りして感謝致します。
感想…の前に
・ここからの感想パートでは極力ネタバレを排して本作の魅力を伝えようかと思うが、作品の要素について語る際に作品の中核とまで行かない、薄皮程度の内容には軽微に触れる可能性がある。本当に1ミリでも、作品の情報を入れたくないという人はこの先を読むのは非推奨だ。予め断っておくが、「最終兵器彼女」は本当に何も知識がない状態で挑むのが一番楽しい類の作品だ。なのでこれを読んでいる本作未読のあなたが一番とるべき行動は、今すぐnoteのタブを削除して最終兵器彼女の全巻を購入し、その場で完結まで読み通すことである。
文章がよくわからないところまで行ってしまったので、そろそろ作品の話へと移ろう。
あらすじ
ぎこちなくも清純な交際をしている高校生、シュウジとちせ。札幌が突然の空爆に襲われたある日、シュウジは思いも寄らない姿に変身していたちせに出会った。背中から羽が生え、空をマッハ2の速度で飛び、とてつもなく破壊能力を持つ、自衛隊によって改造された“最終兵器”。それがちせだった。地球のあちこちで紛争が起こるたびに呼び出され現場へ向っていくちせと、彼女を見守ることしかできないシュウジ。ふたりの未来はいったい…!?
・何を言ってんだという感じのあらすじだが、こうとしか言いようがないのだから仕方がない。かわいいカップルの彼女側が彼氏の知らないうちに日本を守る最終兵器に改造されていた。こうして要約してもやはり何言ってんだって感じだ。この最終兵器に改造した者やちせがそれに選ばれた理由、戦争の裏側などの世界観の説明はほんのりと行われはするのだが、本当にほんのりとでそれが主人公たち(=上の文にいる「シュウジ」と「ちせ」)の物語にさしたる影響を与えることはない。なので正直最後まで読んでも「こいつら何なんだよ?」という「謎」な感触は消えないのだが、これは全く問題ではないのだ。本作は、徹底的なほどに「シュウジ」と「ちせ」の物語として完結しているからだ。
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作品の魅力
・私が本作を初見で読んでいた時に、「おもしろさ」と同等か、それ以上に感じていたかもしれない感覚が「奇妙さ」、「違和感」であった。これが何由来の感覚だったんだというのに見当がついたのは、読了してしばらく後の事だった。本作では最終兵器と未知の勢力の戦い、各地で起こる戦争と物的被害という、「ウルトラマン」のウルトラマン抜きとも言えるようなシリアスで壮大な世界観がバックにあることは1巻から示唆され続ける(示唆というか、この終末世界感は作品の根底要素としてあり続ける)のだが、メインキャラクターの描写としては一貫して、等身大の高校生の何の変哲もない日常として終始している。ストーリーが進んで、最初は対岸の火事のような出来事だった「戦争」がついに主人公らの日常に侵食していっても、その絶望に対し各々の向き合い方はすれど「日常」という空気感は最後の最後まで壊れることはない。そしてこれは、主人公であるシュウジとちせが一番顕著である。上記の解説文を読むとわかるが、本作において「戦争の終結」や「世界の平和」などといったことは目的として浮かび上がらない。ただひとつ、シュウジとちせがお互いに恋をして成長していく。これこそが本作の主題であり、究極的なことを言えば先程つらつらと述べたようなハードな世界設定も、その他に登場するキャラクターたちも、主人公2人の物語を構築するための「歯車」なのだ。Amazonや電子書籍サービスなんかで「最終兵器彼女」と検索して全巻の書影を見てみてほしいのだが、全巻通してシュウジかちせ以外のキャラが表紙に映っていない。(2巻と7巻は兵器になっているちせだと思う)つまり本作はこれほどまでに「ふたりの物語」として成立している。もっといえば、シュウジはこれといって戦争に関わったりなどはしないので「ふたりの日常の物語」と、こう言った方が適当だろうか。
この「大規模な世界観」を舞台装置に、「高校生二人の日常」を織りなす、アンバランスさ。危うさ。これこそが私が初見時に感じた猛烈な「違和感」の正体であり、本作を本作たらしめている魅力である。
・これは読了してから知ったことなのだが、本作は「セカイ系」と呼ばれるジャンルの代表的な作品のひとつらしい。セカイ系というのがどういうのかというと、「主人公とその周辺人物のみで作品描写が完結しており、主人公の心情の変化などがそのまま世界の行方に反映される」ような作品の事を言うらしい。(インターネットで調べた定義を自分なりに解釈して要約したので、間違いがあれば申し訳ない)これは私が本作について感じた奇妙さの完璧な言語化・ジャンル化であり、つまり先ほど私がつらつら長ったらしく書いた本作の魅力は「セカイ系の代表!!!」などと言い換えてしまえばすぐに終わったのだが、作品を読んでる際中知らなかった言葉で、そうでなくても作品を読んで生まれた混沌とした感情の渦を短絡的にひとつの〇〇系といった言葉に纏めたくないなと思ったので、何とか自分の言葉で出来の悪い感想を綴ってみた次第だ。こういうことを言うと「じゃあお前二度と家系ラーメンって単語使うなよ!!!」などと言われそうだが、それとこれは別だろと言わせていただきたい。
・脱線しすぎた。話を本作の魅力について戻します。先ほどの文章で「サブキャラクターも全員主人公の歯車www」みたいなナメた事を書いていたが、正直私がこの漫画で一番好きなのはサブキャラクター周りの描写なのだ。もちろん全編通してこの物語は主役二人の物語というとらえ方に変わりはないし、サブキャラクターたちも主人公二人を取り巻く日常の景色の一環であるような扱いだと思っているのだが、だからこその一人ひとりのすべては語られない人間性・行間の奥深さが非常に心にしみる。そしてそのサブの登場人物たちの言動や行動がシュウジとちせの心理状態や考えに多大な影響を及ぼすことも少なくなく、見方を変えてみればこの漫画は数多くのサブキャラたちとの出会いによって心を動かすシュウジとちせのロードムービーとしても読めるのかもしれない。ちなみに、私が一番好きなサブキャラクターは自衛隊員のテツさんです。上述の通り登場キャラたちがだいたい日常の風景として描かれる中、自衛隊という紛争の前線で戦うテツさんを筆頭としたリアルな戦場の様子が挿入されるのだが、これがまたのんびりとした日常に浸って慣れていた読者のメンタルにゴリゴリと圧をかけていく。劇中にて、兵器として戦場に駆り出されているちせと、ちせの帰りを待っているシュウジがそれぞれ同じ時間の別視点で描かれる場面があるのだが、私がこの漫画で一番好きなのはこの辺りのストーリーかもしれない。とにかくテツさんは良いのだ。
・あと他にこの漫画のいいところと言ったら何だろうと聞かれてみれば、私は「絵柄」と答える。今まで載せた画像を見てもわかる通り、本作の絵柄はかなりゆるめなタッチであり極端なデフォルメが挟まることも少なくないのだが(絵柄だけならちょっと前の少女漫画雑誌のギャグ漫画枠とかにあっていいんじゃないか?とか思ったりする)、そのうえで人体の欠損、負傷、人間の欲望などといった仄暗い側面も絵柄を崩さないままにしっかり妥協なく描写する。私が今まで語ってきた本作の魅力であるアンバランスな雰囲気を一番わかりやすく象徴しているものが、絵柄と言えるだろう。また、これは個人の感性もあると思うのだが、私はシリアスな絵柄のリアルなキャラがシリアスなことを言うよりも、ゆるい絵柄のカワイイキャラがシリアスなことを言う方が同じことを言っていても衝撃度が割と違うんじゃないかと思っている。劇中でちせがシュウジに対して言っていた「ある一言」のシーンが、最初読んだとき背骨が凍り付くんじゃないかと思うほどの衝撃を受けた記憶がある。今でも本作の大好きなシーンのひとつだ。
・いろいろ書き連ねていったが、改めてそれぞれの本作の魅力を見ていったときにすべての根っこにあるのが「予測不可能感」であるのではないかと思った。本作は主人公たちの最終目標のようなものが描写されるでもなく、ひたすらに日常と非日常、希望と絶望のコントラストで物語が織りなされていく。そのため、劇中世界には未来の不安定感、期待感と恐怖を同等に孕んだ薄暗い空気が常に漂っている。それが、ゴールの見えない暗闇の中をひたすらに疾走しているような感覚を与えるのだ。私はずっと読みながら「どうなっていくんだ!?」という感情が最終話まで抜ける気がしなかったし、読書中に作品に置いて行かれる!!という風に思ったのは当分ない経験だった気がする。誤解されないよう書いておくがこれは文句などではなく、私が本作を「最高だった!!」と胸を張って言える理由である。同じような感覚を体験できる作品は、なかなか世界に転がっていないのではないだろうか。
まとめ
・そんなわけで、最終兵器彼女の感想でした。最初はもっと理路整然として分かりやすいレビューのような文を目指していたのだが、本作の好きなところをダラダラと書き散らしていったらこんな形になってしまった。それでも本作を読んでいる方には私の言いたいことの3割でも伝わってくれれば感無量であるし、本作未読の方もこれを機に興味を抱いていただければこんなに最高なことはないと思っている。そんなわけで、また面白い作品に出合うことがあればこうして感想文を書いてみる所存です。ゆーぼんでした。それでは。