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不動産賃貸借取引のファイナンス・リースってどういうこと?

「リースに関する会計基準」が2027年4月1日以降開始する事業年度(2028年3月期)から適用されることが決定しました。

今回は新リース会計基準における不動産賃貸借取引のファイナンス・リースについて説明します。


1.不動産賃貸借取引は基本的にオペレーティング・リースである

リース会計基準におけるリースはファイナンス・リースとオペレーティング・リースの2種類です。

ファイナンス・リースはほぼ買ったのと同じリースです。オペレーティング・リースはファイナンス・リース以外のリースです。

ファイナンス・リースを判定する基準は、解約不能とフルペイアウト(現在価値基準と経済的耐用年数基準)です(図表1)。

【図表1:ファイナンス・リースの判定要件】

通常、不動産賃貸借取引はこの要件を満たしません。
まず、不動産賃貸借取引は事前の告知により解約が可能です。
不動産賃貸借取引の期間は数年(2~3年)です。耐用年数50年の75%(37.5年)も物件を借りませんね。
だから、不動産賃貸借取引は基本的にオペレーティング・リースに該当します。

しかし、不動産賃貸借取引にもファイナンス・リースは存在します。
具体的にどのような不動産賃貸借取引がファイナンス・リースに該当するのでしょうか?

ここでは不動産賃貸借取引のファイナンス・リースについて説明します。

2.リースの借手と貸手の会計処理は違う

リース会計基準の改正のメインはオペレーティング・リースの借手の会計処理が売買処理に変更される点です。一方、オペレーティング・リースの貸手の会計処理は賃貸借処理のままです。
借手と貸手の会計処理を比較したものが図表2です。

【図表2:新リース会計基準におけるリースの借手と貸手の会計処理の比較】

借手はファイナンス・リースでもオペレーティング・リースでも、会計処理方法は売買処理しかありません。
貸手の会計処理方法は、ファイナンス・リースが売買処理、オペレーティング・リースが賃貸借処理と異なります。

3.不動産賃貸借取引のファイナンス・リースとは

リースの貸手は会計処理方法を決定するために、リースがファイナンス・リースに該当するか否かを判定します。

まず、建物は耐用年数がありますから、ファイナンス・リースの判定ができます。
しかし、土地には経年劣化がなく、未来永劫利用できます。つまり、土地は経済的耐用年数がありません(無限大)。

このため、土地の賃貸借契約については、リース期間の終了時にリース対象資産の所有権が借手に移転するもの、割安購入選択権が確実に行使されるものについてはファイナンス・リースとみなし、それ以外はオペレーティング・リースに区分します。
つまり、土地の賃貸借契約については、所有権移転=ファイナンス・リース、所有権移転外=オペレーティング・リースと判定するのです(図表3)。
建物の賃貸借契約は通常のリースとしてファイナンス・リースの判定をします。

次に、不動産賃貸借契約では土地と建物を一括して賃貸することが多いでしょう。
例えば、工場(建物)を賃貸する場合、その敷地(土地)も対象に含みますよね。

土地と建物のファイナンス・リースの判定方法は違います。なので、不動産賃貸借取引のファイナンス・リースの判定は、土地と建物を別々にしないといけません。

土地と建物を一括したリース(「建物賃貸借契約」と記載されている契約も含む)は、リース料を合理的な方法で土地に係る部分と建物等に係る部分に分割します。
そのうえで、建物について現在価値基準の判定を行います(図表4)。

【図表3:土地のリースの判定】

【図表4:建物のリースの判定】

このように、不動産賃貸借契約では土地と建物を別々の契約としてファイナンス・リースに該当するか否かを判断します。
同じ不動産賃貸借契約でも土地はオペレーティング・リース、建物はファイナンス・リースと判定されるケースもあり得ます。

4.例題

具体例で説明しましょう。

【問題】

A社(貸主)はB社(借主)と30年間の定期借家契約を締結しました。この契約はファイナンス・リースに該当しますか?

・リース料の割引現在価値:2億円
・土地・建物のリース料の比率=50:50
・土地の時価:1億円
・建物の時価:1億円

【解答】
建物のみファイナンス・リースに該当する

【解説】
リース料の割引現在価値が2億円、土地・建物のリース料の比率が50:50なので、土地・建物のリース料の現在価値はそれぞれ1億円です。

まず、建物について判定しましょう。
リース料総額の現在価値÷建物の時価=100%>90%
となるため、建物の賃貸借契約はファイナンス・リースに該当します)。
※ファイナンス・リースの要件は図表1に記載。

続いて、土地のファイナンス・リースの判定です。
定期借家契約は契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借契約が終了します。つまり、所有権移転はありません。
土地の賃貸借契約はオペレーティング・リースに該当します。
※土地のファイナンス・リースの要件は図表3に記載。

よって、建物の賃貸借契約のみファイナンス・リースに該当します。

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このように、不動産賃貸借取引のファイナンス・リースの判定方法は複雑です。
不動産賃貸借取引においてファイナンス・リースはほぼありませんが、不動産関係者は長期の賃貸借契約の際には頭の片隅に入れておいたほうがいいでしょう。

ということで、今回は新リース会計基準における不動産賃貸借取引のファイナンス・リースについて説明しました。
次回は別のトピックを解説します。


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なお、新リース会計基準について詳しく知りたい人はこちらを参考にしてください。



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