税制適格ストックオプションの税制改正(その2)
前回は税制非適格のストックオプション(以下、「SO」といいます)について説明しました。税制非適格SOは権利行使時に給与所得が発生するため、SOの付与者(個人取得者)は権利行使して取得した株式を売却する前に納税するケースが発生します。その際の資金負担を考慮して導入されたのが税制適格SOです。
今回は税制適格SOについて解説します。
3.税制適格ストックオプション
まず、税制適格SOを発行してほしいのは取得者(役職員)だけです。つまり、税制適格か税制非適格かというのは、取得者(役職員)に税務上のメリットがあるかどうかという話です。
発行会社からすると、税制適格SOを発行するメリットはゼロです。むしろ、マイナスと言った方がいいでしょう。理由は後で説明します。
なので、税制適格SOは付与される者(役職員)のために発行されるものである、ということを覚えておいて下さい。
税制適格SOは権利行使時には課税されず、売却時に行使価格と売却時の時価の差額について、株式の売却損益(譲渡所得)として課税されます。
株式の譲渡所得は、売却益が大きく出てしまったとしても、売却益に対して20%の源泉分離課税で構いません。税制非適格SOによって生じる給与所得よりも税額で有利になるケースがあります。
※2013年1月1日から2037年12月31日まで、復興特別所得税も支払う必要があるため、正確には20.315%です。
税制適格SOの課税時期と所得区分を示したのが図表3です。
【図表3:税制適格ストックオプションの課税時期と所得区分】
行使価格を100円、行使時の株価を150円、売却時の株価を200円とした場合、発生する所得は図表4です。
権利行使時には所得は発生せず、売却時に100円(売却時株価-株式の取得価額=200円-100円)の譲渡所得が発生します。
【図表4:税制適格ストックオプションの所得金額】
4.税制適格SOの所得税
実際に税制適格SOの所得税額を計算してみましょう。
<事例>
A氏はX1年にB社からストックオプション(税制適格SO)の付与を受け、X5年に株価が急上昇したことから、行使価格1,000万円でB社株を取得し、1億円で株式を譲渡することができました。
他の収入がないものとして、A氏の所得税の額を計算しなさい。
<解答>
A氏の税額を税制適格SOとして計算します。
株式譲渡所得=売却価格―取得価額
=1億円-1,000万円=9,000万円
譲渡所得に係る所得税額=株式譲渡所得×税率
=9,000万円×20%=1,800万円
※復興特別所得税を無視して計算
***
税制非適格SO(給与所得)の場合は3,482万円の所得税が発生しました。
税制適格SO(譲渡所得)の場合は1,800万円なので、税額は税制適格SOの方が1,682万円有利です。
所得金額が少ない場合は、給与所得の方が税額は少なくなるケースもあります。なので、一概にどちらが得とは言えません。
ただ、一般論として、大きく売却益が出る場合は譲渡所得の方が税額は低くなります。
さて、役職員に付与するSOを税制適格SOとして扱うためには、税務上の要件を満たさなければなりません。
次回はこの税制適格SOの要件について説明します。
<次回はこちら>
<前回はこちら>
なお、ストックオプションについてもっと詳しく知りたい人はこちらを参考にして下さい。