【政策参与のおはなし(その1)】私が考える「自治体DXへの対応と業務効率の改善を図る」ことについて(2021年4月5日日野町主監・課長会議挨拶元原稿)
「政策参与のおはなし」について
2021年4月より、滋賀県日野町の「政策参与」を勤めることになりました。
これは、2021年度の日野町当初予算に「自治体DXへの対応と業務効率の改善を図るための非常勤職員配置」として、政策参与を配置することによるものです。
これから日野町のみなさんといろいろなことをやるにあたって、折々に「政策参与のおはなし」と題したトピックスをご紹介するマガジンです。
主監・課長会議について
日野町では主監と各課の課長等で構成される管理職会議をそういう名称で運営しており、今回が2021年度新体制になってからの最初の会議です。
おはなし本編
※実際は時間の都合と職員さんの反応を見ながら割愛して喋ったのですが、ここでは元原稿ベースです。
みなさん、はじめまして。政策参与の東です。
新年度の主監・課長会議ということで、お時間頂戴してご挨拶と、「政策参与」として考えることについて少しお話をいたします。
この「政策参与」は、本年度予算の新規事業として、総務課所管の人事管理事業において「自治体DXへの対応と業務効率の改善を図るための非常勤職員配置」とされたものによるポストです。地方公務員法に言う非常勤の特別職としての「参与」にあたります。議会でも指摘があった、職名は少し違うようですが、過去にも同様のポストの職があったように、専門的な見地からのアドバイスが期待されているものでしょう。
そこで、私がアドバイスすることを期待されている「自治体DXへの対応と業務効率の改善」についてお話します。
「自治体DXへの対応」とは
DX、デジタルトランスフォーメーションという言葉をみなさん聞いたことがありますか?
(挙手・・・)※実際は8割近くの方が挙手されました
ありがとうございます。これ、2つ対応を考えていたのですが、
まず「みなさんだいたい知っている」ということであれば、「それはほぼほぼ間違っているので忘れてください」と言おうとしました。
また、「みなさんほとんど知らない」ということであれば、「よかったです、これからみなさんと一緒にやることが自治体DXそのものです」ということを言おうとしていました。
国の政策で、行政のデジタルトランスフォーメーションが必要とされ、この9月にも新しく「デジタル庁」が設置されます。これらの「デジタル改革」と呼ばれるものには、マイナンバーカードの利用をはじめ、地方共通のデジタル基盤による自治体業務の標準化・共通化をすすめるなど、今般のコロナ禍であらわになった公共部門のデジタル化の遅れによる国民・町民生活への影響が甚大であったことを反省し、デジタルの活用によって一人ひとりのニーズにあったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会を目指すことが目的とされています。
具体的な内容は、これから定まっていくものでありますが、みなさん方からすると、急に決まって、国ないしは県から「デジタル化の方針」が下りてくるもの、と考えられているかもしれません。現在、ワクチン接種をめぐって各種調整に尽力されている職員さんには特に実感があることかもしれません。したがって、「自治体DXへの対応」とは、その方針に基づいていくことではないかと思われるかもしれません。
しかし、それは決してそうではないと考えることからが、「自治体DXへの対応」です。
というのも、
国が決めることは、往々にして現場の実情を踏まえたものにはならず、むしろ国のアリバイ作りに使われうるものであること
県が決めることは、他の市町とのバランスや、すでにある市町のバランスを踏まえたものにしかなりにくく、日野町にとってもっとも最適な方向になるとはいえないものであること
といったことを、みなさん心のどこかで思われているのではないでしょうか。
これはテーマが「デジタル化」かどうかに限らず、あまり代わり映えのしない、いつもの風景みたいなものかもしれません。
あるいは、みなさんの中で、「どうせ・・・」ということで、いわば思考停止になっているのであれば、そのことに注意を向けるべきです。今回のデジタル改革の肝はそうした「これまでなんとなく前提としていた忖度のようなもの」を打破しようとするものです。
したがって、打破するのは、国とか県が打破するものではなくて、日野町自身で考え、実行するものにならなければいけないものです。それぞれの自治体が考えなければならないものであることを「自治体DX」とひとくくりにしている構造そのもののおかしさに、もっと注意が払われるべきものです。
さきほど「デジタルの活用によって一人ひとりのニーズにあったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会を目指す」と申し上げましたが、日野町にとってのそれは、おそらくはこの4月からスタートした、第6次総合計画の推進でしょう。
私から改めて言うまでもありませんが、総合計画で目指すべき日野町の将来像とされたものは、
「時代の変化に対応し だれもが輝き ともに創るまち "日野"」
です。それにデジタルの活用によって推進できるのであれば、それをDXと呼んでもいいでしょう。しかし、日野町が行うべきDXは、総合計画で目指す将来像のためのものです。
ですので、私なりに考えた「政策参与」という肩書の「政策」が、デジタルという匂いのしない汎用的な名称になっているのは、総合計画で示された施策の推進に際して、助言することも期待されているのだと思います。他の自治体が「デジタル・・・」といった名前をつけていることに対して、日野町の見識を示したものではないかと思っていますし、私もその期待にお応えできるよう努めたいと思います。
「業務効率の改善」とは
次に、業務効率の話ですが、別の自治体で講演をしたことがありますので、詳細はその講演録に譲るとして、おおまかに言えば、
・中核的な業務とそうではない業務の仕分けができているか
・職員が自ら判断する業務に、どれだけ習熟できているか
が問われている問題です。
総務省の調査で、とある自治体での業務内容の内訳を精査したところ、入力や確認作業にあたる「事務作業」に、多くの時間が割かれている姿がわかりました。それを担っているのが若手職員であり、そうした作業に多くの時間を費やしている彼らのインプット・アウトプットの質低下が今後の行政に与える影響は無視できないのではないかと危惧されます。
彼らが好き好んでそうした業務にしているのであれば、また問題は別ですが、本来はより効率的で、かつもっと町民のみなさんの声を聞いて事業を進め、新しい政策を考えることにチャレンジしたい、ないしはチャレンジしてほしいと、みなさんお考えではないでしょうか。
現在、日野町の一般行政職約120名あまりの級別構成を見ると、係員・係長級が7割を占めています。級別に見ると構成比に偏りがないため、今後の採用退職を見据えたバランスを維持しながら、フラットな職場になっているとも言えます。しかし、担う業務側から見たときには、実務を担当する職員が満遍なく配置されているということは、それぞれの縦割りが進んでいることの現れでもあり、管理職のカバーすべき範囲が広いということも言えるのではないかと思います。
こうしたときに、業務改善が必要だとしても、担当している仕事を比較したり俯瞰することで無駄や無理をなくしていくといったことがなかなかやりにくい、また、例えば同じような業務を違う業務の中で実施していて、後続する業務で相互に確認が必要になるといった事態(これを一般に「手戻り」と言います)が起こっている可能性があります。
そうした現状は決して役場にだけ起こっていることではなく、民間企業でも同様です。しかし、民間企業では導入が進む様々なデジタルツールが役に立つことがわかっています。この2、3年で聞かれることが多くなったRPAなどもそうでしょう。ただ、さきほど申し上げた「仕事を比較したり俯瞰する」ことなくして、これらのツールを入れたとしても、単に現状維持を継続するものにしかならないこともわかっていることです。
そのため、単に効率を上げるだけではなく、業務を見直す際にも、そうしたツールに合わせた業務のやり方に移行していくことが大切です。例えば、みなさんスマホをお使いでしょうか?この10年余りの間で起こった最大の出来事は、スマホを通じて様々なサービスを利用でき、またそれが従来やっていたやり方とは違っているということでしょう。
これと同様のことが、今後行政の実務の中にも起こってくることが期待されています。ツールに合わせた業務のやり方と申し上げました。それが実現すると、町民からすると、自分の生活に溶け込んだスマホでのサービスと同様なやり方や仕組みで行政サービスが利用できることも重要ですが、当該職員にとっては、担当が変わってもあまり事務作業そのものに困難さを感じたりすることなく、つまりストレスなく安心して仕事を続けること、それによって様々な部門を経験しながらトータルで能力の向上を図ることができるといったことも重要です。
これが、従来から公務員組織が想定していたキャリア教育の本来の姿だと思いますが、業務効率の改善を通じて、こうした本来あるべき状態をより実現しやすくなる可能性があるとお感じいただけるのではないかと思います。
一方で、必ず出てくるのは「デジタルに弱い方はどうするのか」という声です。また、「個人情報の保護が心配だ」という声もあるでしょう。それはある意味当然のことで、ツールに合わせるということは、そのツールに従うことではなく、「ツールに合わせた方がいいね」という共通認識が大前提です。また、個人情報の保護やこれまでのセキュリティポリシーが守ってきたことを無下にするものでもありません。
逆に言えば、そうならないツールは使っても意味がなく、そういう間は、無理にデジタルにする必要はありませんし、保護すべきものをないがしろにするデジタル化は有害です。
しかし、そうしたことへの対処方法も、使っていけばわかるようになることも、デジタルツールの強みであります。大切なことは、
使えるものをきちんと(=適正に、適切に)使う、便利なツールはしっかり使う、最初から全部できるとは思わず試しながら地道にやっていく
です。こうしたことを続けられる組織になるよう、様々な試みを進めていきたいと思います。
もし「前例がないから」ということであれば、それはしめたものです。多くのことは経緯があって今のやり方になっているものです。それを単に否定することは、それを踏襲することと同じことです。デジタルによって、これまでとはまったく異なるやり方を考える、しかしそこにはそれまでのやり方が前提としていた事柄を正しく把握する必要があります。
そのために、何よりも必要なことは、参与としての私が、何かをお教えする・伝えるというよりも、みなさん方のやりたいこと、これまでできなかったことや、悩みを聞かせていただきたいということです。
そのためにも、まずは私の席がある総務課から始めたいとも思っています。その取り組みを見ていただいて、「ああ、自分とこでもやってみたいな」とか、「自分とこだとこんなこともできるからどうでしょう」といったご提案もお待ちしています。そして、若手職員が関心を持った時には、ぜひ業務のこともありますが、課内で手分けをして、やらせてみてあげてください。
はじめは失敗するかもしれません。しかし、失敗こそが重要です。
幸いにして、多くの自治体が、これまでお話してきたようなポイントに気がついて、業務効率の改善に取り組みつつあります。その際には、若手の職員とそれを見守り、自らも実践する管理職の職員さんの連携が見受けられます。そうした自治体さんとも情報交換をする機会を設けながら、また日野町からも取り組みを発信しながら、多くの知恵を取り込みましょう。
まとめ
この挨拶の前に、少しご紹介はいただいたとはいえ、本来は最初に私が何者かを話す必要があったかもしれませんが、あえて申し上げませんでした。何より、だいぶたくさんお話してしましましたが、時間も限られていることもあり、できるだけ具体的な話で、私という人間を知っていただきたかったということでもあります。
今日のお話は、一言で申し上げると
政策参与は、
日野町総合計画の実現のため、デジタル技術の活用のよる政策推進、そのための役場の業務プロセスの改善をすすめるとともに、データに基づく政策立案のお手伝いをする。
というものです、これは、「デジタル、デザイン、データ」というDXに不可欠な3つのDを表現したものです。これは日々取り組まれている事業のすべてに必要なものであり、本日お集まりのみなさん方とこの3つのDをぜひ定着させたいと思います。
最後に、
政策参与が最初にできることとして、本日の話も含め、庁内掲示板に「政策参与のおはなし」コーナーを設け、簡単な自己紹介とともに定期的に掲載をしていきたいと思います。
先日掲示板を拝見すると、あまり活用されているような感じではありませんでした。せっかく庁内にグループウェアと呼ばれるシステムが入っているので、それを使った情報共有や役に立つ情報を掲載するとともに、使いにくいものであれば、それがツールの良し悪しとは別の問題を表している可能性もあります。
それを確かめるためにも、まず私はしっかりいろいろなものを使ってみたいと思います。掲示板にはコメントがつけられますので、ちょっとしたご質問であればそこに書き込んでいただいても結構です。お待ちしています。
これからどうぞよろしくお願いします。