【京都大学公共政策大学院・地方行政実務実況シリーズ】「行政におけるデジタル化・サービスデザイン・データ利活用」(第2回授業:2019年4月15日)

1. はじめに

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今日はまだちょっと概論的な話になりますが、行政におけるデジタル化・サービスデザイン・データ利活用ということで、3つキーワードを挙げてますが、これは「行政の」ってカッコ書きをつける必要はなくて、広く言われている言葉です。

この授業のスタンスからすると、これらの言葉が行政にとってどうなのか?という態度で臨む話ですね。その点、行政の事例の話をするときに、注意が必要です。1つは、行政にまだこういうことがないということです。ですので、参照すべきは民間企業の話です。昨年度の授業では、もっぱら民間企業で行われているこれらの取り組みについてお話しながら、行政でも徐々に取り組んでいこうという話をしたのですが、今年度もそのスタンスは同じです。

ただ、1年経つと、やはり世界は進んでいます。ですので、スライドは同じものを使っているところもあります。みなさんは昨年度の授業をご存知ないので、このことは意味のないことのように聞こえるかもしれませんが、申し上げたかったことは、同じような話をするんだけれども、3ヶ月なり半年なり、時間が過ぎると、その分だけ進んでいるということを前置きとして言いたかった訳です。

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また、前回の授業のときに、これらの言葉のうち、サービスデザインについてはこれから行政が取り組んでいくだろうということで、それを私が説明するというよりは、適任者である中山さんにお越しいただきました。

前回の授業のときに、中山さんの修士論文を挙げていますので、その論文のご説明やディスカッションをお願いしています。

冒頭は、私が資料の概論を説明した上で、中山さんからサービスデザインにんついてご説明、残りについては質疑や関心のあるところについて掘り下げていきたいと思います。

さて、事前にお示しした資料4つ、特許庁の資料から読むとよいとお話したように思いますが、率直にどう思いましたか?特に、国がこういうことを考えていることを初めて知ったのではないかなと思いますが、いかがでしたか?

へーって思ったことが、重要なことです。

今日も自治体の方々が、たまたまでしょうかこちら側に揃って座っていらっしゃいます。自治体でも、一番関心があるのが今日のテーマなのかなと思います。

2. 官民データ活用推進基本法について

①概要

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前回の授業でも言及しましたが、官民データ活用推進基本法が、平成28年12月、もう3年近く前に制定されています。これは、いわゆる法律とか行政とか勉強された方は、お分かりかと思いますが、いわゆる「議員立法」です。閣法、つまり所轄官庁が立法作業をして閣議決定の上で、国会審議に付してというものではなくて、議員立法で作られたものです。当時、出てきたときの議員側の中心人物が、今の平井IT担当大臣でありまして、議連を作って、こういうことが必要だということで、立法措置を講じることにして、「基本法」として制定されたものです。

「基本法」についても、勉強された方はご存知かと思いますが、行政の枠付をして、方向性を決めるものとして根拠づける立法としての法形式と理解していますが、第2章にあるとおり、戦略を立てるための基本計画を国と自治体に義務付けるというものになっているのが特徴です。つまり、この法律ができたからすぐに、ということではなくて、まず計画を作りましょう、そのためにはこういうことを考えましょう、そういう枠組みを示すことが、この法律ということです。

また、面白い点として、AIとかの法律上の定義がはじめてされているという点です。総則の部分に定義条項があり、今後の立法の際には、たとえば今であればデジタル化法案が準備されていますが、この基本法に端を発して制定されていく諸計画や法律において、AIなりオープンデータなりの定義の源泉はここにあるということです。議員立法をスタートとして、大きく行政のITなりもう少し広げるとデジタル化全般を基礎付ける法律であります。

②制定の背景

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次の資料は、法律がこうして定められた後に、行政の方で整理したものですが、ベースとなっているのは、2000年に制定された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」、当時の首相がITのことを「イット」と読んで、話題になったことがありますが、今もときどき参照される法律があります。こうした体系のもとに、16年経って、その間いろいろ動きがありましたので、改めてそれをフォローして規定したというものかと思います。

その中心にあるのが「データ流通の拡大」であります。現象面として出てくるのが、AI・IoTの技術が出てきて、世界各地で動きがあります。では、日本ではどうするか?、これを推進するために、日本国においては超少子高齢社会が進む中での課題解決に、これらのテクノロジーなりを使いましょうという、そういうことに国としても力を入れていきましょう、ということですね。

ですので、後ろの方にも出てきますが、「データ」や「AI・IoT」という言葉が出てきますが、これらはあくまでツールであって、課題がまず重要ですね。超少子高齢社会における課題といったときに、それは様々な分野にまたがったものであります。そうなので、ここでは一口では言えるものではないですが、そうしたものについてテクノロジーを使うというのがポイントであって、行政がこう決めていることですので、そういうサービスを享受する個人側の個人情報をきちんと保護しよう、いま、FacebookやGoogleの問題で言われています。こうしたものをどうやって使ったらどうなるのか、これを個人個人でなかなかコントロールできないこともまた事実です。それをどう考えるかは、人それぞれかもしれませんが、必要なルールを定めなければいけないと、この基本法には謳われています。これが、その前後してサイバーセキュリティ基本法が定められていますが、これらとも連関しています。また、さらにこの基本法を受けて、個人情報保護法制が改正されていく、といったように、それぞれがキャチアップしあう関係にあるということです。

この辺りの話は、国会が開かれるたびに法律が定められ、異なるカテゴリーだけども、同じ分野の法律ができる、行政の人間からすると、こうした動きをキャッチアップするのがなかなか大変です。いつのまにか変わっているということが結構あります。

③重点取組分野「地方のデジタル改革」

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そして、基本計画にあたるものとして、国が重点取組分野を5つ設けています。これから生じうる諸課題に対応するため、あるいは現在生じている課題に対処するポイントですね。この授業のスコープとしては、その中の「地方のデジタル改革」が焦点にあたる訳です。

国の整理で、具体的なものとしては次の資料です。

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ここまでくると、だんだんツールっぽく見えてきますが、自治体側の人間から見ると、これらのことをしないといけないのかと見えてきます。1つ1つの単品としてというよりも、これらは基底となるものがあって、そのアウトプットとして出ているものを考えた方がいいと思います。つまり、アウトプットとして何をするのか?が決まらないと、例えばオープンデータなりシェアリングエコノミーなり、うまく行かない訳です。

ここでは、国の計画によくあることですが、「地方のデジタル改革の加速化を後押し」と書いています。地方分権の時代なので、「地方はデジタル改革を加速すべし」とは書いていない訳ですね。こういうのが必要ですよ、と推奨をすること、これは当然のようにお感じかもしれません。しかし、それをどうやっていくのかについては、空欄であって、自治体側はとまどうわけです。しかも、1800自治体ある中で取り組みも様々になります。そうしたときにあることが、先進事例に学ぶとなります。ただし、他の自治体の取り組みを真似ていくとなったときに、自分たちでは別のシステムが使われていて、他のシステムをうまく横展開できないといった自分たちだけではどうにもならないことがあります。

それが、見た目では、自治体は進んでいないというように評価する向きもあります。しかし、問題すべきなのは、そういうことではなくて、別のところでスタックしていて、それをどう説明していくか、そのあたりが現場の職員が困っていることをどう対応するか。こうした実務の悩みを、こういうビッグピクチャーとの関係で丁寧に掬っていくことが重要です。

3. 京都府の2040年を考える

①京都府の可視化

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話は少し先に行きますが、ではこれから到来する社会についてどう捉えればよいか、日経のサイトでビジュアライズされたものがありますので、それをご覧いただきましょう。

市町村ごとの課税対象所得を納税義務者数で割った、理論的な1人的な所得について、その前年と比べて増えたか減ったか、1970年代以降のトレンドを色で示しています。バルブ崩壊まで上がっていき、その後リーマンショックなどもありますが、底を打って戻り基調になっていきます。その際、京都府内の市町村ごとに見ていくと、戻っていくところもあればそうではないところもある。その延長線上にどうなるか。

それがどう戻っていくかいかないか、その際決まっていることは、労働力が決まっていることですね。それをもとに生産し分配し所得になっていくわけですが、その地域で労働力が減っていく中でどうなるか。住民サービスを提供する行政職員も減ります。他方で住民側から見た場合に、必要なサービスは増えていきます。

②総務省「スマート自治体研究会」

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ここで、総務省の「スマート自治体研究会」の目的にあることは、そうした事態を想定して検討が進められているものです。つまり、「今後の労働力の供給制約の中、地方自治体が住民生活に不可欠な行政サービスを提供し続けるためには」とあり、「職員が、職員でなければできない業務」が維持できないことが前提になっています。今、2020年になろうとしている中、想定しているのは、2040年。高齢化比率が最も高くなるとされる年ですが、全体としてダウンサイドだとして、地域によってまちまちであろうと思います。そうしたことを見据えて、この研究会は、地方自治体における(1)業務プロセス・システムの標準化、(2)AI・ロボティクスの活用について実務上の課題の整理を行う、とあります。

これは国のおせっかいではないか?と思うのです。
委員の中に自治体職員も入っていますが、これによって「やらないといけない」空気が作られます。そもそもの問題設定がどれだけ正しいのか、自分たちの団体にとってどのくらい現実味があるのか、当該自治体側でそもそも何ができうるのか、1800ある中でバラバラだと思います。それが、さきほどご覧いただいた赤色と青色のマダラ模様だった訳です。ただし、検討では類型化しようということもあるようですが、そういう類型に収斂させてどうするんだろう、モヤモヤしているのです。

取り扱うイシューには違和感なくても、実行面でどうなのだろうということです。そろそろ報告書が出てくるのかと思いますが、つまり国が「自治体はこうしたらいいかと思ってるんだけど…」と先手を打つことがあり、自治体がとまどうということです。

③京都府の2040年の可視化の前に(2025年までのトレンドで決まる?)

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では、京都府の2040年はどうなのか、となりますが、ここではその手前の2025年までを考える必要があるのではないか。ここで2025年と言っているのは、いわゆる団塊の世代の方が労働力ではなくなるタイミング、つまり2040年を展望したときに決まってくる段階です。国勢調査の経年データを使って、所得としての「豊かさ」が、さきほどのビジュアルでいえば、赤ではない少なくとも白というような状態を維持するために、労働生産性をどのくらい高める必要があるのかをシミュレーションしたものです。

府内全域だと、就業者は毎年2%減少する中で、それ以上の労働生産性を高めないといけないとなっています。また、個別の市町村を見ていくと、まだらですよね。わかっていることは、就業者が減っていくこと、これは所与のものですから、労働生産性を年あたりこれだけ増やす必要があるというものです。分子である付加価値を高めることは、12/10にするということですが、分母である労働力を下げる、10だったものを8でもできるということです。今後は、その両方をできないと、8で12を生み出す世界にしないといけないというイメージです。

④京都府版官民データ活用推進計画

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そんな中で、京都府はどうしますか?ですが、都道府県ごとに定めることになっている官民データ活用推進計画において、その上位計画として、策定中のものですが新しい総合計画があります。5年ないしはもっと長期の計画でありますが、その中でも「20年後に実現したい」とあるように、2040年を見据えた計画として、ここに挙げている5つの京都府の将来像を示しています。その中で、「スマート社会で豊かさを実感できる京都府」という言い方で、AI・IoT技術について、すべての世代が活用できることが望ましいとされています。

そのために、行政としてどのような体制をつくっていくか、行財政改革プランという名前ですが、こちらは今年度からスタートしています。大きな3つの柱において、それを受けた方向性が示されています。こういったものを受けて、推進するための計画として、官民データ活用推進計画を定めようとしています。

以上が、基本法からの流れが京都府にどのように流れ込んできたかという観点でまとめましたが、メタ理解としては、ここで書かれている言葉を咀嚼すればいいということではないということです。それを次のデジタルトランスフォーメーションから説明していきます。

言葉を理解して、行政の中でどう進めていくかをしっかり書かないといけないと思います。なぜなら、総合計画なりにずばり書いていたらいいのですが、それを引き受けていないので、官民データ活用推進計画がその任を担うのだなと考えています。

その際、この言葉を書いても理解されないだろうということで、どう表現するか悩んでいますが、まずはもともとの意味から説明しましょう。

4. デジタルトランスフォーメーション

①デジタルトランスフォーメーションとは?

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デジタルトランスフォーメーションの説明は、ここの資料のとおりですが、なかなかピンとこないのではないか。その際、back to the basicだということで、元々どう言われたところから始まったかを確認しましょう。ちょうど、経済産業省の資料にありまして、ポイントは「the digital technology causes or influences in all aspects of human life」です。ここで重要なのは「我々の生活のあらゆる局面」だ、ということです。デジタルと言うと、デジタルっぽいこと?だけに限ったものだと思われがちです。インターネットしてません、とかスマホ持ってません、例えば私の母親はそういう人間ですが、彼女に関係ないのかではなく、むしろそういう人にこそ、デジタルによる恩恵が等しく及ばないといけない。それが、場合によっては心配するようなものがあれば、それを除去しないとデジタルトランスフォーメーションとはいえないということです。

②第3のプラットフォーム?

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次に、これから説明を進める際に、理解が必要なのは、「第3のプラットフォーム」という言葉です。絵の中の「イノベーションアクセラレーター」のところにあるAIとかIoT、ロボティクスについて、よく言われるようになっていますよね。これをなんとかしないといけない、と行政は考える訳で、さきほどの研究会でも「AI・ロボティクス」と書いてありました。しかし、産業界で言われていることは、そのためには「第3のプラットフォーム」がテクノロジー基盤として、その上で展開される、となります。ですので、イノベーションアクセラレーターの領域だけをやっていても、デジタルトランスフォーメーションにならないということです。ここの理解が行政には難しい。

この第3のプラットフォーム、4つの技術で構成させる基盤の上で、イノベーションを起こすための技術を使いましょうということです。基盤がない中でやっても続かないということです。例えば、アマゾンを考えてみましょう。アマゾンは、ずっとこの第3のプラットフォームに投資を続けてきて、赤字で垂れ流し続けつつ、それを続けて今の姿がある訳です。その先でイノベーションアクレラレーターの領域でビジネスをするようになっている。その前提となるものが何かということですね。

行政が、ではAIやIoTを使おうと言うときに、民間企業とは違うので、と言えるかです。しかし、これまで説明してきた構造の中から逃れないですし、サービスを提供される側から見た場合でも、そういう構造にないAIのサービスは、果たして便利なのか、あるいはコストとしてリーズナブルなのかということだと思います。ただし、行政がそのコストなりベネフィットを正しく評価できるのかということかと思います。行政の合意形成として難しい。総務省の研究会で、第3のプラットフォームについて言及している部分はあるのですが、フォーカスがあたっているのがAI・ロボティクスという点は注意が必要だということです。

③iPhoneの10年ー電話の再発明、2007年という当たり年

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それでは、こうしたことを、遡って説明してみましょう。iPhoneの10年です。今は当たり前になっていることが、目の前にわかりやすい形で登場したのは、まだ10年ということですね。みなさんでいえば、最初のケータイがスマホだったかもしれません。私でいえば、途中からの世界です。

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そして、みなさんが当たり前に使っているこれらの要素技術が登場したのは、2007年を中心に出てきています。iPhoneがそうですし、他のものについては、聴き馴染みのないものでしょうけども、FacebookやTwitterなどはこうしたものとセットになって拡大したものということで、2007年は当たり年だと言われてます。こういったものが出てきたことそのものもそうですが、言われていることとして、参考文献『遅刻して、ありがとう』でも言われていることですが、機械と人間とのコミュニケーション、共同で何か新しいものを生み出すといったことが、10年続いてきた訳です。

では、行政がこうしたものを活用しようとしたときに、この10年の間に民間で継続されてきたことをキャッチアップしなければならない訳です。生まれてきた成果をうまく取り込めるという議論もありますが、この内実がわかっているかどうかが、分かれ目ではないかと思う訳です。

では、iPhoneの何がすごかったのか、については、reinventとありますが、「電話の再発明」というものです。今でも、当時Steve Jobsが発表したときのプレゼンテーションがYouTubeで見ることができますので、ぜひご覧ください。何をしたいのかが、鮮やかに語られています。
[Steve Jobs Introducing The iPhone At MacWorld 2007 - YouTube]

iPhoneは今や発明が止まった、という評価が見られますが、それは技術としてはそうかもしれません。しかし、卑近な例では、この10年で電車の中の光景が変わりました。今までは新聞を読んだり、本を読んだりというものから、みんながスマホを見るといったように、それくらい人の生活に溶け込んだ、それが電話から再発明されたスマホです。そして、その裏側にあるテクノロジーや、SNSといったコミュニケーションツール、この他それを通じて提供されるサービスが変わっている訳です。

④reinventと日本企業

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さらに、reinventの例で言えば、Uberがあるでしょう。日本では違う形で捉えられているかもしれませんが、何をreinventしたのかの構造を理解することが重要です。ここでは簡単に、この図でお示ししたとおり、用いられたテクノロジーとして、スマホアプリとGPS、キャッシュレス決済、そしてCtoCプラットフォームとありますが、個人間でのお金のやりとりや評価の仕組みを作ることは難しかったのですが、それがスマホをキーにして可能になった、それをタクシーのビジネスモデルに持ち込んだことがreinventであるということです。

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それでは、日本企業はどうでしょうか。みなさんご存知の各業界の大企業がそれぞれの業界の企業というよりも、テクノロジーによってビジネスモデルを変えていく「テック企業」を目指すとあります。そのために、第3のプラットフォームへの投資を積極的に行い、自らのビジネスモデルを変革、reinventしようとしている訳です。

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それが最も象徴的に現れたのが、昨年度の授業でちょうどホットトピックスであった、国内株式時価総額1位と2位であるトヨタ自動車とソフトバンクの提携です。全く違う分野の企業のように思われがちですが、お互いが連携しないといけないという危機感があったと言われています・自動運転を進めるために提携という表面的な意味もありますが、ここで目指されているのは、MONETと書かれていますが、地方自治体とも連携して社会課題の解決を図っていきたいとされています。

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果たして地方自治体がこの期待に応えられるのか、非常にプレッシャーを感じる訳ですが、さらには、この2社だけでなく「なかまづくり」ということで、さきほどご紹介した2社も含めた幅広い企業が加盟するコンソーシアムが設立されています。目的達成のためには、1社だけでできるようなものではなく、お互いが補完しあって対応しようという動きがわかりやすい形で示されていると思います。

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5. 政府はDXにどう向き合うのか?

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そうした中で、ここまで申し上げたことを行政の文脈でまとめます。

電子政府とデジタル政府です。電子政府と呼ばれていた当時、2000年の段階で取り上げられていたテーマでもあります。しかし、現在デジタル政府と呼ばれる今においては、それぞれ違う意味で語られることに注意が必要です。行政はよく、「前からやっている」と言いがちですが、ここまで説明したデジタル化の流れで捉え直すと、その内実は全然違います。そういうことを行政は学び直さないといけないと身に染みて分かったということです。

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そこで、国は、繰り返しになりますが、先回り先回りやっていまして、デジタル社会を支えるガイドライン群をもりもり作っています。この次に、霞が関の中にどう適用していくのか課題だと思いますが、同様に自治体がこれらを消化していくことは、なかなか難しいと感じています。

また、このガイドライン群の全体像も、昨年度の授業では形がなかったものです。そういう時間軸で進行しているものと理解しましょう。そして、前回授業で言及した政府のIT戦略を策定する中で、これがさらに洗練された形で示されるのではないかと考えています。

以上、デジタルトランスフォーメーションが民間から生まれてきた流れと、それを受けて国がどう受け止めて何をしているのかということをお話ししました。そして、自治体がどうなのかということですね。つまり行政として受け止めていますが、地方側にとってその構えがあるかという点には「うーん」となってしまいます。

6. 行政とデザイン?

①身近な例で考える「デザイン」

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次にデザインの話をしましょう。
デジタルとデザインの話がどう繋がるのかは、実は難しい話です。
ただし、デザインについてきちんと理解することから始めないといけないので、今回授業でも中山さんにお越しいただいた訳です。

また、最近親しくさせていただいている、武蔵野美術大学の島崎先生から教えていただいた「行政とデザインの関係」について、非常に示唆を含むお話なので、みなさんにも共有します。島崎先生は、東急ハンズを企画された方でもあり、北欧デザイン研究の第一人者です。

おっしゃっているのは「デザインに対する誤解」です。そもそもは目的を達成するための仕組みや仕組み作りというものであって、単なる形だとかそういうことではない。また、行政にデザインが入ろうとしている時にあって、重要なのは、「誤解を解きましょう」ということではないということです。むしろ、そうした受容の際の試行錯誤は当然のことで、それによって分かっていただくことが重要で、そしてちゃんと使っていきましょうね、とおっしゃっていただきました。

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そうだな、と思っていたところで、私は非常勤講師なので京都大学の図書館を使えます。違う点は、みなさんはICチップ入りの学生証を入り口ゲートでタッチして入館していると思いますが、私はこのように昔ながらというかカードを溝に読み取らせているというところです。そのタイプのカードで、非常勤講師の委嘱期間があるために、半年ごとに利用期間が切れてしまいます。なので、これを更新しないといけないのですが、そのために再発行用手続きとして新たに利用するときと同じだけの情報を、この申請書に書かないといけないのです。変わった点は、身分証の有効期限だけなのですが、「全部書いてください」と言うのです。

「ああ、利用証そのものを再発行するんだ、だから全部入れ直さないといけないから、全部書かないといけないんだ」と理解して、「最初に作ったときは、発行まで1週間かかっていたから、後日取りに行かないといけないのかな」と思って提出して「じゃあ1週間後に取りにくればいいんですね」と聞いたら、なんと「いえいえ、もう使えます」と言って、カードの裏にゴム印で日付だけを押してそのまま渡してくれました。

へー、と思ったので「更新って具体的に何をしているんですか?」と聞いたところ、「申し出をいただいたので、利用者番号を端末で呼び出して、その画面の有効期間を修正すると、10分ごとにデータベース が更新されるので、貸し出しができるようになるんです」と言うのですね。「入場ゲートのマスターデータは、1日1回しか更新されないので、明日からゲートを通過できます。それまでは、このカードを見せてください」という訳です。

まあ、これは「ああ、こういう仕組みなのか」ということですが、この更新の手続きですね、本人たる私が目の前にいるし、身分証も出したのに、全部書く必要があったのかなと。実際にやることは、画面を呼び出して期間だけ修正です。もちろん、更新するまでの間に他の事項、例えば返却延滞があったときの連絡先が変わっていることはありえます。それを反映させることもあるでしょう。しかし、それがない人について、単純更新についてまで同じ手続きを踏ませる意味がどこにあるんだろう。

データベース と私が本を借りるという行為とのつながりという意味では、デジタルのところにも関わっていることですが、ここでデザインについて考えるときには、こういう手続きをするときに、こういったこと、やりとりをして、必要な情報を集めて、利用証を発行するという、これを業務だとした時に、違和感を持ったわけです。

もちろん、新規と更新のときの申請書の様式を変える話として理解することもできますが、まずはこの「なんか変だなあ」ということが重要です。特許庁の資料でもこうしたことが書かれていたと思いますが、こうした感覚は大事ですし、実際そこから何がボトルネックになっているのかきちんと考える必要がありますが、みなさんまだ行政の手続きをすることは少ないと思いますが、大学の手続きも似たようなところがあります。ですので、どういったことと結びついているのかを考える場面がたくさんあります。また、これから中山さんからお話いただくこととつながっています。

これまで、私も行政の手続きでこのような「変だな」ということがあることは言われていた訳で、私もそのことは知っていました。しかし、大学という場ではありますが、自分の身に起こってみると改めて、「こういうことされると嫌だよな」と思いますし、手続きをする側の人も、カードがあって、私を見て、確認できれば業務が終わるはずです。わざわざ全部記入したものをチェックする必要があるのか、また、このチェックの際に、利用者番号を最後に係の方が書くのですが、最初それを転記間違えていたんです。私が気がついて「間違っていますよ」と指摘して、書き直していたんですが、その利用者番号を何に使うのかな、何かに入力したりするのかな、転記するのって何か後続する手続きのために別のところから確認するはずですよね、しかし、何も使わなかったのです。なぜこうしたことをするのだろう、と手続き自体は15分程度で終わった話ですが、象徴的な話として言っていますが、こういうことがチリも積もれば…ということで、イメージができるのではないかと思います。

以上をデザインについて考えるエピソードとして、
それでは、中山さんからお話いただきましょう。

7. 行政組織におけるデザイン実践とは?(ゲスト:中山郁英さん)

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(中山さん)よろしくお願いします。
行政におけるデザイン実践というテーマで昨年修士論文を書きました。それをベースに、それが何であるかについてお話できればと思います。

(1)行政×デザインについて

①行政でのデザイン活用がこれから本格的に

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さきほどの話にもあったように、2018年からですね、様々な形で行政におけるデザイン実践という話が出てくるようになりました。そのときに「デザイン」というのが何を意味するのか、言葉だけ踊ってしまってもいけないのではないか、ということがあって研究しようと思ったきっかけです。

②デザインとは?

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ですので、まずはデザインとは何か?ですが、さきほどの資料にも「誤解されている」とありましたが、ここで紹介するのは、デザイン研究者による定義です。

「現状をより好ましいものに変える行為はすでにデザイン活動をしている」と言ったのは、ハーバード・サイモンですが、彼はノーベル経済学賞を受賞した経済学者です。

また、イタリアのデザイン研究者は、デザインの役割は、Problem-solving、問題解決だけでなくてSense-making、つまり何がよいのかを決めることもあるとしています。

さらに、アメリカの研究者は、デザインには4領域とありますが、つまり「ビジュアル」これはポスターを作るといったものですが、それだけでなくて「サービスやシステム、仕組みづくりも含まれる」ということも含めて議論をしています。

デザインというのは、すごく専門的できれいなものを作るというイメージがあるかもしれませんが、スポーツと同じように誰もが行うことです。そこにプロもいれば、一般の人もいるということです。また、デザインはすごく広い意味でして、広義のデザインという言葉もあるくらいですが、行政の中で実践する上でを何を考えたらいいかお話していきます。

③行政×デザインの先進例

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行政×デザインといったときに、盛んに行われているのは欧州でして、論文やレポートも2010年前後からで、まだ新しい研究分野です。そして、それは「Public Sector Innovation」という文脈の中で言われており、論文の中でもそういう議論がされています。

資料の下につけた写真は、MIND LABと言うデンマークの行政組織、国の中にデザインコンサルティングがあって、2002年に立ち上げられた先駆的なものです。また、この業界で一番有名といっていいのは、真ん中の「POLICY LAB」でして、イギリス内務省の中に2010年に作られたユニットで、中央省庁のプロジェクトにコンサルティングとして関わっています。

④ペルソナ・ジャーニーマップの共通点

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特許庁のレポートの中に、「ジャーニーマップ」や「ユーザー像」という言葉、これを「ペルソナ」ですが、デザインの世界ではいろんな手法論があるのですが、そういったものの共通点は何でしょう。原則というものがあって、それをよりよく活動の中で使っていくためにそういったツールがあるということです。

⑤サービスデザインの原則

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ですので、ツールを使うことがデザインではなくて、こういった原理原則に沿ってうまく今あるサービスをよりよくしていくために、ツールを使っていくというものです。ですので、行政のデザイン実践というときには、デザインの世界の中で使われているツールを活用していくということかなと考えています。

⑥デザインは全く新しいもの?

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では、デザインという言葉を聞いたときに、それは全く新しいものか?ということですが、2009年に出版された『デザイン思考が世界を変える』という本で、これはデザイン思考という言葉を世界に広めたIDEOというデザインファームがありますが、その中にはトヨタ自動車の事例が引かれています。

そこには、工場のラインの改善の話をしているのですが、観察をしてプロトタイプを作って実験をして、ということで「デザイン思考がスタジオから役員室や作業場への移動した企業文化を正確に表すことができるだろう」と言っています。日本企業でも、「デザイン思考」という言葉を使っていないですが、すでにデザイン活動をしているということです。

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トヨタでは、工場のラインの改善をメインに担当するスタッフがいて、作業員がどういった活動をしているか観察して、そこから改善策を作って、実際に車を作りながら改善をしていくということを、デザインという言葉をここでは使っていないですが、すでにやっている。

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すると、この写真は京都府庁の写真ですが、例えばすでに行政組織の中でも、デザイン活動はなされている。それをよりよくやっていくために、いわゆるデザイナーと言われる人たちが使ってきたツールを使うこと、それにはさきほどのサービスデザインの原則というのがあったように、「人間中心に考える」とかですね、そのためにうまくツールを使っていくことが大切ではないかということです。

⑦ここまでのまとめ

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ここまでの議論をまとめますと、
・日本においてもデザインの活用が言われてくるようになる
・ここでいうデザインは、単にきれいなビジュアルを作るという意味ではなくて、この場にいる全員が普段の生活の中でも行っているものです
・「デザイン思考」や「サービスデザイン」というものは、デザインをより効果的に行うものですので、言葉や手法に捕らわれずにうまく使いましょうということです。

(2)修士論文の内容について

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次に修士論文の内容に沿って議論を進めていきます。

①研究背景

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研究の背景として、私自身、滋賀県長浜市に住んでいますが、長浜市役所や滋賀県庁とお仕事させていただくこともあるので、感じますし、よく言われていることとして、地方自治体が抱えている課題というのは、複雑ですし、変化のスピードも早く、そして正解がないものです。そして、行政が持つリソースは今後減少すると言われている中では、市民や民間企業と協働することが必要と言われています。

もう1つの背景として、行政組織においてデザイン手法を活用していこうという機運が高まっています。手法の認知度は高まっていますが、活用はこれからだということで、私が一番懸念していることは、手法を知ることと実行することは違うことでして、デザインに対する理解があまりないままに実行してしまうと、あまりよい効果が得られないことが多く、そうすると「なんだ、デザインって使えない」となってしまうのが一番もったいないです。その前段として、行政にとってデザインはどういう意味を持つかを整理しておきたいと考えた訳です。

②先行研究

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そして、先行研究としてどういうものがあるか。関連がありそうな分野を探しました。

まず、行政改革に関する議論ということで、NPMからNPGへ、というものです。NPM(New Public Management)は、行政組織の運営に民間経営の手法をより入れていこうという行政改革の実行です。これはイギリスで1980年代サッチャー政権時に始まり、日本では2000年代前半からスタートしているコンセプトです。イギリスでは2000年代前半には、すでにNPMはあまりうまくいかなかったんじゃないかという反省があって、次の新しい行政改革のあり方は何だろうとあって、その中の有力なものがNPG(New Public Governance)というものです。これは、NPMとNPGを比べたときに一番大きな違いは、市民をどう捉えるかになると思います。NPMでは、市民は「お客様」です。そのお客様に対してどれだけよいサービスを提供できるかを考えるものです。一方で、NPGは、市民をサービスを一緒に作るパートナーと捉えるところが大きな特徴です。このような流れが行政改革の流れとしてあることが第一の特徴です。

2つ目が、「公共イノベーションラボ」というもので、さきほどのデンマークのMIND LABですとかイギリスのPOLICY LABといったもの、行政改革を主導する組織内のラボと呼ばれるものが今世界でポツポツとあります。2014年時点では10数個だったものが、最近の調査では100を超えて生きていると言われています。そうした組織が何をやっているかの大きなものに、「デザイン思考の活用」があります。それは、デザイン思考・サービスデザイン・協働のデザイン(Co-design)と呼ばれる手法を活用して行政のプロジェクトを行うというものです。

3つ目が、「デザイン行為としての政策立案」といっている研究者もいます。これは2つ目の「公共イノベーションラボ」がやっていることは、今あるサービスや政策をよりよく実行するという、implementationが多いんですが、そうだけではなくて政策立案の時点からデザイン手法を活用すべきとするものです。
ただ、この最後については、実証的な研究はまだないです。

で、残念ながら日本における目立った研究はない、という状況です。

③研究目的と方法

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そこで、研究目的と方法としては、行政におけるデザイン実践の先進国において、デザインが行政内でどう認識され実践されているかを調査すること、また日本においても活動し始めているものがありますので、そこを調査をし、海外の事例とあわせて検討することで、日本の組織、特にに地方自治体におけるデザイン実践の特徴や課題を示したいとしました。

研究方法としては、先進国としてはフィランドを選び、日本では文献調査とインタビューを実施しました。

④フィンランド事例研究

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フィンランドの事例研究については、国レベル・自治体レベルといった4カテゴリ計17名の方にインタビュー調査を実施しました。構造化インタビューということで、事前に項目を決める部分と話の流れの中で深堀りする部分があります。

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そのまとめとしては、大きくは6つの項目があります。1つ1つは細かくは説明しませんが、1番目については後ほどご説明します。

⑤日本国内事例研究

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それから、日本国内の事例としては、2つ取り上げまして、滋賀県庁有志職員の活動として「Policy Lab. Shiga」というデザイン思考を政策形成に活用してみようという自主活動の事例と、神戸市役所がデザイン政策を昔から力を入れていますので取り上げました。

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Policy Lab. Shigaは、最終的には行政の中でデザイン思考を活用していこうという提言を出しているのですが、そのメンバー11名のうち8名にインタビューをしました。参加されていた職員の方々は、みなさん若くて入庁2年目といった方々だったのでバイアスがあったかと思いますが、項目としてプロセスと人・組織に分けてこれまでの行政と何が違うかについて伺ったものです。

デザイン思考の要点として「徹底的なユーザー視点に立つ」ことと、「プロトタイプを作って、それを検証する中で質を高めていく」というものがありますが、今の行政組織の中ではなかなかやりづらいという声がありました。

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神戸市役所については、デザイン政策としてどのようなものがあるかということで、神戸2020ビジョンという中期計画においては、デザインというものが見た目を整えるというものではなく、政策を横串の視点で見るという2016年に作られたもので定義があります。それにもとづいて様々な政策が行われている現状がありました。

もう1つ特徴としては、外部の専門家を内部に活用するというものがありまして、2015年からクリエイティブディレクターという民間のデザイナーを行政の非常勤職員として、プロジェクトを行うときの相談役にしてやっています。

⑥全体考察

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そこで、フィンランド・日本の事例をまとめた全体考察です。
この中でも、2番と4番について詳しくお話をします。

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まず、2番についてですが、さきほどのNPMとNPGにつながる話ですが、国と自治体において、プロジェクトにおける市民の位置づけが異なるのではないかということです。国においては、デザイン手法は、主にシステムやサービスの戦略立案に用いられるもので、ワークショップに参加するのは行政職員や民間企業となります。そして、その時の市民の位置づけは、情報インプットのための調査対象となっています。

他方で自治体の場合は、デザイン手法活用の目的が、市民参加型のサービスや事業開発となります。ワークショップ参加者は、一般市民も入る、位置づけとして調査対象であり、共創のパートナーとされています。

以上から、国はNPM型、自治体はNPG型に近い考え方で活動しているあるいは活動していかざるを得ないのではないか、市民との距離との関係でそうなのではないかということです。

もう1つは、行政組織とデザイナーの関係性といったところです。デザインの専門家と行政組織の関わり方も、主に3つのパターンがあると思っています。1つ目は、デザイン専門家が行政組織に外部から関わるというもので、今よくあると思いますが、それぞれ利点と注意点がありましてここで注意が必要なのは、外部から関わるとなったときに一番厄介なのは仕様書です。仕様書の時点でかなり解決策が限られているので、その仕様書をどうやって伝えるか、作れるかが問題になりますし、デザインの専門家がお客さんである行政の職員に対して反論できるかがあると思います。

次に、デザイン専門家を行政組織内部に登用するもので、さきほどの神戸市役所の事例のようなものです。こうすることで、職員と信頼関係を築きやすいとか、仕様書を作るところからアドバイスができるので、外部のデザイナーにとっても、参加するときのクッション役になれると思います。他方で、注意するべきこととしてデザイナーに求められるスキルのミスマッチが起こる可能性があること、またデザイナーとしても自分がモノを作りたいとなって入ったときに、なかなかそういう場面に立ち会えないということになるので、事前にそのミスマッチを避けるようにする必要があります。さらに、専門家は、いきなりゼロの状態から行政組織にやってきますので、どれだけ動きやすくできる環境を作れるかが重要になってきます。

最後に、行政職員がデザイン教育を受けてデザイナーを名乗るというものです。フィンランドでは、そういう肩書を持ったプロパーの行政職員がいらっしゃいました。利点としては、自らが行政職員ですので、内部の方と関係を作って活動を行える、注意点としてはやはり外部専門家との差はあるわけで、プロジェクトでの質の担保に十分配慮が必要になります。こうした利点を活かすとともに、注意点をどうクリアするのかということが大切かなと考えています。

ということで、まとめは以上になります。一旦、私の話は終了します。

(3)質疑

中山さん、ありがとうございます。

次回に関係する「データ利活用」については、まだ説明をしてませんが、時間もあるので、まずここまでで質疑応答をして、残りの時間で残っているところを説明したいと思いますが、いかがですか。

Q 問題意識としてデザインはすごくパワーワードだなと思っています。こういうことをやったらいいということが曖昧な気がしていて、自治体にとってデザインというものがゴールというか定義づけられるものではなくて、今後のよりよい仕組みづくりという考え方の方向性だと捉えて、それを基準にして、どういうことがありますか?という感じだと思ったが理解は合っているか?

A あえて、デザインという言葉を使う必要があるのか?ということではあります。ただ、すでに行政の文書にも使われているもので、それを曖昧に理解しないまま、進めることはよくないことだと思います。

そして、考え方としてのところは、サービスデザイン手法ということで言えば、これはプロセスですので、それ自体に答えがある訳ではなくて、あくまで達成したい目標が組織にあるときに、それをよりよく達成できるようにするものかなと思います(中山)。

Q 方向性を定めるものの1つという理解か。

A そうですね、両方あると思います。方向性が決まっていないので、それを作るところから始めるということもあります。例えば、最初の段階から市民の方も入って、共通の目的を一緒にワークショップを重ねることで作っていくものもあれば、何か目的が決まっていて、それをどうやったら効率的効果的に達成できるかを考える上でも、使えるかなと思います(中山)。

Q その話は、「誰が使うか」というところで、ちょっとずつ違ってくるように思いました。広く行政という意味では、さきほどパワーワードという話もありましたが、AIとかもそうですが、そういう言葉が入ってくることが、一種別の形で入っているので、入り方としてそうじゃないんですよ、と規定していくこともあると思いますけど、むしろそういう状況だから使えるんじゃないか。論文を拝見して一番感じたことは、「じゃあ、次行政は何をしよう」みたいな話を、中山さんはあくまで外の立場の人として、中の行政職員に言っていく必要があるか、というところで考えておられるなと思いました。

A そういう意味では、1番は「デザインという言葉に惑わせるな」ですね。すでにデザインは全く新しいものではなくて、すでにやっている活動ですし、それをよりよくするための方法というくらいに考えた方がいいと思います(中山)。

Q 大学院に入る前に、リーンスタートアップの事業を体験するためのプログラムに参加したことがあるが、ユーザーの意見を聞きながら常に変化をさせていくというプロセスがあることを知っていて、また、その反対側で県の職員としてある一定の決められた手続きに則って決定した事業をやっていくこと両方を見ていたとき、さきほどの図書館の事例では後者の話になっているように思っていて、つまり更新部分だけユーザーを見て変えていくことができれば、という話がデザインなのかなと思った。

A デザイナーが常に使っている思考方法を言語化したものがデザイン思考とされるものですが、さきほどの図書館の事例だと、違和感に気がつくということがやはり重要です。手法の1つに「サービスサファリ」というものがあるのですが、これはまず自分が改善したいサービスの使用者になって、どういうところに自分がよくないと感じることを事細かに記録していく手法があります。これって、さきほどの図書館の事例で東さんがやっていたことと同じなんです。こういう言葉を知らなくてもやっている。でも、言葉を知らなかった人が「じゃあやってみよう」となるのであればいいじゃないですか。そういう思考がツールとして確立していることでやりやすいことはあるんじゃないかなと思います(中山)。

A 補足すると、さきほどの図書館のようなケースだと、行政へのクレームですよね。そうしたら対応しようとしますよね、それを改善しようとする。例えば、様式を変えようとする。私はそれは違うと申し上げましたが、様式が増えることになると、すでにサービスカウンターにたくさんの種類の様式が差し込まれているんですよね、そうすると「どれに書けばいいんだろう」となります。

問題は、様式とか全部書かせるのかということではなくて、端末を操作した人も実は何がポイントで、何をすればよかったのか気がついていないんですよね。単にゴム印を押せばよかったんですよね、身分証で本人であること、期間を更新する理由があることが確認できればそれで終わる話だったんですよね。書類に書かせて後で見ることがあるのかわかりませんが、チェックしていないでしょう。単なる作業をしたことの記録として添付書類としてつけているだけでしょう。こうしたプロセス全体で考えるべきことを、様式のフレームで考えてしまいがちなんですよね、行政って。

この手の話で、手続きをよくしようとなったときに、デザイン重要ですね、と。今までの業務改善と同じですね、問題をこれまでの話と同じように矮小化してしまう可能性が高い。ですから、デザイン思考というときには、「これまでとは違うんです」としつこく言い続けないといけないのかなという気がします。今までやっている改善の中にも、単に言葉を知らないだけでやってきたものもあるから余計に難しいのですけども、当然その他はとんでもないことをやっているわけです。それをどう変えるか(東)。

A そうすると、改善の目的を利用者によりよりサービスを提供するとしたときに、それまでのアプローチを見直す改善方法をたくさん提供できるなと思いました。デザイン思考であれば、「ユーザー視点で考える」というものがありますが、その手法の中に「サービスブループリント」というツールがあって、ユーザーの流れだけでなくて、バックサイドで動くような、受付の人がやらないといけない事務やシステムとつながっているを時系列にそって可視化して並べるというツールです。そういうことをやってみることによって、よりよいものにするために何ができるか議論しやすくなるのではないかと思いました(中山)。

Q たまたまお越しいただいている自治体に、堺市さんや奈良市さんお見えですが、県庁と市役所では同じ行政ではありつつも、業務内容の違いがありますね。特に図書館のような事例と同じ窓口業務などは、たくさんありますよね。そういう観点から、今日の授業のテーマで何かお感じになったことはありますか?この場合、一番重要なんは住民との関係をどう作っていくかではないかと思ったので、何かコメントいただければ(東)。

A 図書館のケースではないですが、窓口業務の人間も外部委託が進んでいます。そうすると、様式を変えるだけではないというのは、まったくそのとおりで、民間の方が窓口に立って、職員が後ろで何をやっているのかが分からないまま対応しているので、クレームが来たらそのまま受けるといった短絡的な対応をしがちなので、もっと大きな視点で考えないといけないんだと思いました。そういうことを考えられる人材が不足していて、目の前のことに手一杯で、大きな視点から変えていくことができにくい状況にあると思います。そういう意味で、デザインというのはよりよくするためのツールというご説明がありましたが、そういうことかと、役所の中でも考えていったらよい流れになるのではないかと思いました。

A まだ窓口業務を経験したことがないのですが、様式を使ったりする業務にやり方を一新できるか?と言われたときに、要綱で定まっているとかあるので、担当者の中でさっとすぐに考えてやり方を変えていくにはやはり人手不足もあって、どこまで業務に取り組めるかは難しいなと感じた。

Q  ありがとうございます。そんな中で「スマート自治体」と言ったりしているんですが、そこにどうやって向かうか、その際の現場の職員さんの負担を考えると、漠然としたと言いつつも、やはりみなさんリアルに感じていますよね(東)。

A そうですね、RPAも単なるツールとして捉えてしまっていて、第3のプラットフォームという枠組みの中で考えないといけないなと思いました。

Q 果たして行政職員にデザイン思考というものを取り入れるインセンティブが働くのでしょうか。トヨタの例では、業績が上がり給料にも反映するというものがあると思いう。他方で行政の場合、それによって給料が上がるといったことがなかなかないかと思うので、そこまでやるのだろうか。しかも、目の前の業務に追われている中で、さらに新しいデザイン思考という枠組みを受け入れられるのかあると思います。そうしたときに、インセンティブがない職員だけで取り入れても成果の限界があると思うが、どうしたらいいか。

A インセンティブという意味では、おっしゃるとおりだと思う。興味がある職員は調べてやってみるとなると思うが、そこまでモチベーションがない人に対してどうするかは難しいなと思います。その際の1つの入り口として、最近働き方改革と言われていますが、「自分がどうやったら楽になるか」というのが使えるのではないか。窓口の話であれば、住民も含めてやり取りが煩雑でストレスが溜まるのであれば、それを直せればストレスも減らせますし、時間も減らすことができるということは十分取り入れやすいものではないかと思います。神戸市役所でインタビューしたときには、デザイナーですが、仕事としては業務改革のための専門家として、業務をより楽にしたり楽しくやるためにどうするかという観点で仕事をすることが多いという話がありました。

もう1つ、新しいことはやりづらい、というのは確かですが、自分の中で余裕を作るようになるところから始めるということや、トップダウンで首長が実験的にやりなさいといったことを奨励することがきっかけになったりもします。そうすると「やれって言われていうから」というのがモチベーションにもなりますよね。

Q デザイン思考というのは、それだけではだめで、全体考察で言えば、「デザインの専門家がどうやって行政組織に関わっていくか」という観点で、具体的には行政組織に外部から関わるというとき、目的決まっている場合にはデザインが機能するのは難しいのではないかと思ったがどうか。

A フィンランドの場合、路面電車を新しくする際のサービス改善にデザインコンサルファームが仕事をやったケースがあります。仕事としてはよくある話です。ですが、仕様書が決まっている、アウトプットが決まっていると「実はそうじゃない」ということがあったときに、それを提案できないというのはよくないことではあります。仕事自体は存在しているが、その目的ありきの目的は、本当にどうあるべきかというところも議論できないといけないなと思います(中山)。

A その点は、身近な例でも、私はITの部門にいますが、予算が決まってホームページを作ることになりましたと。そうすると、IT部門に相談に来ないといけないという手続きがあるので、予算を持っている担当課と業者さんがいらっしゃいました。

仕様書を見せて「これを作りたいんです」となったんです。よく見ると、ホームページを作りたいのではなくて、会議室の予約システムを作りたいだったんです。それは、使いたい人と会議室を持っている人をマッチングさせるというのが肝で、そういうのは、すでにGoogleのようなクラウドサービスで存在しているんです。一から作るよりも確実に安いし、みんなが使っているので使いやすいです。

なので、「Googleのやつを使ったらどうですか?」と言ったら、担当はびっくりして「いやあ、ホームページのお金取ったのに」ということを言い出すのに、業者さんは「いやあ、そうですよね、そういうのを使えばいいですよね」とおっしゃるんです。業者さんは仕事がなくなるかもしれないのに、そういう提案もできるのが一番ですよね、ということだったんです。

これは、仕組みが悪いのではなくて、知らなかっただけです。仕様書を書く時点で相談してもらえば何とかなるということですし、実際は、結局話は戻らなかったんですが、そういうところでどちらに振れるかはあります。そこをどう乗り越えるかは、外部の方がきっかけになるか、あるいは私の例のように、中の別の人が気がつくのか、それが上の立場の人が言った方がいいのか、なんていうことはあるかなとも思います。結構そういうことは身近にちょくちょく起こっていることですので、そういう変化をもたらしたことをきちんと評価する。

さきほどの質問との関係では、そこがちょっとずつのインセンティブになっていると思います。住民のためになる施策をすることにモチベーションを持っていない、という職員が仮にいるとすれば、その人は組織を去りなさいと思います。住民のために存在する組織であって、住民が喜ぶことをモチベーションにしないと、年功序列型で、給料が決まっている組織、これは言い換えれば「失敗できる」組織だと思います。そこを履き違えている人がいるとすれば、けしからんですし、あとはきちんと仕組みをグリップしていくと、どの自治体職員も同じようにモチベーションを持っているように感じます。ただ、それが見えにくいということであれば、中山さんがおっしゃったように働き方改革というような文脈の中に置き換えることで、改めて職員が再認識する、というように楽観的に思っています(東)。

8. 次回授業について

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では、時間も超過したので、「データ利活用について」のスライドは次回以降にお話の前フリだったのですが、時間がないので後の回に送ります。では、次回の話です。2040年に向かってどのように12/8の世界を作るのか試行錯誤が始まっています。それが京都府庁であれば「生産性向上推進費」の内容でご説明します。

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その試行錯誤で一番進んできたのが、「自治体 RPA」というのでGoogleで調べてみてください。自治体の事例がたくさん出てくると思います。その中で一番面白かったのが横浜市さんでして、それをベースにします。また、もう1つは総務省の研究会、どういう形になるのか見ていますが、現在11回まで開催されており、問題意識は最初の方、今後どうしていくかは8回目以降の資料などをご覧いただければと思います。

最後に今日は、図書館の話は、みなさんにも伝わったように思うのですが、みなさんも身近なことで気がつくことがあると思います。それをまとめて期末のレポートにして、どういう問題構造があるのかという点について考察いただくという例としても、ぜひ参考にしてみてください。

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