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シビックテックの展望 〜人・地域・デジタルが結ぶ新たな共創の形へ〜(統計と情報の専門誌「エストレーラ」2021年6月号原稿)

これは何?

公益財団法人統計情報研究開発センターが発行する、統計と情報の専門誌「エストレーラ」の2021年6月号特集「シビックテックと行政」の巻頭論考です。図書館などでご覧いただけるとは思いますが、手軽に読めるよう校正前のものをここに転載します。もし引用をされる場合は、最終稿である冊子掲載版をお使いください。

本文

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症による社会への深刻な影響は、2021年の現在も続いている。他方、感染症や災害など歴史的な出来事の中で、新しい芽吹きが脈々と立ち上がっていくということも見過ごしてはならない。

その1つに、本特集テーマである「シビックテック」がある。台湾では、市民エンジニアが政府と協力してマスクの在庫をリアルタイムで把握できるシステムを短期間で構築した話をご存知の方も多いだろう。また、次の荻原氏の記事(※追記:荻原聡「東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトとシビックテックとの協働」)で紹介されるように、東京都が感染状況をわかりやすく伝えるサイトを構築し、そのソースコードが公開されることで全国の自治体でも同様のサイトが作られた。これらは今回取り上げる「シビックテック」の一環である。

2013年に日本に「上陸」したシビックテックは、論者によって定義の幅こそあれ理解は比較的容易である。しかしながら、その実質的な内容は多様であってなかなか捉えがたい。筆者自身がシビックテックに参画していて実感することは、1つの説明で全てを説明しきれるほどには、ある意味では成熟しておらず、絶えず新しい言葉として生み出され続けていることである。そうであるからこそ、様々な方から可能性を感じていただいているのかもしれない。

本稿では、「シビックテック」という言葉が表現している現象を、その来歴やいくつかの事例とともに紹介しながら、若干の展望をしたい。

2.シビックテックについて

(1)シビックテックとは

シビックテックは、シビック(市民)とテクノロジー(技術)をかけあわせた造語で、「市民主体で自らの望む社会を創りあげるための活動とそのためのテクノロジーのこと」とされる(稲継2018)(注1)。活動に参画する人そのものに注意を向ける定義(「IT関連の技術と知見を有し、自らの意思で市民とコミュニケーションおよびネットワーキングしながら公益となる解決方法を模索し、共創する人々」(松崎2017)もあれば、活動としてのあり方にフォーカスして説明するもの(注2)もある(「困りごとを持ち寄り、共有するための仕掛け」(宮田2021)。その際、「テクノロジーはあくまで、こうした試みを実現しやすくしている」ものとしている))。どのような定義にせよ、おおよそ理解はしやすい(図1)。

図1 シビックテックの定義(筆者作成)

図1

(注1)2019年度情報通信白書には「ソフトウエアに関する知識技術を持った人たちが、自主的に集まって地域の日常生活にひそむ様々な課題を解決する、ボランティア活動やテクノロジーのこと」と定義されている。
(注2)このためシビックテック活動やシビックテックプレイヤーないしはシビックテッカ―といった表記で対象を明確にする場合もある。

これまでにない概念を生み出す方法の1つとして、それぞれはよく使われる言葉をかけあわせることは日常行われており、ここでは「X-Tech(クロステック)」という方法が用いられている。

これは、「産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、新しい価値や仕組を提供する動き」(総務省2018)であり、例えば、FinTech(金融✕テック)、EdTech(教育✕テック)などがある。

また、それ自体X-Techであり、シビックテックとともに登場することが多い言葉にガブテック(GovTech、Government✕Technology)がある。これは政府が2021年9月に設置を予定しているデジタル庁とそれを核としたデジタル社会に向けた諸改革やそれに用いられるテクノロジーを指す事柄であり、日本が先行事例として参照する諸外国でも同様の用語が用いられる。

シビックテックが対象とする領域には、行政が関係するものが多いことから、ガブテックとの異同について気になるかもしれない。両者は排他的であったり対置されたりする概念ではなく、「シビックテックを通じた政府・行政の改善」(これはガブテックが当然カバーする範囲である)というように、両者を連続的に捉えることで議論がより豊かになる(白川2018)。

今後も新たな用語が生まれるとしても、どのような現象あるいは活動、人々を捉えようとしているかという「どのような視点を提供しているのか」として考えることがよいだろう。

(2)日本におけるシビックテックのはじまり

日本におけるシビックテックは、2011年に発生した東日本大震災時の活動がその嚆矢とされる。多くの情報が錯綜する中で、被災地において必要な情報にアクセスしやすくするための「まとめサイト」であるsinsai.infoが、多くのボランティアメンバーによって運営された(関2011)(図2)。

このサイトは、2011年度情報通信白書において紹介されており、言葉こそ登場しないが、シビックテックの特色が表現されている。

一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパンの主管の下、OpenStreetMap Japanの有志やボランティア参加のメンバーにより運営された被災地エリアに関する口コミ関連情報を取りまとめたサイトである。(中略)同サイトは、2010年1月のハイチ地震(中略)の際にも情報共有ツールとして活用されたオープンソースソフトウエアのクラウドソーシングツールであるUshahidiで構築され、震災当日から運用された。

図2 sinsai.infoのページ(2011年度情報通信白書から転載)

図2

この経験の後、ITを活用した地域課題解決を模索する人たちが、同時期に世界に事例を求めるようになった。そして、2009年にアメリカにおいて設立されたCode for America(以下、CfA)を参考にし、2013年5月には石川県金沢市を中心とした活動として日本初のCode for(注3)であるコード・フォー・カナザワが、同年10月には各地域のシビックテックを支援し、国内・国際連携するための団体として一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下、CfJ)が設立された。その後、各地域においてもCode for XXが発足し、CfAにおけるそれにならってブリゲード(消防団)と呼ばれている(図3)。

(注3)なお、Code for(Code4)を冠した日本最初の団体は、図書館における情報技術活用を促進し、図書館の機能向上と利用者の図書館に対する満足度向上を目指すコミュニティであるCode4Lib Japan(2010年設立、https://www.code4lib.jp)とされる。

図3 各地域・テーマごとのブリゲード(CfJホームページ)

図3

また、2019年には各地域のシビックテックプレイヤーで構成される一般社団法人シビックテックジャパン(以下、CTJ)も設立され、コミュニティとしての基盤が形成されるとともに、ガブテックにおいて各種団体が生まれており、それぞれの相互交流も活発になっている。

3.シビックテックの広がり

次に、シビックテックの広がりを確認しよう。

(1)人の広がり

筆者が所属するCfJでは、チャットツールであるSlackを用いて参加者同士が情報交換をするスペースを設置(注4)している。CfJが構築した東京都の新型コロナ感染症対策サイトが注目された結果、2020年3月から2021年にかけて参加者数が急増している。

ア コミュニティの推移

それまで400人程度で推移していた参加者は、東京都サイトを公開した2020年3月、SNSやテック系記事を経由して、1ヶ月で約1,500人が新たに参加した。その後も増加傾向は継続し、2021年5月時点で約5,000人に到達している(図4)。

(注4) https://www.code4japan.org/activity/community

図4 CfJのSlack参加者数の推移(筆者作成)

図4

イ 参加者の特徴

アで参加者が急増した2020年3月以降にSlack上で入力された935人分の自己紹介テキストデータから頻出する言葉を抽出し、どのような特徴があるか確認してみよう。当時反響の大きかった東京都サイトを見て参加したことや、多くのエンジニアが興味を持って参加したことがわかる(図5、表1)。

図5 CfJのSlack上での自己紹介ワードクラウド(筆者作成)

図6

表1 記載のあった職業(単位:人)(筆者作成)

スクリーンショット 2021-05-14 14.18.02

他方、入力された拠点は44都道府県、15カ国に及ぶものの、人数ベースでは東京都が約7割を占め、各地に広がったとまでは言えない状況もある。

それでも、2020年以降新たに設立ないしは活動を再開(注5)した20のブリゲードが確認でき、設立準備中の地域もあることから、コミュニティの拡大による波及効果は、今後も続いていくことが期待される。

(注5)筆者が参加するCode for Kyotoも定例会をオンライン実施することで活動が再開でき、結果新たな仲間が参加することにつながっている。

ウ 地域ごとのコミュニティの態様

日本のシビックテックは、海外と比較すると、都市部以外でも多数存在する地域分散型が特徴であると言われる(白川2018)。    

2017年に実施されたアンケートでは、①自然災害、防犯、犯罪、交通・安全などの安全に関するテーマや行政改革・地域活性化・地域情報化などに関心が高く、②温暖化・生物多様性・自然環境保護などのグローバルな課題に関しては相対的に関心が低く、③30代、男女比では男性が圧倒的に多い、④エンジニア、自営業・フリーランスが中心で、学生・研究者・公務員が加わる組織、⑤活動規模は5-10人、などが示されている(CfJ2017)。

また、ブリゲードごとの特性・類似性を可視化する「CivicTech 俯瞰図鑑」(注6)では、地理的近接性だけでなく関心テーマでのブリゲード間の交流が行われていることが示唆されており、CfJやCTJが地域間連携のハブとなっていることが窺われる(図6)。

(注6)https://siramatu.github.io/brigade-visualizer/ 

図6 ブリゲードの特性・類似性の可視化(CivicTech俯瞰図鑑ページより)

図7

(2)活動の広がり

各地域で行われている多様な活動を整然と分けられないところがあるが、いくつかの特徴に分けて紹介(注7)しよう。

(注7)個別の詳細は、稲継2018、白川2020〜2021のほか、政府による事例(内閣官房2020)をはじめ、表彰制度やコンテストを通じて事例が集約されている。

ア コミュニティとしての活動

シビックテックは、すぐはじめられる(注8)のが最大の特徴である。そして、活動を行う単位であるブリゲードは誰でも立ち上げられる(注9)。コロナ禍で活動がオンライン中心に移行した後も、定例会をはじめ様々なイベントが実施されている。

また、コミュニティ同士の連携は、国内ブリゲード間にだけでなく、海外シビックテックとの交流(Code for Allと呼ばれる国際ネットワークが設立されている)も盛んであり、CfAの他、台湾のシビックテックコミュニティーg0vをはじめ東アジアで交流が続いている。

(注8)陣内2020(https://note.com/kjinnouchi/n/ne6681ec83da6)を参照。
(注9) なお、ブリゲードはCfJが承認するものではない。

イ サービス開発型

シビックテック活動としてよく紹介されるのが、オープンデータ等を活用したサービス開発である。実際のユーザーが当事者となってエンジニア・デザイナーなどの専門家と連携して開発するところに特徴がある。(図7)。

(図7)シビックテックによるアプリの例(5374.jp 地域のゴミ収集日ガイド)(ホームページ

図7−1

ウ フィールド活動型

アプリ開発と並んで活動量が多いのが、地図のもとになる地理データを作成したり、Wikipediaを編集したりするイベント「マッピングパーティ(注10)」「ウィキペディアタウン」と呼ばれるものある。これは実際のフィールド活動も交えながらデータやコンテンツを生み出していくものとして、継続的に実施されることを通じて、初参加者がやり方を学び、それぞれ各地でも活動する経路(注11)を持っている。

(注10)この際よく用いられるOpenStreetMapは地図提供サービスではなく作成・共有プロジェクトとされる。なお、災害情報を地図上にマッピングすることはクライシスマッピングと呼ばれる。地図中心2019の特集を参照。
(注11)その際、各地の公立図書館がそのハブを果たすケースも多いことは、行政とシビックテックとの関係を考える上で重要である。

エ 課題解決スキーム提供型

イ・ウとの区別は厳密ではないが、これらを課題解決プロジェクトそのもの(モノ)と、それを生み出すスキーム(コト)に分類する。

新型コロナ感染症対策として民間による支援策が数多く提供された一方で、それが必要な人に届いていないことやサービス選択のための情報が不統一である課題に対応するため、標準のデータのフォーマットと入力フォーム構築に協力するとともに、検索アプリを開発するプロジェクトを実施した(注12)(図8)。

(注12)経済産業省ホームページhttps://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200309004/20200309004.html

図8 #民間支援情報ナビのスキーム(経済産業省)

図8

また、こうしたことを生み出すために、年間を通じた活動を促すコンテスト形式で行われる他、アイデアソン、ハッカソンなどイベントがこれまでから開催されている(注13)。CfJでは、2020年にはコロナ禍で就職機会の減少という社会課題の解決を目指し、学生自身が企画した開発コンテストであるCivicTech Challenge Cup(注14)を開催し、多くのサービスのプロトタイプが生まれ、起業するケースも出ている。そして、2021年日本初のシビックテック領域に特化したアクセラレータープログラムCivicTeach Accelerator Program(注15)を組成し、社会実装、持続可能なビジネスモデルの構築のため、専門知識・資金・人材面で支援する仕組みを構築した。

(注13)本誌でも特集で紹介したことがある。白川2016を参照。
(注14) https://ccc2021.code4japan.org/
(注15)https://cap.code4japan.org/

オ 官民連携促進型

官民連携は、日本では行政が作る傾向が強いが、定義で紹介したように、シビックテックは、その活動そのものとして官民連携を促進する。そのために鍵となるのが、人材であり、CfJではアクティブラーニング型研修として自治体に企業人材を派遣し課題解決に取り組む「地域フィールドラボ」を実施し、それを契機にした連携が継続されている。

さらに、2018年前後、スタートアップも含めガブテックに関わる企業や団体が増えてきたところから、シビックテックとガブテック両輪での行政のデジタル化の効率化・高度化を進める取り組みが数多く見られるようになった(注16)。

この他CfJでは民間企業におけるCTOにならい、NPO等ソーシャルセクターに対する適切なIT投資を可能とし、協働のためのインパクトを生み出すことができる新たな職業「ソーシャル・テクノロジー・オフィサー(Social Technology Officer)」を創出するプロジェクト(注17)や、住民起点によるスマートシティの構築を進めるDIY都市プロジェクト(注18)などを実施している。

(注16)コロナ禍での給付金事務やワクチン接種でのシステム構築にガブテック企業が連携し、サービスを提供している自治体が登場している。
(注17)https://sto.code4japan.org/
(注18)関2020(https://note.com/hal_sk/n/nb18550eae279)を参照。

カ アドボカシー活動型

公共政策や世論に問題提起を行い、ロビイングなどによって政策や世論を動かす活動(後・坂本2019)と定義すると、オの延長線上として、シビックテックはオープンデータの推進による行政の透明性・信頼性を向上させる活動そのものであるほか、政策立案において重要なアドボカシーに位置づけられている。例えば、2020年末決定された政府のデータ戦略において、データ連携基盤のプラットフォーム整備にあたってシビックテックと連携する旨が明確化(注19)されていることに示されていると言えよう。

(注19)デジタル・ガバメント閣僚会議2020。その前に府省のデジタル・ガバメント中長期計画レベルにおいては登場しており、例えば、経済産業省計画には「ガバメントテックのコミュニティ形成を促」すためにシビックテックと交流を進めるほか、広報において「シビックテック等との協同を推進」することが明記され、それに基づいた活動も実施されている。

4.今後の展望

最後に、シビックテックの今後を展望しよう。

(1)認知的・試行的先導性を活かす

シビックテックが「課題解決は誰かがやってくれるだろうと考えるのではなく、その誰かにまず自分がなろう」という個人の思いが起点であることは、これからも変わらないであろう。それが持続可能になるよう制度的に担保すること、それがプラットフォームとしての行政の役割と認知され、実行されるかが重要である。

国の戦略にシビックテックが位置づけられた一方で、自治体において明記された例は少ない。紹介されるケースは増えたとはいえ、自治体が策定する官民データ活用推進計画やスマートシティ、行政のデジタル化に関する計画・戦略などにおいて、シビックテックそのものを取り上げるものは少数であり、その他は「官民連携」等の言葉にニュアンスが含まれている程度である(図9)。

(図9)シビックテックが計画に登場する自治体(筆者作成、【】は自治体数)

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こうした自治体の現状を考える際に参考になる概念が「認知的・試行的先導性」(角松2001)である。これは自治体が現場に近いところでの課題解決を図る活動体であることに起因する特徴であって、認知的先導性とは「新しい種類の問題が生じたときに、現場の事情により通じている自治体の方が、問題の認知あるいは分析において、あるいはその公共化において国よりも先行する能力」であり、試行的先導性とは「認知的先導性に裏付けられ、全国的な対処の対象となっていない事案に対して先導的・試行的に対処すること」とされる。

この概念が論じられたのは都市法の分野であるが、これはシビックテック活動の多くが最終的には「まちづくり」に関係することからも、これまでのまちづくりの文脈(注20)を色濃く反映する面があると考えられる。

図9で示したとおり、特にデジタル活用による地域課題解決に関しては、自治体の認知的・試行的先導性の内実は、シビックテックのそれであると言える。オープンデータ施策に関して自治体をクラスタリングした研究によれば、先進的とされる2つのクラスターには、連携するシビックテック等の存在が推進力の鍵になっていることが示唆されている(野村ほか2019)。

そうすると、自治体の文書に用語として現れず、広く官民の連携の中に溶け込んでいる、あるいはいまだに存在しないとされている他の地域でも起こるような「仕掛け」は何であろう。

(注20)そもそもシビックテックは、PFI同様にPPP(官民連携)実現のための1つの形態と位置づける整理がある(野村2017)。また、まちづくりにおけるコミュニティの変遷については、饗庭2021を参照。

(2)地域間連携を通じた実験

シビックテックは、その出自が災害時における有志発のテクノロジー活用であり、シビックテックプレイヤーが、オープンデータの有用性と必要性を紹介することで行政との対話のきっかけが生まれた(注21)。

シビックテックが認知的・試行的先導性を果たすとして、その次に続くフォロワーが、それぞれの地域に横展開して次のシビックテック活動が行われてきた。シビックテック誕生の基礎の1つとしたオープンソースソフトウェア(OSS)活動に見られる文化(注22)ともいえる。とりわけコロナ禍において連日数多く開催されたウェビナーによって情報共有が進んだほか、Qiita(注23)をはじめとした記事や、SlideShareやSpeaker Deckなどのスライド資料を共有するプラットフォームが、SNSを介して数多くシェアされている。

このように多様な活動を生み出し、相互参照が容易なテクノロジー(注24)が、地域間連携を通じて政策の実験を繰り返す循環を生み出していくのではないか(注25)。こうした循環は進みつつあるとはいえ、それを柔軟に行うための人事や調達制度の改革など制度設計は今後の課題である。

(注21)シビックテック登場前含めた日本におけるオープンデータ政策に関して、宇賀2019を参照。
(注22)「伽藍とバザール」として対比されたOSS活動の特徴である、複数の参加者による変更を受け入れ、よりよいものを作っていく参加型の方式である(エリック・レイモンド1999)。
(注23)Qiitaには、アドベントカレンダー方式でその年シビックテックを振り返る取り組みが2013年から続けられている。エンジニア特有のものではないようであるが、エンジニアがシビックテックに持ち込んだ風物詩であろう。https://qiita.com/advent-calendar/2020/civictech
(注24)端的には東京都コロナサイトなどで見られたGitHubの活用やAPIの整備であるが、一部の省庁や自治体において採用されているに過ぎない。
(注25)ただし、自治体間の相互参照性が高い(=横並び意識)ことと、実験を通じた政策の最適化を目指すバランスが問題となるとも言える(曽我2019)。

(3)人・地域・デジタルが結ぶ新たな共創の形へ

本稿で紹介したシビックテック活動によって生み出した様々な事例、地域課題を把握する認知先導性を持ち、その解決に対する試行的先導性を特徴とする、あるいはそうでなければならないはずの自治体は、各地域で連携するシビックテックが参画することで、活用すべきテクノロジーを再発見し、課題を解決する。こうした人・地域・デジタルが結ぶ新たな共創の形が、この10年で姿を見せつつあったといえるだろう。

そして、その先の10年に向けた新しい芽吹きはすでに動き始めている。

参考文献・サイト

饗庭伸(2021)『平成都市計画史』(花伝社)
稲継裕昭編著(2018)『シビックテック』(勁草書房)
宇賀克也(2019)「オープンデータ政策の展開と課題」(『情報公開・オープンデータ・公文書管理』、有斐閣)
角松生史(2001)「自治立法による土地利用規制の再検討」(原田純孝編『日本の都市法 II』、東京大学出版会)
後房雄・坂本治也編著(2019)『現代日本の市民社会』(法律文化社)
白川展之(2016)「ハッカソンとアイデアソンと地域課題解決」(エストレーラno.271)
白川展之(2018)「日本におけるシビックテック・コミュニティの発展―国内外のネットワーク形成とCode for Japan―」(経営情報学会誌Vol.27 No.3)
白川展之(2020〜2021)「シビックテックの時代―行政サービスの共創とスマート化①〜⑤」(地方行政)
関治之(2011)「東日本大震災復興支援プラットフォーム sinsai.infoの成り立ちと今後の課題」(情報処理学会デジタルプラクティス Vol.2 No.4)
曽我謙悟(2019)『日本の地方政府』(中央公論新社)
地図中心(2019)通巻560号(日本地図センター)
野村敦子(2017)「公共分野におけるデジタル変革をいかに進めるか」(JRIレビュー Vol.3 No.42)
野村敦子・有田智一・川島宏一(2019)「地方自治体のオープンデータ施策に影響を与える要因に関する調査研究」(日本計画行政学会第42回全国大会報告要旨集)
松崎太亮(2017)『シビックテックイノベーション』(インプレスR&D)
宮田裕章(2021)『データ立国論』(PHP新書)
エリック・レイモンド(山形浩生訳)(1999)「伽藍とバザール」(青空文庫)
Code for Japan(2017)「シビック・テクノロジーの視点からの社会課題」(国立研究開発法 人科学技術振興機構社会技術研究開発センタース テークホルダーによる社会的問題の抽出(その2) 調査報告書)

総務省情報通信白書 2011年度、2018年度、2019年度
デジタル・ガバメント閣僚会議 2020年「データ戦略タスクフォース第一次とりまとめ」

一般社団法人コード・フォー・ジャパン
一般社団法人シビックテックジャパン

陣内 一樹 2020年「シビックテックに参加する10の方法」

関 治之 2020年「DIY都市を作ろう」

内閣官房 2020年「オープンデータ100」
https://cio.go.jp/opendata100



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