Code for JapanのGovTech事業って?(2023年10月11日CivicTech Live! #30 - govtech編文字起こし)
これは何?
Code for Japanが定期的に開催しているオンライントークイベント「Civictech Live!」で「GovTech」が取り上げられました(2023年10月)。
イベント自体は、個人パートとしてお話し、その後にパネルトークとして問いかけに対してお話するというものになっています。この記事は、それぞれのパートで私がポイントだと考えていることをお話した部分を抜粋して、読みやすくなるように最低限の編集をしたものです。
本編はYouTubeでアーカイブ配信されていますのでそちらもご覧ください。
個人パート:Code for JapanのGovTech事業の特徴
GovTech事業ということで、お問い合わせをいただくことも多いのですが、それはCode for Japanのホームページに肝心なことが書いていないからではないかと思っているんです。
それには理由があって、自治体さんって自分たちの事例を積極的に発信することをある意味良しとしない、と言うとネガティブな意味ではなくて「いやいや、私どもなんて・・・」ということがあったりして、どのようなことをやっているかを出そうと思っても出せないということがあります。
また、事例と言っても、お話するのは「どういう狙いがあってやっているの?」ということを中心にお話したいと思います。
ホームページには「一方的に講義・アドバイスをするだけでなく、実業務をもとに」とあります。「実業務をもとに」っていうのは、それが自治体さんにとっては一番のやりたいことだろうということと、石塚さんも先ほど自己紹介であった通り自治体出身者で、私も京都府の職員といった期間もあります。自治体で実際に働いていた、あるいは霞が関で働いていたっていう自治体の皆さんからすると同じようなことを実体験として知っていたりとか、そこでいろいろ実践をしていた人であるからこそできることがあると思っていただいてるのだと思います(※これはそういう経験者だけがすべきであるということは意味しません、念のため)。
Code for Japanの場合、そういった中でアドバイスや講義とかじゃなくて、実業務を基にした実践的なワークショップを通じて、GovTech事業をやっていこうみたいなのが大きなポイントになろうかと思います。そんなことを書いてるつもりなんですけど、なかなかわかりにくいかもしれないです。
最近の事例:兵庫県加古川市での取り組み
公開になってる情報の一つとして、加古川市さんの事例でご説明します。
自治体との連携協定は、加古川市さんだけではないんですがいくつか締結させていただいています。
加古川市さんとの取り組みは、「人材育成プログラムの提供を通じた自治体DX」だというふうに私どもは捉えていますが、その形としてはスマートシティの推進に関する協定です。加古川市さんといえば皆さん方も、スマートシティの先進自治体だということをもしかしたら聞かれたことある方いらっしゃるかもしれませんけれども、建付けはスマートシティの推進なんですけど、連携協定の項目の二つ目にですね、人材の育成に関することが入っています。
このことは、締結当時に市長さんともいろいろお話をする中で、この点がすごく大切ですと。ですので、スマートシティの推進と裏表の関係のような形で、人材の育成というのが入ってるっていうのがミソであります。
階層別研修と課題解決支援研修の実施
この協定に基づいて、Code for Japanでは、今年が3年目になっている階層別研修と、もう少しインテンシブな研修、ここでは課題解決支援研修という言い方をしてますけれども、これらを組み合わせた形で実施をしています。
スライドの写真は、今年の取り組みを中心とした写真でして、やってることはワークショップみたいなことのように皆さん思われるかも知れませんが、階層別研修ですと、3年目と5年目の職員さんと、係長に昇任昇格される、係長1年目の職員さんを対象に、年によって人数増減しますけど100人近くの方々に対して1日間ないしは2日間研修をさせていただいています。それと、共通することとして職員さんが自分たちの業務課題を持ち込んでいただいて、それを支援型で、自分たちで課題解決ができるようにしていく、私自身はこれは業務そのものだと思ってますが、研修の形で実施をしているというものになります。
狙いは事業立案と研修体系の融合
一見「DXを進めるために人材育成をします。研修してそういう人たちを何人養成します」みたいなことを自治体は計画によく書かれたりするんですけども、それは自治体側の都合であってですね、我々が狙っていることで、加古川市さんでやってる肝はここかなと思ってるポイントがこのスライドです。
それは、先ほどの研修の中でも課題解決支援研修の中で自分たちの業務の課題を持ち込んでいただいて、と言いましたが、何のためにそんなことするかは、結局予算を作ること、新規の予算を作ったりとか、改善する予算を作ったりとかしてそれを議会に認めてもらって事業執行していくっていうサイクルをずっとやってるのが行政です。
既存の仕組みを活用する
そういった中に、DX的な要素を入れるとすると、何かそこで生まれる事業が何かデジタル的なものである、ということも、もちろん大切なんですけども、そういったものを継続的に生み出すような仕組みをインストールすることが重要でして、そうしたときに、新しい組織を作って、何かこんな研修をしますみたいなことではなくて、加古川さんの場合は既にそれに使える仕組みをお持ちだったわけです。
つまり、スライドのタイトルに現在進行形の文章で「融合が進んでいる」と書いているとおり、事業立案を進めるための政策提案制度があるのと、研修にも業務改善をするような研修があったり、階層別の研修が元々あったりするところに、それらをうまく融合させる取り組みをこの3年間で進めていただいてるっていうのが大きなところかなと思います。
これまでは研修と事業立案の担当は違うということで、当然、目的も違うこともありますが、お互いやってることが必ずしもスムーズに連携してなかった。結局、課題解決に繋がるための研修をしないので、さあ職場に戻ってやれるか?とか、研修に送り出した上司がその成果をどう評価するかみたいなのが必ずしも繋がってないきらいがありました。
また、何か政策を良くするための手挙げ方式の研修だけをすると、一部の職員さんだけがそういった機会を享受するみたいな話になってしまいます。そういう機会そのものが別に悪い訳ではないのですが、それに参加して経験しない職員さんあるいはそこに紐づいてる業務なりで見たときに、何かが新しく生まれ変わるっていう機会がないということを意味します。そうしてしまっている状態を変える必要があるということです。
そこで、現在では関係する所属、加古川市さんで言えば政策企画課とか職員課とか、行革の部門がそれぞれ関連する制度をそれぞれ所管しているところと、私どもとが一緒に3年取組を進めてきました。
具体的には、実施スケジュールをまず合わせよう、ということとその要件を合わせますとかですね、あるいはそこで学んだことを次の事業立案に生かしていただくとか、そういった意味づけをして、制度所管課も職員さんもその制度に乗っかって、事業を進めていただくみたいな建付けに変わりつつあります。
自治体DXを進める仕組みから変える
自治体DXってDじゃなくてXが大切だって散々言われてると思うんですが、こういう仕組みのところをまず変えないと、こうした取組で生まれてくるものの、射程が伸びないっていうかですね、ワーッとやったら何かが生まれるとかいう話じゃなくてですね、打率としてはコツコツかもしれないけどもずっとヒットを打ち続けるような取り組みが生まれ続ける組織の方が、きっと強いわけです。また、今は自治体DXという話の言い方になってますが、将来違う何か種類の改革をするっていうときに慌ててまた何かするみたいなことじゃなくてですね、こういった今の仕組みをうまく切り替えて、その時々の目的に合った制度にして、その中で職員さんに精一杯というかですね、アイディアなり、知見を十分発揮していただく環境を作るっていうところに、我々は注力をしているという意味合いになります。
だから入口としては研修なんですが、狙っているのは、その研修を担う人たちをどう変えていくかという観点での取り組みとして、研修参加者と制度所管課両方に効いていくような形で取り組んでるのが、自治体の皆さんとやってるがGovTechの事業の特徴なのかなと思っている次第です。
パネルトーク(抜粋)
もうちょっと加古川市研修の特徴をば
加古川市での研修自体は、課題解決支援研修だと終日の研修を6回設定していて、最終回は成果発表会なので研修自体は実質5回になるのですが、さきほどご説明したようにその研修に参加いただく方への伴走支援もそうですし、事務局の人たちへの伴走と両輪だと思っています。そういった意味だと、加古川市さんとは定例で毎週会議をしていて、そこでは進捗を確認するだけじゃなくて、結構実質的な話をしたりします。
新しいネタを投入するような話もあれば、前からある話をもう1回掘り出してきて、「あの時の話をどうしましょう」といった話を繰り返しやることによって、ちょっとずつ検討が進むことがあります。自治体さんは自治体の時間軸があって、それを全然無視して、「わーっ」てやるっていうこともできるのかもしれませんけど、「そろそろこれを打ち込んだらなんかいい感じで通りそうじゃね?」みたいなことを打ち込むと、「確かに・・・」みたいになって、役所内で頑張っていただいくということがあります。
さきほどの制度と研修の融合の話なども、ちょうど振り返る機会が今度あるから打ち込んでみようってなって、案外すっと通ったというものです。また、そうじゃない様子だったら「じゃあ次のタイミングを図りましょう」と、そういったことをじわじわやっていって、いいタイミングの時にやっていくみたいなこともあります。
研修でも、結局そうなんですよね。最終的に成果発表をして発表を聞いてもらうべき人に対して発表して「じゃあどうするか?」みたいなことが、研修のお作法・フォーマットとしてあると思うんですけど、さきほどご説明した通り研修という建付けで予算を作っていくという制度として運用しつつ、職員さんも受けているのは研修かもしれないけど、仕事の中にある困ってることとか意見交換したいことも、基本的に全部拾って支援しますよ、という感じで相談いただく感じになっています(ちなみに、運用としては前期が課題解決支援研修、後期は課題解決支援相談会というプログラムです)。
また、最近は担当さんだけじゃなくて、例えば課長さんとか部長さんとか副市長さんとかもそうですし、市長さんとは定期的に意見交換させていただいているんですが、これらがGovTech事業における「仕事」としてやっていることでは必ずしもないんですけど、そういったお互い情報交換しながら、「じゃあこういった時に何しましょう」みたいなことを言えるのが多分大切なのかなっていうことです。PLATEAUの研修でも多分そういった時間を持っているんじゃないかなっていうのは見てて思います。
加古川市で見られる変化
研修をこれまで3年間やっているので、たしかに職員さんには研修の資料があって終日聞いていただいているので、「じゃあ職員さんが自分なりに段取り組んで研修やってみましょう」みたいなことをしたこともあります。
でも、「まあそうじゃないな」と思っていて、結局研修に参加してもらうネタを出す段階に着目すると、研修でどのような業務の課題を解決するのか事前のヒアリングがありますよね。また、「どうしようかな」と思っている時の対応とか、担当の職員さんは、市の予算で考えようとしている話を企画部として話が回ってくるのを聞きつけて、当該所属に聞きに行ったりとかした時に、こういう研修にマッチするかどうか当該所属の職員さんは分かってないんだけど、それを「その事業はこういう意味があるからこういう形で研修でやってみませんか?」っていう風に提案をするようになるようになったりしています。
しかるべき担当さんや課長とちょっと話をする動きをするようになってくると、庁内で発言力が出てきていると言えます。すると、さきほど制度を所管する人たちと制度をちょっと変えてみようみたいな話になってきてると言いましたが、そういった意味では、研修の担当というよりも相談相手になってくると言えるわけです。
加古川市に伴走支援する我々としても、研修内容をただナレッジとして教えているのではなくて、伴走支援することで自分たちが変わることを支援する機会としてやっていると申し上げましたけど、それを「中の人」がやればもっと庁内での接触時間は長いわけですし、そもそもお互い頼ったり相談したりとかいろんな人たちでワイワイするために自治体という組織があるわけだから、その中でやる方が明らかにパフォーマンスはいいはずです。
なので、中の人が研修をするというのではなくて、こういった意味で自治体の中の人ができればいいのかなっていう意味です。
GovTech事業の性質から考える
このご質問は、意図があってしてると思うのでそれに乗っかっているかどうかわからないんですけど、そもそもGovTechの事業をどう見るかって多分いろんな角度があると思っています。先ほどのお2人のお話(小島さんと石塚さんが先に回答したのでこういう書き方です)は、詰まるところはそこで頑張っている、あるいは頑張ろうとしてる「職員さんを応援しよう」、それがGovTechの真髄だし、Code for Japanがなぜやるかと言えば、そうすることがCivicTechに繋がっていくからだということだと思うんです。
私ははちょっと違う角度で見ていて、先ほど説明した通り「仕組み」として良くなければ、そこにいる職員さんも幸せにならないっていうアプローチなので、あくまでも仕組みを変えていきましょうという話で考えています。
そういった観点からご質問に答えるとすると、いい仕組みを持っているけど使いこなせていない自治体とご一緒するのがいいと思ってます。それが最近だとスマートシティとかに取り組む自治体だと、予算と体制を持っていて変化の可能性がある一方で、そこに何かしら課題あったりとか、あるいはうまく行ってると自己認識があってそれを加速しようみたいなところは、そのマインドセットとして挑戦しようとか、それに対する一部反発があっても理解しようとする風土があるとかみたいなのが揃っているのではないかと思っています。
いずれにしても入り口としては、さきほどの私の発想から言うと、そういった仕組みだったり仕掛けがあるかどうかが肝心で、両方ともがない場合ははきっと無理なんですという話になります。あるいは、頑張ろうという人たちかそういった頑張る仕掛けがある場合、もちろん両方が揃うのが多分ベストなんですけど、多くの自治体はそうではないので、いずれかからのアプローチがきっとCode for Japanのやり方がマッチしうるのかなっていう気がしています。
ホームランよりヒット
それは、極めて簡単なことで、継続しているかどうかです。
何かぶち上げて、「あれどうなった?」っていうものが、世の中多すぎるといことでもありますが、花が咲くのは後になってからなんですよね。
ですので、花が咲くまで打ち続けられるかどうかがヒットだと思っていて、それが例えば自治体の仕組みであると担当さんが替わるとポシャるとか、大きなのは首長が替わるみたいな話も、それはまたちょっと違う話ですけど、実際の実務としてやる時には、関係者を巻き込んでやるようなプロジェクトで人が替わって熱意が変わるとみんな離れていくことが多いと思いますが、「担当する職員が変わるみたいなことだけで変わっていいのか?」っていうことだと思うのでヒットは、まずはそういう意味ですね。
では、続いていくことをベースに考えると、「続けていくことができない」の はそういったプロジェクトに配置するだけのリソースがないことだと思います。あえてリソースを配置しない自治体って、ほぼほぼないと思うんですけど、担い手がいなくて手が回らないからという理由から発生していると思います。
こうした状態は、職員さんから見ると希望通りにその担当になる・なれないみたいな見え方で見えると思うのですが、異動させる側からすると、多分それはすごく困った状態になっていると思うんです。加古川市の階層別研修を所管する職員課さんとお話をすると、そういう人材がどこの組織にも揃っていないとそもそもヒットを打ち続けられるかどうか考えられないのではないかという危機意識をお持ちで、なので階層別研修ですべての職員に対してコツコツやらなければいけないという考え方です。
ですので、階層別研修でも若手なりの素晴らしいアイデアを出してくれという言い方を彼らはしていなくて、みんながちゃんとヒットを打てるような状態こそが、引いては市民のためのサービスを生み出すことであり、それが市役所が市民・事業者から信頼される組織になることであり、そういった中で働く職員さんがやりがいを持つという好循環を生み出すことができる、という言い方をされます。そういう意味で、職員さん側だけでなくて、そういう職員を育てる側のことも含めてのヒットと捉えることが大切なのだと思います。
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