デジタル化時代の監督者の役割(2020-12-16 豊岡市役所「行政事務のデジタル活用研修」講演)
これは何?
豊岡市役所の監督者(部長〜課長補佐級)を対象にした業務改善研修の冒頭講演(オンライン)を、いつもの通りUDトークで文字おこしして、一部編集(スライド差し替え含む)をしたものです。元は50分程度の講演です。
もともとの問題意識
お題がこういうことなので用意した講演、というところもありますが、もともとは9月にCode for Japanの理事・スタッフ内でこれからのことを議論をしたときに少し考えたことを、少し熟成させてみたものでもあります(今後も熟成させたり撹拌させたりすると思います)。
それは、詰まるところ「公務員組織は、法で期待されているような仕組みとして運用されているのか?」というものです。公務員個人個人の話(能力そのものなど)というより、仕組みとしての「公務員」の制度疲労が著しいこと、これは以前から言われているように思います。ITスキルがある・ない、とかではなくて、それをそうした議論にしてしまう「仕組み」です。でも、それを運用するのも人間なので、その区別が難しいのも確かです。
その中で、最近は公務員も個人として様々な情報発信をするようになり、実態そのものや仕組みも外から見えやすくなったと思います。その際、その個人個人のありようについては、彼らの多様な声にお任せするとして、翻ってそもそもの制度ってどう運用されるべきなんだろうね、というのが私のもっぱらの問題意識です。つまりは、「どこでもそうだよね」「あるある」みたいな程度問題に帰着する話ではなく、規範的な話と言ってもいいかもしれません。そして、そういう話は最近少ないよね(あるいはごく狭いところでしか議論されなくなったよね)、ということもあります。
例えば、「上長の違法な職務命令に従う必要があるか」という形でさんざん議論されていた地方公務員法は、果たしてそういうことだけを問題にするために運用するようになっているのか、だったり、最小費用最大効果の原則が、経費を切り詰めること(また、その是非)ばかりに話が集中するのって、そうさせてしまう別の仕組みがあるからだと思うのですが、それって地方自治法の要請として、そういうことでよかったんだっけ?とかです(コンメンタールとか判例百選読み直そう・・・)。
こういった仕組みの話側からを考えておきたいので、まず仕組みに作用する現実のところについて紹介する形になっていますが、話しながら頭の中で考えているのは上記のような仕組みとその運用についてです。対象である監督者が、組織を見るときに必要な視点はそういうことでもあるかなという裏テーマでもあります(そのことは直接はお話していませんが、気がつかれたでしょうか・・・)。
講演スタート
私からは、「デジタル化時代の監督者の役割」というタイトルでお話をします。
少し概念的というか、ちょっと大きな話みたいなところからお話をして、後ほど会場にいる砂川さんの出番につなげる格好です。このタイトルに関して、「これはこういうことですよ」というお話というよりは、キーワードを3テーマで2つずつあげていますが、こうしたことにまつわるお話をさせていただいて、皆様の考えるきっかけになればいいなと思っています。
その3テーマ2キーワードは、
です。
インプットとアウトプット
今回のお話で一番申し上げたいのはですね、みなさんが普段一緒に仕事をしている若手職員のことです。
私は40代なので、役所の中で言えば、まだ若手っていうか、中堅どころとかですかね、そういったところかと思いますが、主に想定しているのは20代30代です。
私がいた京都府庁、都道府県は市役所の体制とは若干違う面もあると思いますが、私みたいな40代の人間が一番少なくて、その後の20代30代が急激に増えています。また、大学院で教えていたと紹介がありましたが、そこは社会人大学院という向きもあったので、学生の中には、学部卒業の方が大学院に進学する場合もありますが、私の授業自体では、半分以上はもうすでに社会人になられて、学び直しのためにですね、公共政策大学院に進学されて、仕事をしながら勉強をしていました。
彼らを見ていると、若手職員のインプット・アウトプット、これはそもそもの能力不足というよりも、仕事をする上での必要なインプット・アウトプットが不足している、あるいは差が大きいというのをすごく痛感しました。
今、仕事で何をしているのか?
そうした彼らが、今、仕事で何をしているか、であります。
この資料は、総務省の地方制度調査会、地方自治法の改正などを審議する審議会でありますけれども、2020年1月に今後の自治体のデジタル化について審議をするという中で、大阪府の泉大津市、豊岡市よりやや人口が少ないくらいの自治体について、例えば税務課とか、高齢介護課と市民課といった基本的には同じスペックで仕事をしているはずですので、なじみの深い課が並んでると思いますが、そうした課の事務分類ごとの業務量を調査したものです。
例えば申請を受け付ける仕事、入力をしたり何かデータを確認するとか、システムで作業して帳票作る、あるいはそうした処理を整理するものもあれば、どこかに訪問したり調査したりといった様々な仕事のカテゴリーに分けて、それで何かごとにそれがどれぐらいの業務量になっているかっていうのを分類したものです。積み上げ棒グラフなので、例えば一番上はですね、こども育成課、子育て応援課といういわゆる子育ての関係する部署ですが、この場合は年間合計で9万時間となっています。二つの課で9万時間とそれなりに大きいですね。そしてこの業務量をこなす主体として、正職員、臨時職員、嘱託職員といった正規・非正規職員の合計でカウントされています。
この資料で言いたいのは、入力や確認等の事務作業がこの業務量の半分程度を占める課があるということになっています。
事務作業とコア業務
この入力や確認作業等の事務作業っていうのは今後もこの話の中で、続いてくることですので、少し説明しておきますと、イメージとしては何かデータを入力したり、データを例えば申請で受け付けた書類を、それが正しく入力されているかや、添付書類がないあるかないかを確認するといった、文字通り「作業」として、イラストのように紙を積み上げて画面とですね睨めっこしながら仕事をするものです。さきほどのスライドで、そうした業務が仕事の内容として課によっては半分程度を占めるということです。
もう1つ「コア業務」、これは先ほどの事務分類とは別にですね、もっぱら正規職員と非正規の職員を区別する業務の性質を言います。一応、臨時職員さん等にお願いする仕事として、判断を必要としない定型業務を割り出しをしていわゆるアルバイトさんにお願いするみたいことは概念としてあるかと思います。で、コア業務は、職員じゃないとできない、つまりノンコア業務の裏返しですね、職員じゃないとできない、職員としてやることが義務付けられている業務となります。
コア・ノンコアの仕分けは進んだか?
前提としてこうした区分をしたときの現状を整理します。総務省の整理は、あくまでさきほどの「事務作業は半分程度を占める」でしたが、原典である泉大津市の報告書からデータを確認して作成しました。
まず、コア・ノンコアの仕分けですが、こちらのスライドのように、課によっては、正規職員が処理する業務のほとんどが「コア業務」になっている会計課がある一方で、高齢介護課は半分に過ぎません。
そうした理由はそれぞれあるでしょうけど、大きくは2つでしょう。
まず、当該分野の業務が次々新しい政策が増える、予算が増えるといった状況下で、業務のコア・ノンコアの仕分けができなかったというものです。
もう1つは、単純にその結果としてということもあるでしょうけども、どうにも仕事が回らないので、みんなでわーっと仕事をしないといけない状況になっているというものです。
こうしたことの帰結として、今回の研修テーマに引きつけて言えば、業務改善をしていく上で、こうした職場では、業務が繁忙である、あるいは正規職員であっても単純作業が業務時間に占める割合が増えた中では、業務を見直していくアイデアが生まれにくいという状況になりがちです。
事務作業に時間を割かれる職員の姿
そうしたとき、改めて入力や確認作業といった事務作業に時間を割かれている職員の姿が現れてくるところを確認しましょう。先ほど申し上げた、事務作業が半分程度を占めていると申し上げたところを細かく見るために、事務作業とその他の2分類にしなおしました。棒グラフの赤いところを個別に見ていくと、一番上の人事課は5割を超えています。会計課は75%です。他方で、割合が一番少ないのは地域政策課で、これはいわゆるチーム福祉の計画を作る所管だそうですが、事業計画を作るといった業務はここで言うその他のところに当たります。みなさんのイメージからすると、それも事務作業じゃん、と思われるかもしれませんけれども、定義としては事務作業とは言いません。
コア業務としての事務作業に対応する職員の姿
もう一つのグラフをお示ししましょう。今度は、青い棒グラフ、これは事務作業のうち、それがコア業務かどうかを課ごとに並べたものです。さきほどのコア・ノンコアの説明した時は業務全体でのコア・ノンコア割合でしたが、ここでは事務作業に限っています。
例えば、会計課は、事務作業を結構やっている、そのうち大部分がコア業務です。これは支出伝票を決裁するときことを思い浮かべていただけるとわかりますが、確認作業はあるとはいえ、最終的に職員として判断して支出の決定を行うから、という区分けでしょう。
また、市民課は、戸籍係と窓口係で分かれていますが、戸籍に係るところは、その扱う個人情報の性質上、特定の職員のみとするルールがあるために、事務作業としてのものであっても、それはコア業務として分類されることになります。
そうしたときにですね、庁内の至るところで、いわゆるここで定義されている「事務作業」を結構な割合でやっているのですよね。そして、大抵そうした事務作業は、若い職員が担当します。
インプット・アウトプット不足は、ヤバい
若い時分にですね、そうした事務作業を続けていくことが、どういうことを意味するか。端的に言って、成長できない仕事を続けていると思います。例えば事務作業だけでなく、やはり住民さん対応をすること、これはもちろんしんどいこともあると思います。しかし、住民の方々が何に困ってるか、役所に何を期待し、そしてどうしてほしいのかとか、制度的な限界や不条理も感じるでしょう。
しかしながら、そのような経験を持つ背景に気づいたり、応対をする経験によって、みなさんも鍛えられた、という実感があるでしょう。また、住民のみなさんに喜んでもらった、喜んでもらたいと思うこと、それは公務員としてのやりがいそのものです。そうした実感もお持ちでしょう。
そして、そのような「やりがい」を通じて地域貢献したいという思いを持って入庁した青雲の志をお持ちの人もいるでしょう。けれども、なかなかそういう現場では、所管として担当しているとは言え、実際に配属されたとしても、実際やってるのは「事務作業」が大半である。
こうした現実は、結構深刻なものになってるんじゃないかと、私はこの調査で出てきた業務量を積み上げたものを見て思います。もちろんですね、役所という全体で見た時に、同時に所属によっては、事務作業・コア業務のバランスがいろいろあることも確かです。それは大切な仕事です。所属によってはこのようにコア業務で事務作業にならざるを得ないことも現実としてある。
そうすると隣の芝生は青いじゃないんですけれども、若いうちにこんなことをするのかと、思わざるを得なくなる。もともと成長志向、そういうメンタリティーを今の若い方々がどれだけ持っているのかありますが、少なくとも事務作業が大半を占める仕事はそうではないと感じるということが出てくる。もちろん今ですね、コロナ禍だから公務員が安定していて・・・と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、今後の人口減少社会でみなさんのようにキャリアを重ねていく若手の確保が困難になっている現実をどう考えるか、っていうのは非常に難しい問題があるんじゃないかなと思います。
事務作業を把握する監督者のあり方も多様
次に、ここまでご説明したグラフを2つ並べてみました。ここで観察される事実は、庁内で事務作業割合・コア業務割合のバランスという点で見た時に、もうバラバラな姿です。すると、担当さんとしての実感はご説明しましたが、監督者の立場としてもどうでしょう。
非事務作業、右側のグラフで灰色の部分で、左側がコア業務である部分、これはいわゆる作業ではなくて、職員ががっつりやる仕事です。そこでは、監督者は、通常の決裁をすることが予定されていて、報告・相談・連絡をして物事を進めていくことが予定されていると思います。
けれども、右側が灰色、非事務作業で、左側が青いコア業務は、ほとんどない課もあります。つまり、裏返しで、事務作業が多く、それは実際はノンコア業務であるという現場は、どうでしょう。これは、もう作業をしまくってるわけですね。場合によっては、監督者であるみなさんも、人員として借り出されているかもしれません。プレイングマネージャーとして事務処理にあたるということが、例えば京都府でもですね、そういったことがすごくありました。
係長なり課長補佐というポストは、都道府県庁で言えば、40から50代がなってきました。けれども、最近はそうしたポストの職員が事務作業にも手を出すようなことになり、係のマネジメントとして、やはり駄目だろうということで、極力手は出さず、係員をきちんと指導しようとなりました。
監督者の責任じゃなくて仕組みの問題
こうした現象に対して、私は監督者の責任だとは思いません。やはり仕組みの問題だと思います。先ほどの高齢介護課で申し上げれば、どんどん仕事が増えている中で、組織として対応するいうことを続けてきたた結果が、この間の地方分権改革であるとか、政権交代前後から歳出が増え、それとともに権限移譲も増えた。
一方で人員削減する、豊岡市さんの場合はこの間に合併がありました。合併当時はすごい職員が多いねっていうような話を合併直後の議会でもされていますよね。県内で最も広い基礎自治体となる一方で、現状は800人ぐらいの組織ですが、その当時は職員が多いというところから、相当数減らしてきました。それは非正規化であり、コア業務とノンコア業務の仕分けの結果であります。そうした、法令・予算・執行体制の変化の中で、業務を生み出す仕組みをどう考えるかっていうのは、この帰結としての現状を見るにつけ、監督者に帰すべき話ではなく、とはいっても仕組みの解消も難しいところがあります。
他方で、その仕組みの話としては、そうかもしれないけど、やはり現実も重要であります。そういう仕組みを前提としているからこそ、公務員はOJTで育成しようということがもともと予定されていると言えるかもしれません。例えば、定期人事異動がOJTを支える、その意味ではもうひとつの仕組みであって、いろんな幅広い経験をしていくことで成長する。みなさんもそうした実感があるでしょう。
けれども、問題なのは、実際どう機能するかです。現在、みなさんから見てOJTが機能している実感があるでしょうか。あるいは言い方としては、仕組みが予定しているものとの乖離が出てきていることもあるのではないでしょうか。
だとしても、それは困ったねっていうことで止まってしまうのではいけません。監督者としてもインプット・アウトプットも必要であります。
デジタルとアナログ
思考停止しないためのキーワードが、アナログとデジタルです。
この2つのキーワードは考えると結構難しいので、やや限定的な言葉の使い方でお話しますが、今回取り上げている事務作業という点で見たときに、この2つの言葉で考えてみましょう。
端的に、監督者の役割の変化があります。
部下を育てるとともに事務を継続して回していく、そういうことをする際に、いわゆる「背中を見せる」、先輩がやっているやり方を教えたり、若手がやってみるときに、いろいろな人が支えている、暗黙知も随分とあるでしょうけど、それを続けていく内に成果を出すようになってくる、こうしたサイクルで業務が遂行されていく仕組みを「アナログ」と言いましょう。ここでの監督者の役割は、文字通り「背中を見せる」です。みなさんはそうやって成長してこられた実感があると思います。
他方で、まだ実現していないものですが「デジタル時代」には、これまでご紹介してきた事務作業からは開放される、と言われています。少なくともこれ以上の人員が確保できない人口減少社会の本格到来下においては、事務作業に貴重な職員のリソースを充てることができなくなると言われています。
イラストは、「まだ来ていない未来」ですし「たぶんこうなるのではない未来」という意味で、ロボットがパソコンの前で作業をするという滑稽な未来にしていますが、つまりはそういうことです。そういう滑稽な未来に監督者が何をすればいいか、を考えることは困難でしょう。
やらなくてはいけないのは事務作業とコア作業のデジタル「化」
滑稽な未来と申し上げたのは、その手前の話があるからです。デジタル「化」とあるように、アナログとデジタルの間に「デジタル化」というフェーズがある訳ですね。言葉遊びのように思われるかもしれませんが、具体的にお話しましょう。
まず、事務作業、入力や確認作業ですが、これをデジタル化するとはどういうことでしょう。ここでイラストにしているように、当該作業内容を切り出してデジタルに乗せる設定が必要です。入力作業であれば、どこに何を入れるといったことや、確認であればAの場合にはBが正しい、というようなことです。さきほどの調査のように、一つ一つヒアリングをして業務量を確定させていく先に、その中からデジタル化するための設定そのものが、ここで言うデジタル化です。
また、コア業務はどうでしょう。法令が変われば別ですが、職員が判断するという内容をデジタルにできる部分は実はそれほど多くないと言われています。それが法の建て付けであって、その中には倫理的な側面も、住民の考え方といったこともあるでしょう。それをデジタル化するとなった場合には、それを承認する部分がどうしても残るでしょう。もちろん、現時点で「職員が判断しないといけない」という領域が、実は事務作業としてカテゴライズできるものになった場合は、左側の話になりますが、その判断が必要ということですね。
さらには、もう少し現実的な話としては、職員の判断を代替するものとしてのロボットではなくて、法令に規定される要件を充足するかの判断をするための、様々な材料、例えば前例との公平性や、本件そのものの整理、資料の要約といった、判断作用にあたっての材料を集めるという事務作業を肩代わりしてくれる、判断の支援を行うロボットのようなものはできてくるでしょう。
デジタル「化」という移行期は、本来楽しい
先ほど泉大津市さんが対象としたのは、グラフで並べた所属でしたが、これを全庁的に行うことになります。デジタル「化」するので、じゃあヒアリングやりますからちょっと話聞かせてください、と言うと、現場の人たちはやっぱり迷惑な話ですよね。
しかしながら、そうした事務作業を見直すということは、そこからでしか始まらない訳です。私はそれは楽しいことだと思いたい。なぜなら、今回あのグラフをご覧いただいて、オンラインの画面越しに「おおっ」という顔になって、メモを取り始めた方がいらっしゃいました。ああしたこれまではっきり分からなかったことを知るようになるために、プロセスを倦まず弛まずしっかり考える、この過程そのものに価値がある時代だからです。
市民と行政
そうした過程を経た後、住民サービスを届ける行政にとっては、市民との関係も見直す必要があると思います。
ユーザー像を変える必要?
総務省の今年度の情報通信白書に掲載されている、年齢階層別のSNS利用状況、2018年と2019年の比較です。行政のデジタル化と言ったときに、わかりやすい話で言えば、例えば普段使っているスマホを使って、他の民間サービスと同じような行政手続を実現しましょうとなります。そういったときに、お年寄りって使えないんじゃないか、言われるんです。
けれども、こういった前提が変わりつつあるんじゃないかなと思われる様が出てきているように思われます。とくに、80歳以上を見ると、2018年は16.9%であるのに対して、2019年は42.8%とあります。この調査は、結構振れ幅があるデータなので、1年で2倍以上になったと思う必要はないと思いますが、トレンドとして今後出てくることを先取りしているように思います。
「先取り」というのは、定義上、当然なのですが、今後はより年齢階層として若い方が加齢により、順番に上の階層に移行します。また、日本全国津々浦々で高齢者がこぞってスマホとSNSを使うようになっているのではなくて、地域的にも違いもあるでしょう。
しかしながら、こうした高齢者の方での数字が上がる背景には、実際に使うようになったきっかけやモチベーションがあるはずです。例えば、孫とLINEでやりとりするようになったとか、これまでガラケーだったのが、壊れてしまったし、いっそスマホに変えるとか、能動的な理由もあればなんとなく変わったというところまであると思います。
スマホが登場して10年以上経ちましたが、ご紹介したようなデータを掲載し始めたこともまだここ数年です。SNSでを年齢階層別に見せて動向を紹介するといったことも、この数年で変化を見せてきていて、この足元でなにか新しい動きが見えているのではないか、と考えることができるようになっています。そのことを、80歳以上の変化に認めることができるのではないかということです。s
そうすると、これまで前提としていた高齢者はスマホを使ってSNSしないということが、突然大きく変化することを想定しておく必要があろうかと思います。
次に、同じ情報通信白書から、年齢階層別のインターネットを何目的でやっていますか、というものです。一番左は、電子メールの送受信になっていて、棒グラフは、全体の割合すなわち全年齢では8割近くの方がインターネットを使うときに電子メールを使いますとなっていて、色と形で個別にプロットされているのは、それを年齢階層別に示したものです。
例えば、電子メールの送受信で、6割のところあるのは20歳未満、13歳から19歳、続いて60歳以上、その次が20代、40代、50代と割合が増えていきます。
全体は、あくまで平均なので議論するのではなくて、個別の年齢階層別に見ていく必要があると思います。例えば、一番右は「電子政府・電子自治体の利用」ですが、全体での利用は10%程度にとどまっていますね。じゃあ、これまだ10%程度で、全然使ってないね、と考えるべきではなくて、一番使っているのは30代だと。
では、こういう年代の方は、どういうときにインターネットを使って、何をしているのかを考えてみましょう。この調査には、インターネットで何していますか、というものなので、何を使ってインターネットをしていますかは分かりません。なので、推測をする必要がある訳です。さきほどの電子メールであれば、50代の方、きっとパソコンでやってますよね。インターネットが家庭でも普及しはじめた25年くらい前の延長線上で、電子メールを使うことが多いのではないかと思いますが、他方で30代の方が、パソコンの前に座って、電子メールをするというより、もうスマホでやっているでしょう。なぜなら忙しくて・・・というように、その年代の人たちの行動を考えて、その行動の中に、こうしたサービスを利用する時間帯など生活全体の中から考えるヒントが隠されていると思います。
違う言い方をすれば、電子自治体を利用したいというときは、どういうシチュエーションで、どういう形で利用したいか、日中ではなくてちょっと家事が落ち着いた時間にわざわざパソコンを立ち上げてやるのではなくて、スマホでチェックしたいというときに、そうした使い方で簡単にアクセスできてという画面なりサービス表示ができているのか、と考えるヒントにすべきだと思います。
また、10代の方は、電子自治体の利用が一番低く、ほぼ使っていません。ある意味当然で、彼らが電子自治体を使った手続をすることはほとんど考えにくいからです。もちろん未成年なので意思表示には保護者が代理で行うことが当然でありますし、そもそも自治体の手続を未成年が行う制度もないということです。
しかし、さきほどの年齢階層別のSNS利用で見てみると、他方でよく使っているサービスもある。こちらのグラフでは、オンラインゲームの利用はもっとも利用率が高くなっています。他には動画投稿・共有サイトの利用もそうです。そうした行動特性を持った年代がじきに、30代の電子自治体の利用率が一番高い年齢になったときに、どのようなサービスがいいのかを、今から考えることもできます。例えば、学校とのやりとりにインターネットを使っているところも増えてきています。そうしたところから、サービスを提供する行政側がどのような形で届けるのがいいのか、学校の問題ということではなくて、行政サービスを考える最前線だというように捉え直すこともできるのではないかと思います。
このように、自治体が勝手にユーザー像を作ってきているものを、こうしたデータを見て考え直すということも監督職の方は視野に入れていただければと思います。
前もできたし、今度もやる
行政のデジタル化は、さきほどのグラフでは年齢階層別に違いを見ていましたが、「誰一人置いてきぼりにしない」ことが言われています。デジタルというと、さきほどの高齢者も・・・のような議論になりがちですが、むしろそれを前提にして、そういう人たちも便利になる行政に変えていかないといけないということです。
同じようなことが10年前にあって、わが国ではそれを達成しています。それは、地デジです。テレビの入れ替えや、アンテナ設置などいろいろな人たちが関わって全国津々浦々でそれを達成した事実があります。
今、国で言われている行政のデジタル化、ここにはデジタル時代の行政の基盤としてマイナンバーカードを普及させようというところから始まりますけれども、今回の行政のデジタル化、これはすごく大変なことがあると申し上げましたが、この地デジのとき同様にやり遂げるということであります。
おわりに
最後にまとめです。今回のお話の前提は、行政のデジタル化と言ったときに、2040年の状況をバックキャスティングして、今から備えるということがあります。それをどう捉えているかで今から備えることも変わってきます。
その意味で、豊岡市さんが置かれている状況は厳しいものがあります。まず、私が一番驚いたのは、これは市の地方創生総合戦略の中で書かれている言葉ですが「城崎・竹野・日高が消滅する事態に匹敵する」人口減少と形容されています。その上で、地図で消滅する相当のエリアを墨塗りして、面積的なイメージを表現もしています。
そして、その要因として、20代の女性の転入者が少ないこと、さらに転入者は、周辺の今後より人口減少が厳しい自治体からの転入に依存している地勢であると分析されています。
そうしたときに人口をどう維持するかということも、ありますが、市役所組織にどのように若手職員を獲得していくかも同様に大きな問題であると言えます。
国がですね、前提では、今の半分の体制で業務を行えるようにすることを想定していますが、そこで推定されている市町村の体制の年齢階層別の割合で詳しく見ていく必要もあります。豊岡市さんの場合は、そのシミュレーションされている若手層の割合を実際に確保できるか、そういうことも現実として直視していかなくてはならない。
一方でデジタル時代になる。デジタル化したとき、仕事では今回ご紹介した「事務作業」は、なくなると言われています。そうしたら、職員は何をするのだろう、となりますが、総務省の予想では、職員は少なくなるところでは、都道府県が垂直補完して事務を代行する、あるいは、都道府県に集約した、一種のエリート主義になっていくという予想もあります。そうすべきということではなくて、そうなっていく予想です。
それがデジタル化の帰結として許容できるのか、一定の継続する組織を運営する姿としてそれは受け入れられるのか、発想の転換が迫られていると思います。
また、都道府県の垂直補完の他に、すでに自治体同士の連携もさまざまなものがあります。その一番大きなものは市町村合併というものが、かつてありました。豊岡市さんは、合併によって県内で一番広い自治体になるという選択をされました。そのときの過程を記憶している組織として、今後を見据えた取り組みも、そうした経験を踏まえる必要もあろうかと思います。
監督者の役割は「着眼大局・着手小局」
こうした将来を見たときに、監督者の役割を表現するのに「着眼大局・着手小局」がいいと思っています。
という際に、豊岡市さんは、市の基本構想・地方創生総合戦略において、着眼大局が示されていると思います。とりわけ、地方創生総合戦略でも、手段とKPIがソリッドに研ぎ澄まされていて、総花的で何をするのかよくわからないものではなくて、大局が示されているものだと思いました。
ではその上で、どうするか。
着眼・着手と、大局・小局のマトリックスが作れる訳ですが、着眼大局としての「基本構想・地方創生総合戦略」を踏まえて、できることから着実に行っていく「着手小局」がよさそうです。
理屈としては4つあるので、別のものを見てみるとそのことはよく分かると思います。大きなことばかりやることにしていても、大抵何も進みません。やっているつもりになっているだけということが往々にしてあります(着手大局)。
また、それがいつのまにか、着眼も矮小化されることもある(着眼小局・着手大局)。場合によっては、何をやっているのかさっぱりわからないようなこともあるでしょう(着眼小局・着手小局)。
若手にどんどん失敗してもらおう
着眼大局・着手小局で進めること、そのためには若手に、事務作業ばかりではなくて、小局に取り組んでもらう。最初はよくわからないことも多いと思いますが、それはアナログ時代と同様の実感を伴った成長が必要です。そのためには、若手に手を挙げてもらって、やってみる。そこから気づきを得てもらうしかないと思います。
そのためにも、監督者のみなさんも、みなさんができることから着手してほしいわけです。
ということで、さっそく小局に着手
じゃあ、ということで、この手のお話を聞いた感想を事務局から聞く、ということがよくありますが、アンケート今入力してみましょう。行政のデジタル化がテーマでしたので、それを少し感じてもらうような仕掛けにしてみました。
スクリーンにQRコードを出していますので、ご自身のスマホで読み取ってサイトにアクセスしてみてください。
すると、sli.doというサービスにアクセスされて、文字入力する画面が出てきます。そこに、私からのお話を聞いていただいた感想を、一言入力してみてください。
普通は、事務局でアンケートを集計してみなさんにもフィードバックが後日ある、ということが多いでしょう。
今回は、それがリアルタイムで見ることができます。こちらをご覧ください。
入力いただいたものが次々反映されていますよね。数が多い「小局の具体例をご教示いただけますと幸いです。」というのが大きく出たりしています。
また、右上の数字は回答者数です。デジタルデータで扱うので、こうしたことが簡単に見ることができる訳ですね。あ、「寒いです」とあるので、これは会場の温度でしょうか、こうした全体の場で手を上げて指摘するよりも、こうしてこちら側が気づきにくいけど大切なことも、ここに入力いただくと分かりますよね。
もう1つ重要なのは、さきほどみなさんが入力しているところを、画面越しですが見ていると、隣同士で「どこでどうやるの?」という形で教えあっていましたよね。結局はそういうことだと思います。同じやり方でみなさん入力しますよね、そうすると、すぐできる方もいれば、ちょっととまどう方もいらっしゃいました。でも、自然な形で教え合ったりすることもできる。それをきっかけに、その人が何を入力したのだとか話し合うこともあったかもしれません。
そして、このやり方を知ったみなさんは、別の仕事で使えると思いませんか?それを、口で説明するよりも、ちょっとやってもらうことで、実感としておわかりいただけたのではないでしょうか。そして、こうしたことが便利にできるサービスがすでに存在していることもお伝えしたつもりです。
さあ、これでそれぞれの職場に戻られて他の人に教えることもできますよね、そうした中から考えることもたくさんあると思います。そうした小局が市役所のあちこちで起こることを期待して、私からのお話はおしまいにしたいと思います。ご清聴・ご協力ありがとうございました。