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清拭技術の今昔

早速看護技術に関する研究の紹介をしていきたいと思います。参考文献もつけていますので、適宜そちらもご参照ください。


清拭技術の歴史

学生教育と臨床実践での違いが大きな看護技術の1つが清拭だと思います。
学生教育ではベイスンなどに湯を張って行う温湯・石鹼清拭を指導していますが、臨床現場では電子レンジなどを使って温めたタオルや、化繊タオルによる清拭(いわゆる熱布清拭)に変わってきているかと思います。
温湯清拭は気持ち良いが、熱傷のリスクやケアに必要な時間などの課題から化繊タオルを採用しているという病院も耳にします。それぞれのメリットデメリットがありますので、どちらが良いのかという論点はさておき、今行われている清拭に関しての研究をご紹介していきます(ちなみに日本では北海道大学が清拭の研究に力を入れているようですね)。

清拭研究の視点

清拭についての研究は様々な視点で行われています。評価指標の例として、どれだけきれいになったのかや、皮膚表面温度、皮膚の保湿機能、リラックス効果、等があります1)。
研究の対象となった技術としては、拭く際の強さに関するもの、温湯と石鹸、沐浴剤など用いた洗浄剤に関するもの、綿タオルと化繊タオルといった拭く際のタオルに関するものなどについて研究されているようです1, 2)。
究極的に言うと、清拭とは「タオルで拭いて清潔にする技術」であると考えますが、その技術についてこれだけ多くの視点でより良いものを生み出そうと研究が行われているのですね。

現状のベストプラクティスは?

それでは清拭のベストプラクティスはこれ!と書きたいところですが、中々そうはいきません(というか書ければ清拭という看護技術が完成したということになってしまいますしね)。
ただ、様々な先行研究を踏まえて、現状良いと思われる清拭についてまとめていければと思います。
まず拭く強さについてですが、これは弱く拭く方が皮膚刺激が小さいということでほぼ間違いないのではないかと思います3, 4)。3)の論文内では12-14mmHgの強さで研究が行われていました(1.6N/m^2程度の力なので、本当に軽く押す程度の力)。ただ、拭く強さと主観的な爽快感には相関があるようですので3)、拭かれるという機械的操作に関して、皮膚保護と爽快感はトレードオフの関係にあるのかもしれません。
次に洗浄剤ですが、熱布清拭と比較し、石鹸や重曹といった何かしらの洗浄剤を使用した方が汚染除去効果や快適感は高そうです5)。ただ、石鹸は皮脂除去量も多いため、皮膚乾燥に注意し、保湿剤の使用の検討も必要かと思います。
次にタオルの素材ですが、綿タオル、化繊タオルの間で、洗浄効果や皮膚機能への影響、爽快感といった指標についてはほぼ同等なようです6)。化繊タオルの使用によってケア時間の短縮が可能となり、看護師、患者双方から好まれたという結果もあるようです6)。少し気になるのが、タオルの素材については海外での研究が多かったので、洗浄効果や皮膚機能への影響については人種差は小さいかと思いますが、爽快感といった心理的指標については入浴文化との関連も大きいかと思います。ですので、入浴文化のある日本ではまた違った結果が得られるのではないでしょうか。実際、日本人対象の研究では、熱布清拭よりも石鹼清拭が好まれたという結果があります7)。ただ、この研究では熱布と石鹼清拭の比較のため、「湯を多く使う」という因子も石鹼清拭には追加されることや、使用している心理評価指標がPOMSであるため、ケア前後の心理指標を正確に測れるのか?という限界もあります。年代・性別によって、清拭を受けることの羞恥心等の大きさにも違いがあるかと思うので、この部分については入浴習慣などの社会背景も含めてどの方法を選択するべきなのかを考えていく必要がありそうです。

まとめ

ここまでいくつかの研究を見ながら、清拭という看護技術について考えてきました。近年は積極的にシャワー浴を実施していく状況ですので、清拭を行う機会はICU等に限られてきています。限られた機会だからこそおざなりにはせず、清潔・皮膚保護・心理的快感といったことを踏まえて、目の前の人に合った清拭方法を実施していきたいなと感じました。
著者自身は一般病棟・SCU・訪問看護の経験があるのですが、ゆっくり時間をかけて石鹼清拭をしていると、会話も弾んで相手との関係形成に繋がった記憶があります。短い時間で関係形成するコミュニケーション技術も重要ですが、ケアを通しての関係形成という面で、看護技術を磨いていくことの意義も大きいのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

1) 宍戸 穂, 他. (2016).「清拭」の統合的文献レビュー. 日本看護技術学会誌 15 (2), 172-182.
2) Konya, I., et al. (2021). Effectiveness of bed bath methods for skin integrity, skin cleanliness and comfort enhancement in adults: A systematic review. Nursing open, 8(5), 2284–2300.
3) Konya, I., et al. (2020). Effects of differences in wiping pressure applied by nurses during daily bed baths on skin barrier function, cleanliness, and subjective evaluations. Japan journal of nursing science : JJNS, 17(3), e12316.
4) Kikuchi, K., et al. (2020). Vulnerability of the skin barrier to mechanical rubbing. International journal of pharmaceutics, 587, 119708.
5) 小島 悦子, 他. (2018).  清拭方法の違いによる皮膚表面pH,汚れの除去,主観への影響. 日本看護技術学会誌, 17(0), 43-50.
6) Groven, F. M., et al. (2017). How does washing without water perform compared to the traditional bed bath: a systematic review. BMC geriatrics, 17(1), 31.
7) 小池 祥太郎. (2014).  石鹸清拭と熱布清拭による気分とストレスの変化. 日本看護技術学会誌, 13 (2), 126-131.



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