飽きっぽく興味が多い自分が出会った「マルチ・ポテンシャライト」という可能性
マルチ・ポテンシャライトとの出会い
マルチ・ポテンシャライトという言葉を最近知った。マルチ(multi: 複数の)+ポテンシャル(potential: 潜在能力)+アイト(-ite:人)から成っている。
マルチ・ポテンシャライトについては以下の動画を見れば概要はわかるだろう。
端的に言えば「一つのことに専心せずに、次々興味のあることに移っていく特性を持つ人」のことだ。
自分は上記のTEDトークをしたエミリーの『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』の本を読んでみて驚いた。それはまさに自分のことだったからだ。
一時的に何かにのめり込んで急激に知識を吸収し経験を重ねていく。一段落すると次に別の何かを見つけてそちらに向い同じようにのめり込むことを繰り返したり、同時並行で興味あるものが増えていくという、自分の特性がそのまま書かれていた。
一つのことに集中しないで物事を渡り歩く
元々、教育や心理学の世界で「Multipotentiality」という言葉があり、日本語だと「多重潜在力」「多能性」と言うことができる。
世界で最も有名なマルチ・ポテンシャライトと言えば、レオナルド・ダ・ビンチだろう。(正確には、ダヴィンチはポリマス(博学者)と呼ばれることが多いようだ)
しかしダヴィンチほど卓越した複数分野への才能を開花させている人は別として、一般的に社会においてマルチ・ポテンシャライトへの印象はあまりよくないと感じる。
ビジネスの世界においては、スペシャリストに対するジェネラリスト、I字型人材に対するT字型人材というようにポジティブに捉える言葉もある。
しかし特にその過程において「次々に興味のあることに移っていく」「同時に多くに興味を持つ」という振舞だけ見ると次のようなイメージを持つ人が多いのではないだろうか。
・フラフラしている
・一つのことに専念できない
・腰を据えてできない
・落ち着かない
極めつけとして、日本にはマルチポテンシャライトを表する素晴しいネガティブイメージを持つ言葉がある。それは器用貧乏だ。
そんな言葉が存在するように、社会や文化は暗黙的に「人は何かに専念してやりとげ専門家になるべき」というメンタルモデルを持っていると思う。そして実際に目につくのはそういった人達だ。おそらく親も先生も友人も、そして自分自身もそういったメンタルモデルが染み付いている。
近年『やり抜く力 GRIT』という書籍も話題になりその傾向はますます強くなっていると感じる。確かに成功している人たちは何かに100%取り組みやり抜くことで実現しているのは確かだ。
しかし、もしも、GRITのような「やり抜く力」やマルチ・ポテンシャライトのような次々に飛び移るのが、それぞれの個性だとしたら?
その個性を押さえ込むのではなくうまく生かすことこそがその人らしさに繋がるはずだ。
エミリーは、こういった苦悩を持つ人達のためにマルチ・ポテンシャライトという言葉を生み出し広める行動に出た。
「何か一つに絞りこめない人なのではなく、様々な可能性を持った人」なのだとセルフイメージを逆転させてその人らしさを120%生かすために。
最大の敵は自己肯定感の喪失
一番不幸なのは、周囲からネガティブイメージを持たれることではなく本人がネガティブなセルフイメージを持ってしまうことだろう。
・「なんで一つのことに取り組み続けることができないのだろう?」
・「なんで一つに選べないのだろう?」
・「なんで飽きてしまうのだろう?」
自分の内から突き動かされる衝動に振り回されながらも、ふと立ち止った時にこれまでの自分の振舞をふりかえり、失望し、自信を喪失し、自己肯定感を失ってしまう。周囲の目ではなく自分自身のネガティブイメージに潰されてしまうのが最も不幸だ。
エミリーも著書の中でこう書いている。
また、下記のブログにマルチ・ポテンシャライトが陥りやすい落とし穴が書かれていた。
自分もエミリーの苦悩、そして上記の落とし穴が痛いほどよくわかる。
「周囲の友人、知人が何かに専心して成果を出していくのに比べて、それができない自分は何なのだろう?」
「抑えられない知的好奇心をどう扱えばよいのか?」
こんな悩みをこの数年ずっと抱え続けながら過ごしてきた。
マルチ・ポテンシャライトのパターン
エミリーの書籍には、いくつかのマルチ・ポテンシャライトにおけるパターンが紹介されているので簡単に紹介する。詳しくは書籍を読んで欲しい。
(太い黒線が収入源、色が興味のある分野と見てほしい。)
グループハグは一つの仕事やビジネスの中で多様な分野のスキルを生かすというパターンだ。例えばスタートアップなどは、一人が複数の役割(プログラマー、デザイナー、マーケッター)の役割を負うようになるのでグループハグの部類に入るだろう。
スラッシュは複数のパートタイムの仕事を掛け持ちするというパターンだ。収入源は一つではなくあちこちの仕事を飛び回る。同時並行に様々なプロジェクトを遂行させるのが得意な人はスラッシュかもしれない。
アインシュタインはほどよい収入源の仕事をしながら、その他の取り組むべきプロジェクトを持つパターンだ。この名前はかのアインシュタインが特許庁に就職して収入を得つつ研究に取り組んだという史実に由来するそうだ。
フェニックスは同時に取り組む仕事は一つだが、数年毎に興味分野が変っていくパターンだ。異分野に転職をしていくのはこのパターンだろう。
あくまでもこれらのパターンは大まかな傾向を示しているだけなので、どれか一つにあてはまるということではないし組合せのパターンもある。
自分のこれまでを振り返ってみると、ソフトウェア開発という分野において様々な知識や経験を生かせるグループハグで過ごしてきたように思う、また細かいレベルではフェニックス的に数年毎に役割や内容も変ってきたので、あまり苦悩が顕在化することはなかった。
今は愛媛に引っ越しフリーランスとなりより自由度が高まった一方、収入を自分で確保しないといけなくなり、更に他分野の興味がますます増えてきた。生計を立てていくための仕事と、広がった興味をどう重ねるか、自分のキャリアや人生においてどう統合していけばよいのか、これまでの歩みをふりかえっての上記のような苦悩にぶつかってきた。
IKIGAIとマルチ・ポテンシャライト
実はマルチ・ポテンシャライトを教えてくれたのは、マルチ・ポテンシャライトのコミュニティを昨年立ち上げた宮城さんで、マルチ・ポテンシャライトのイベントで実施するIKIGAIマップのワークについて問合せしてくれたのがきっかけだった。
IKIGAIおよびIKIGAIマップは今や世界中に広がっており、日本出自の概念として知られるようになってきた。
宮城さんも昨年(2019年)にポートランドで行われたマルチ・ポテンシャライトのイベントでikigaiのワークショップを受けてきたそうだ。
自分は2015年にikigaiの図に出会って出自を調べたり、自分でも使いつつ、2年前からIKIGAIマップのワークショップを実施したり記事を書いたりしてきた。
自分でIKIGAIマップを作っていて気づいていたのだが、マルチ・ポテンシャライトがIKIGAIマップを書きはじめると、様々な要素がマップ上に浮かび上がってくる。そして時間が経過するとマップの中身もどんどん変わっていく。
つまり、マルチポテンシャライトの人は、興味がどんどん変っていく傾向が強いので、そうでない人と比べてIKIGAIマップがダイナミックに更新されていく。つまり変化の激しいマルチポテンシャライトにとってはIKIGAIマップで「まさに今」の状態を知ることは(そうでない人と比べより)価値があるのだ。
前述の宮城さんはマルチ・ポテンシャライトのコミュニティ運営やイベント開催もしているので詳しく知りたい方は連絡してほしい。
追加(5/21)
反響を受けて、別の観点からマルチ・ポテンシャライトの記事を書きました。こちらも御読みください。