ある矢文の調査記録③
襖を開ける…
和室特有の香りと、あたたかな茶の香りが混じり、ややチルな気分になる。
しかしこれは仕事であるからと思い直す。
あら、いらしましたわね。
ご機嫌よう。
と迎えるのは、黒髪縦ロールの女学生。
3年B組 茶堂院 茶和子
…とは、茶道部部長である。
ロイヤルチャームという人物を別側面から知る一人。
オーッホッホッホ!という高笑いは、どちらかというと洋風ではないのか?
和風な環境とのミスマッチ感よ。
粗茶ですが。
一口頂くと、流石は茶道部。美味!
ロイヤルチャームさんのことを聞きたいのでしたね。
素性…ですか。
彼女も茶を一口。
一息をつくと、口を開いた。
よくわかりませんわ。
作法はよく弁えていらっしゃるようで。おとなしめな方ですわ。
ま、私ほどではありませんわ!
と手を口に当てて笑う。
語学が堪能と耳にしたことがありますわ。
英語・仏語・露語・・・あとは、何でしたかしら。もういくつかあるはずですわ。
複数の国の言葉を使えるのは、ご実家がよい教育をされている証ですわ。
ご存じでなくて?
現代でも、名家というものは、その大小にかかわらず、子女に外国語の手解きを行うものですわ。
もちろん教養としてですことよ。
外との繋がりは、多いでしょうから。
きっとロイヤルチャームさんのご実家も…今はそこまで大きくないようですが、元々はそういう流れを汲む御家なのかもしれませんわね。
ああ、でも、ひとつ、噂を聞いたことがありますわ。
そう言って、茶を口にした。
—彼女はもともと、オオサカに住んでいたらしいですわ。
光と影のある街ですの。
その中でも、貧民街…金銭的には恵まれていない土地より来たと聞いたことがありますわ。
当時はどんなヤツ…ごほん。どのような方がいらっしゃるのか、気になっておりましたが、どうも普通…というか、イメージとは全く違いましたわ。
拍子抜け…というものですわね。
部活動においては、あまり言葉を交わしたことはありませんわ。
元々おとなしい子たちが集まる部ですから…皆様そのような具合ですわ。
もちろん、浮いてなんていませんわ。
皆様、お互いに、お互いを大切な友として認めあう仲ですわ。
もちろん、ロイヤルチャームさんも。
そうして彼女は優しく微笑んだ。
窓から差し込むオレンジの光が少しまぶしい。
面白味のない話しかできず、申し訳ございませんでしたわ。
一助になればよいのですが…。
そうそう、あなた、ロイヤルチャームさんと仲良くしてあげてくださいましね。
最近、悪い虫が付いているという話をよく聞きますわ。
なんでも、手あたり次第に女性に声をかける、女性…?のような、男性の方らしいですわ。
ああ、貴方もご存じのようですね。
わたくしもその方に声を掛けられたことがありますが…あんな軟派な方は眼中にありませんわ。わたくしはもっと、ガタイの良い…おほん。たくましい方が…おほん。いったい何の話をしているのでしょうね…失礼しました。
そう、その不審者の話でしたわね。
彼女自身、うまくいなしているようですが…危ないですわ。
いつ凶行に走るか…。
今度わたくしの伝手で、彼女に防犯具を差し上げるつもりですの。
カタログがありますので、選んでもらおうかと。
カタログには、銃器や釘バット、手榴弾も掲載されていた。トカレフ、デリンジャー、カラシニコフ、ステア―AUG…聞きなれない名前が並ぶ。
さて、もうお時間のようですわね。
ご機嫌よう、矢文さん。またいらしてくださいましね。
和室をあとにした。
カタログにあった品々は、おそらく、おもちゃの類だろう。そう思い込むことにした。