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バーチャルYouTuber研究6: バーチャルYouTuber調査③アバターと複合現実

 調査結果の3回目はアバターについてです。中の人と使うアバターの外見的性別の関係は?。アバターを使う理由は?。そして仮想世界の中でアバターを使うバーチャルYouTuberの生きる世界について考察します。

1.アバターと中の人

回答者が創作して動かすアバターの外見的特長は次のようなものでした。

             図1アバターの外見的特長

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 女性と男性がそれぞれ4割強で、動物や架空の創造物の使用は少ないという結果でした。

 続いて回答者の性別と年代です。男性90名(63.8%)、女性51名(36.2%)であり、それぞれ年代の全体構成比でみると、男性で20代17.0%、30代46.8%、女性は20代18.4%、30代17.7%という結果でした。調査対象は20代と30代に絞っています) 今回の回答者の構成では30代男性が全体の5割近くを占めていました。

        図2 回答者の性別と年代

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  それでは、これら2つの結果(外見と性別)を組み合わせてみましょう。中の人の性別とアバターの外見(特に女性か男性)の関係です。中の人(回答者)が女性の場合、その82%がアバターに女性を選んでいます。男性回答者は63%が男性のアバター、28%が女性アバターを使っています。

 女性の中の人は82%が女性アバター

 男性の中の人は男性アバター63%、女性アバター28%

 バ美肉おじさん(バーチャル美少女受肉おじさん)と呼ばれる男性(中の人)が女性アバターを使うバーチャルYouTuberが一時話題になりましたが、今回の回答者構成でみれば、男性(中の人)が女性アバターを使う割合は3割弱でした。一方、女性(中の人)が男性アバターを使う例は少なく、8割が女性アバター、残りの少数でも「動物」アバターが目立ちました。

2.アバターを使う理由

 次に、回答者がYouTuberではなく、中の人として正体を伏せてアバター(化身となるキャラクター)を使用する理由は何でしょうか。4つの質問で聴きました。

       図3 アバターを使う理由(平均点)

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  回答は5点スケール(5:あてはまる~1:あてはまらない)で聴いており、いずれの回答平均点も3.1~3.2点とそれほど高くありません。4つとも得点のばらつきを示す標準偏差も見ましたが、大きな違いと差は見られませんでした。これは「アバターをどうしても使う」という動機がそもそも強くないのかもしれません。その前提で結果を述べます。

 まず、「リスクの少ないアバターで普段できない活動をする」が3.2点。

 この質問はバーチャルYouTuberを創作するそもそもの動機の1つと考えていました。YouTuberでは個人の素性が露になるので活動に制約があったり、またSNSで炎上するリスクがある。そうしたリスクを気にすることなく自由に活動できるのがバーチャルYouTuberの大きな魅力と思いますが、回答の平均はそれほど高くありません。企業では最近「社員ユーチューバー」としてアバターを使ったYouTube動画を開設してプロモーションを展開する例が増えていますが、個人でみれば、そうした動機は強くないのもしれません。

 次に「自分とは離れたキャラクターを動かしてみたい」が3.2点。

   「アバター(化身)を通じて自由な活動がしたい」が3.1点。

   「自己のアイデンティティをキャラクターの姿を借りて社会に表現 したい」が3.2点。

 これらの回答結果から、中の人はアバターを自己のアイデンティティ表現として、また自己を離れた自由な存在、として見る傾向は必ずしも強くないと考えられます。筆者はこれらの質問を考えるにあたり、バーチャルYouTuberのマネジメント会社に取材した内容をベースにしています。2019年に当時、「キズナアイ」のマネジメントを行なっていた支援企業、Activ8社執行役員の方に取材を行ないました。そのときはちょうど「分裂騒動」がSNSで議論されており、大変な時期での取材と学会協力でした。その方から、バーチャルYouTuber(バーチャルタレント)がYouTuberと大きく異なる点として、・匿名性を担保できる、・外見上の制約を超えられる、・見せたい自分を見せられる、を聞きました。回答は、もちろんそうした目的が低いというわけではないのですが、強い目的ともいえない、という結果であり、バーチャルYouTuberを続ける人にとって、アバターの役割はもっと別にあるのかもしれません。この点は今後の調査研究の課題です。

3.仮想世界の連続性と複合現実

 最後に、仮想世界の連続性の中で、バーチャルYouTuberが生きる世界はどのように位置づけることができるのか考察してみます。近年著しいITの進歩を受けて現実世界にも多様な仮想世界が入ってきています。この動きをわかりやすく整理しているのが図4の仮想世界の連続性です。この図は2020年にノーベル経済学賞を受賞したポール・ミルグロム教授(スタンフォード大学)の論文『複合現実のビジュアル表示の分類』からの引用です。ミルグロム教授といえば、オークション理論や人的資源の経済モデルの研究で知られますが、何と1994年に20年以上未来の現在を予見するような世界を提示していました!

          図4 仮想世界の連続性

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 この図では、現実の環境から仮想の環境までを連続する仮想世界とみなし、拡張現実(Augment reality)、拡張仮想(Augment virtuality)を位置づけ、これらを含む複合現実(Mixed reality)を示しています。

・拡張現実(AR)

 現実の世界をベースに仮想の世界をまさに「拡張、付加」した世界です。普段歩いている街で持っているスマホ画面にモンスターが現れて捕獲したりバトルをしたりするゲーム、「ポケモンGO」「ドラクエウォーク」が普及しています。スマホアプリ「スノーSNOW」もそうです。「初音ミク」コミュニティを研究している当時、ドミノピザを注文して、パッケージにスマホをかざしてミクが登場して踊る様子を楽しんだ経験があります。

・拡張仮想(AV)、仮想現実(VR)

 これは仮想現実(Virtual reality)と現在呼ばれる環境と同じです。専用のゴーグルを通して、映像で制作された世界や360度カメラで撮影された映像の中に自分自身が入り込み、歩き回るほか様々な行動を実際の動きと同じような体感ができる環境です。すでにいろいろなゲームやアトラクションで商業化されているほか、ビジネスでは不動産の内見にも積極的に活用されているようです。私もプレイステーションVRを使ってゲームソフトで遊んだ経験があります。

・複合現実(MR)

 そして今後、最も進歩が期待されるのが複合現実(Mixed reality)です。拡張現実と拡張仮想を組み合わせて、上図でいえば、現実環境と仮想環境を直接結びつけようとする状況です。MRの代表的な事例に、マイクロソフト社が開発した「Microsoft HoloLens」があります。3次元ディスプレイができるホログラフィックコンピュータと専用の(ヘッドマウントディスプレイ:HMD)を組み合わせて、現実の空間のなかに現れたホログラム(光屈折の化学反応を利用した3次元映像)の3D映像を見ながら実際の手足や体の動きで操作できる技術をいいます。同社の次の動画で具体的にイメージできます。

 このMR は、現実の物体とデジタルの世界を融合し、人間、コンピューター、環境間の相互作用のリンクを高度に結びつけるものであり、グラフィカル処理、ディスプレイ 技術、さらに入力システムの進歩が基盤となって実現します。まさにARとVR(AV)の境界を越えようとする仕組みですが、私たちにはSF映画ですでに馴染みがあるものばかりです。バックトウザフューチャー2で家のリビングに登場するテレビ装置や、スタートレックシリーズに登場するホログラムデッキなどです。そして現実の場面では建設や製品設計、さらに外科医療の現場での活用が実現しつつあります。

4.バーチャルYouTuberが生きる世界

 複合現実の説明が長くなりました。最後に、バーチャルYouTuberはこうした世界でどのように生きていくのでしょうか。仮想と現実の連続体に当てはめて考えてみます。まず、バーチャルYouTuberの独壇場といえるVR,AV(右側)です。YouTuberではないバーチャルYouTuber独自の土俵であり、ライブ配信を通じたスーパーチャット(投げ銭)は大きなマネタイズ手段でしょう。次の例は「輝夜月」さんのVRライブ映像の引用ですが、バーチャルYouTuberとその支援会社はVRのビジネスにますます力を入れています。

 これに対して、YouTuberが生きる世界は左端の「現実環境」です。思えば、現実環境で生きるYouTuberの人がアバターを纏って登場したのがバーチャルYouTuberでした。ではバーチャルYouTuberは今後MR(複合現実)の世界でも生きていけるのでしょうか。ユーザーが自分の好きな場所や場面でお気に入りのバーチャルYouTuberを呼び出し、歌やダンスをリクエストしたり、相談や雑談を対面コミュニケーションで行う。そんな状況が来るかもしれません。ただし、MRのテクノロジーによって生身のタレントやミュージシャン、そしてYouTuberたちを空間を超えて世界中のあらゆる場所に送ることが可能になれば、これまでバーチャルYouTuberたちが依って立つVRの世界にも参入できることになり、バーチャルYouTuber固有の市場が安泰とはいえなくなります。そもそも、中の人はアバターを介して自己表現するのが出発点であり、中の人または魂を抜きにバーチャルYouTuberは存在しえません。その意味で、つねに現実環境との接点をもつという宿命があります。

 考察が込み入ってきたので、この問題は別の機会に議論したいと思います。次回はバーチャルYouTuberの活動理由を取り上げます。

(参考文献)

Milgram, P., & Kishino, E. A. (1994). Taxonomy of Mixed Reality Visual Displays, IEICE Transactions on Information and Systems, Vol.E-77D, No.12, December,pp. 1321-1329.











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