バーチャルYouTuber研究8: バーチャルYouTuber調査④ 目的や動機づけ
今回は、バーチャルYouTuberが活動する目的や心理的な動機に迫ります。バーチャルYouTuberとして活動する人は、どのような目的や動機を持っているのか、調査としてぜひ知りたい回答でした。
1.活動の目的(承認・称賛、社会性)
バーチャルYouTuberが活動を始める際の動機や目的にはさまざまであり、生活や収入のためという経済的理由もあると思いますが、今回は「承認・称賛、社会性」、つまり、知人や企業、社会から認められたいか。また必要な情報や知識、スキルを増やしたいか。さらにコミュニティ内で他人から助言を受けたり、したりしたいか、について、5点スケール(5:あてはまる~1:あてはまらない)で回答した結果(平均値)が図1です。
図1 活動の目的は何か
(1)承認・称賛欲求: 相対的に、「一般視聴者からの承認や称賛を得たい」が高く、「友人知人から承認や称賛を得たい」は低く、対照的な結果でした。バーチャルYouTuberかどうかに関わらず、YouTuberを含むコンテンツを発信する目的や動機には承認・称賛欲求があると考えられますが、バーチャルYouTuberは知り合いにではなく、一般視聴者の反応をより意識しているようです。アバターで正体を隠すわけですから、これは当然かもしれません。自分自身を知っている知人友人には知られず、匿名のアバターを通じて視聴者全体から承認を得たいという動機です。また企業からの承認もあまり意識していないようです。これはビジネス動機、経済動機に関連しますが、特に強くありません。そして「友人や仲間など交流を増やしたい」は3.0を超えて高くなっています。匿名アバターを使って、同じようなバーチャルYouTuberと知り合い、交流を増やす動機は強いようです。
(2)知識・情報、スキルの獲得: 次は、知識や情報、スキルの獲得です。「必要な知識やスキルを増やしたい」「必要な活動の情報を増やしたい」のいずれも3.0を超えて高い回答です。バーチャルYouTuberの活動はコンテンツの創作というクリエイティブな取り組みであることから、これに必要な知識や情報、スキルを得たいという動機は強いのでしょう。
(3)コミュニティ内での相互の協力: インターネットの社会では不特定多数のユーザーが集まり、交流する特徴がありますが、コミュニティ内で会ったことがない不特定の他者に協力する。他者の利益に協力する行動と自分にも見返りがあると期待する。こうした相手を特定しない協力関係は社会学で「互酬性規範(norm of reciprocity)」と呼ばれます。以前に筆者はボカロ・クリエイターの調査でも同様の質問をしたことがあり、そこではこの規範が強く表れていました。ボカロ・クリエイターは、楽曲を制作してコミュニティに投稿する過程で不特定の他者との相互協力関係を意識していました。 (これについては以下の著作で考察しました)
では、バーチャルYouTuberにはそうした互酬性規範が見られるかというと、「他人からの助言を得たい」は3.0点、「他人へのスキル向上に協力したい」は2.9点と相対的に高いとはいえません。つまり、ネット・コミュニティにおける互酬性規範はそれほど高くないという結果です。詳しい考察は後に回しますが、バーチャルYouTuberはボカロ・クリエイターと比べてコミュニティ内の協力と依存関係が低いといえそうです。これはプラットフォームの違いも影響するかもしれません。YouTubeにはクリエイター間の相互の協働(コラボレーション)を促す機能はなく、もっぱら完成したコンテンツを視聴するだけのプラットフォームであり、クリエイター間のコラボ機能があるニコニコ動画とは大きく異なるからです。
2.内発的な動機
次は作り手の内発的動機です。古典的な動機づけ概念には2種類あり、外発的動機づけ(extrinsic motivation:外部から報酬を得るために行動する)と、内発的動機づけ(intrnsic motivation: 行動そのものから得られる喜びや満足から行動する)です。この調査では内発的動機づけを測定する3つの質問で聴きました(図2)。
図2 内発的動機
相対的に高い回答は、「動画コンテンツを創ることが好きである」で3.15点。低いのは「動画コンテンツを創ることは私にとって大切である」でした。バーチャルYouTuberのクリエイターにとって、動画コンテンツを創るのは好きだが、自分自身にとってそれほど大切とはいえない。この回答結果は何を示唆しているのでしょうか。先の投稿で活動は「趣味の範囲であり収入はない」という回答が53.2%でした(バーチャルYouTuber研究4より)。趣味でコンテンツを創るのが好きだから、というのが活動の大きな内発的動機づけであり、あくまで趣味であって仕事ではないので自分にとって大切か、という自己のアイデンティティに関わる意識や動機はそれほど強くないということでしょうか。多くの回答者が活動期間1年以内であるというのも考慮すべきかと思います。活動を継続する上で重要になる動機づけはこれから芽生えていくのかもしれません。
以上、活動を行なうクリエイターがどんな目的や動機を持っているか、について調査結果を紹介しました。統計的な話ですが、回答の平均点3点といっても、もちろん個々のサンプルには5点や1点を付けた人もいます。これらを一律に単純平均した結果を紹介したわけですが、その分布は性別や年代、あるいは活動の特性などで層別(グループ別)に分けると、より顕著な差が見られることがあります。これらは後で追加的な考察として改めて深堀りする予定です。
次回は活動成果として得たものを紹介します。
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