
鉄砲玉と呼ばれて
火を消したらどんどん固まっていくジンギスカンの脂身みたいに、凄い勢いで固められていくおれの足元の話をします。昨夜は首脳会議に参加しました。会議では1分に1回くらい話のオチが来る台本だったので、全員で間髪入れずに爆笑するという重要なお仕事でした。その後、台東区を再現したという会員制の会議室で珍しい魚をつつきながら、ウチのボスと相手のボスは満面の笑みを浮かべつつ、にこやかにおれの方を向いて宣言しました。「うん、今回お前しか出せないけどがんばれな」と。取り巻きも腹心もSPも運転手も、何なら板長も女将もチーママも、みんな一点の曇りも無い笑顔でおれを単品で送り出すのです。熱燗が捗りました。そういえば昨年秋に繰り返した外交の結果、我らはそれなりの最強アベンジャーズ布陣で挑んだにも関わらず、ユニオンの防御力は伊達ではなかった。取っ組み合いの喧嘩は無かったものの、密室会談でのにこやかスマイルと握力比べであっさり勝負が決まり、ボス達は面子を潰されてしまった。様子がおかしくなったのはそれからだ。「あっそうだ、日本国内がこんなに忙しいなあ!」と急に思いついたかのような独り言を言い、彼らは目先のプロジェクトに没頭し始めました。おれが抱えている数カ国の報告をするも心そこに在らず、何だか素っ気ない。そして一月の陣にはエース級の戦士たちはベンチ入りさせて温存しつつ、途中参加のおっさん一人を差し出す事で負担を最小限に抑えられるし、それはなんだかとても収まりが良かったのだろう。そんな経営判断もあり、おれは今週も荷造りをしなくてはならない。上手く行って当たり前、下手こくと袋叩き、おれ以外はリモートオーディエンス、現地のエージェントからは何しに来るの?という無理ゲー祭りだ。日本から見た海外ビジネスなんてそんなもの。金ばかり掛かってハイリスクハイリターンだから元手は抑えたい。だが上手く行ったら外貨は欲しいし名誉は横取りしたい。そういう糞みたいな輩が程良い距離を保っておれたちを監視しているが手は汚さない。上等だ。こんなに素敵なグローバル業務、良かったら君タチもチャレンジしてみないか。海外行きたきゃおれと一緒に行こうぜ。英語も話したいだけ話していいよ。仕事もやればいいじゃん。一番の敵はブレっブレな身内なのだよ。わかるかね。