ブックレビュー「流転の海 第一部」「流転の海 第二部 地の星」
過去のブックレビューを見て頂くとお判りのように、最近私はあまり小説は読まない。
子どもの頃はそうでもなかった。平井和正のウルフガイシリーズ、大藪春彦、レイモンド・チャンドラー、ロバート・B・パーカーなどのハードボイルド系から初期の村上春樹、松村雄策などの小説は読んでいた。
それが結婚して子供が生まれ、米国在住中に自動車通勤になると、すっかり読書時間が減って、日本へ帰国してからもビジネス関連書を優先して、ほとんどフィクションは読まなかった。
そんな私が、今回はある方から薦められて宮本輝の「流転の海」シリーズを読んでみることにした。
本書は神戸に生まれた宮本輝による自伝的長編小説で全9部、まだその内の最初の2部を読み終えたところだ。全く記憶に無いが、1990年に恐らくこの2部まで辺りの内容について森繁久彌主演で映画化されたこともあるらしい。
長編小説となると「坂の上の雲」ぐらいしか読んだ記憶が無く途中で投げ出しやしないかと自分自身を心配したが、2部までを読んだ限り退屈することは無さそうだ。
本シリーズの主役は宮本の父親がモデルとなっていると言われる事業家の松坂熊吾。50歳にして生まれた長男と恵まれない幼少時代を持つ美貌の妻と一緒に、戦後の動乱の中を第一部では大阪、第二部では出生地である愛媛県南宇和で生き抜いていく様子が書かれた大河小説だ。
第一部では時代性があるとは言え、男性社会を生き抜く主人公のマッチョな姿が古臭く、魅力が薄いと感じたが、第二部で郷里に引きこもる中、田舎の不条理・非合理な価値観との対峙、周辺で起こる数々の死に直面しての熊吾独自の解釈、そして熊吾が各登場人物の性格や特徴を精緻に表現していく様子が次第に面白く感じて来た。
特に登場人物をその人の出自や生き様、人としての器の大きさ、そして品格という軸でとらえていくところが本書の特徴の一つだろう。品格はいまやビジネス社会では忘れられがちな価値観ではあるが、私自身が人を見る際には無意識に軸としているように思う。
人間の才能(”Talent”)は生まれつきのものでは無く、その後の練習によって決まる部分が大きい、という本を最近読んだし、それには全く違和感が無い。昨今問題となっている広がりつつある貧富の格差は、何とか教育機会を手助けすることによって解消していくことを期待している。
しかし、それはあくまでも才能に関することであり、品格のことでは無い。もちろん表面的な振る舞い(”Behaviour”)は学習できるものが多いが、そういった学習によるものも本当の危機や困難に直面した際には芯に隠されたものが露呈するものなのだ、と松坂を通じて宮本は何度も本書で繰り返す。
人材開発の仕事に携わってきて、よく育成できるもの(”Developable”)と育成が難しいもの(”Less Developable”)の差をクライアントにも言っているが、まさに才能や行動は育成できるが、品格は育成するのが難しいものだと宮本が語っているように思う。
これが現代社会でも不変の摂理なのかどうか、私自身その答えはわからない。しかし、そういうことを考えながらこの流転の海を読んでみると、宮本の思う壺なのかもしれないが、ますます続きを読んでみたいと思うようになった。
さあ、本書を私に推薦してくださった方は一体何を思って私に推薦したのだろうか。同じような部分に興味をお持ちなのだろうか。あるいはまったく違う視点で本シリーズを読まれたのであろうか。
次回お話しする機会に是非その真意を聞いてみたい。たのしみにしています。
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