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ブックレビュー「シナリオ・プラニング 未来を描き、創造する」

企業が予算作成のプラニングをする際には、だいたい今の状況の延長線上を前提にしていることが多い。予算の時間軸はせいぜい1-3年だろうし、このため「今日と明日はだいたい同じ」という前提になってしまう。

しかし色々な業界で、過去の延長線上でしか戦略を準備して来なかったがために消滅してしまった企業がある。ポラロイド、サン・マイクロシステムズ、ボーダーズ、ナップスター…

私の好きな格言に”Hope for the Best, Expect for the Worst”(最善を望み、最悪に備えよ)というものがあるが、ビジネス社会では最悪の事態にも備える姿勢が無いと生き残れない。シナリオプラニングはまさにこの両極点のシナリオに備えるためのものといえる。

シナリオプラニングの具体的な手法は次の通りだ。最低限10年以上の時間軸で未来課題を設定し、インタビューなどの手法で情報を収集、未来を左右する「分かれ道」になるような排他的な要因を二つ選び、二つの軸を交錯させて、四つのシナリオを描く。できればそれぞれのシナリオに名前をつける。次にそれぞれのシナリオを創造力で肉付けし、ストーリーを描く。シナリオを検証し、シナリオの意味をくみとり、取り得る対策を決める。各シナリオが実現しそうな目印を探す。

間違ってはいけないのは、シナリオ・プラニングは決して未来を予知するためのものでは無く、現実に起きそうなさまざまな未来を描き、探求するものであるということ。

複数のシナリオを考えることでリーダーにとって賢い目安となるものだ。リーダーシップの本質が、現状維持では無く、絶えず未来に挑み続けることだとすると、シナリオプラニングはリーダーにとって欠かせないツールだと言える。

シナリオ・プラニングで特に有名なのはエネルギー大手のロイヤル・ダッチ・シェル社の作った未来シナリオで、シェルは「石油危機シナリオ」を作成、このシナリオに沿って事前に備えていたため、1970年代の石油危機に対処できたと言われている。シェルはこのシナリオを都度更新しており最新版は昨年3月、ロシアのウクライナ侵攻後のものだ。

本書は2013年11月に第一版が発行されているので、既に10年以上が経過している。このためいくつか事例として挙げられているシナリオによってはその後想定していない事象が起きていることもある。

このためシナリオ・プラニングは一旦準備したら終わりというものでは無く、プラニングした前提を振り返りながら、都度見直していく必要がある。シェルが数年毎にエネルギー・シナリオを見直しているのはそのためだ。

私はシナリオプラニングの手法を正式に学んだのは本書が初めてではあるが、会社勤めの頃に無意識にこの手法を身に付けていたように思う。何等かの課題に対してソリューションを考える際には、三つの選択肢を準備するにしていたが、その際には両極端な選択肢を準備し、真ん中に中庸な選択肢を置くようにした。こうすることで多くの場合中庸の案を好んだし、意思決定者が私の思いつきもしないソリューションを言い出すことはまず無かった。

シナリオプラニングの手法は慣れの問題があるので、あらゆる課題について使ってみる方が良いだろう。思考訓練になるし、リーダーとして想定外の事態に直面した際でも準備しやすい利点がある。

最後に一点。本書を推薦してくださった人も指摘している通り、本書の装丁は日本のマーケットには少々そぐわないような気がする。原書と同じようにB5横長だが、これは読みにくいし、また本棚に置いても座りが悪い。残念ながら良書でありながら、本屋で手にとった後、しっくり手になじまず、購入を辞めた人も少なからずいるのではないかと思う。もしかすると著者がこだわったのかもしれないが、これは見直した方が良いだろう。


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