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ブックレビュー「海外メディアは見た 不思議の国ニッポン」

ここ何年もの間、日本のTV番組の得意パターンの一つは、日本が大好きな外国人に日本の魅力を語らせるものだ。彼ら外国人は日本のオタク文化だったり、伝統文化だったり、Jポップにゾッコンで、自国の文化に自信の無い日本人の自国礼讃意識をくすぐってくれる。

外国人に誉められないと自国の文化が素晴らしいと思えないのは如何なものか、という批判もよく耳にするが、そもそも日本を離れて海外に行く機会が無い人たちにとってこれほどイージーな自国認識手段は無いので、こういった番組はいつまで経っても無くならない。人間はそもそも怠惰であり、自分で判断するのは苦しいし、判断を他人に委ねた方が楽なのだ。

そういった人が絶対に積極的に見ようとしないのが、日本の社会/文化への違和感を辛辣に語る外国プレス記事だ。本書は当にそういう記事をクーリエ・ジャポンが集めた新書本で、初版は今年の2月と新しい。

海外に住んで、外国人と長年働いていると、日本の文化や社会情勢の特異性は相当意識する。特に人事という仕事柄、外国人上司・部下・同僚に、年功序列、終身雇用、長時間労働、会議での居眠り、役職定年、過労死、企業不祥事での社長のお辞儀といった特異な現象を説明する機会が過去何度もあったし、お陰でそういう説明は随分上手くなったと思う。興味の無い人には伝わらなかったかもしれないが、好奇心のある人には分かってもらえたと思う。

本書を読むとそういった古くからある日本の「不思議」が未だに外国人記者の記事になっている事実に失望する一方、「ポピュリズムが台頭しない理由」、「ファックスを止められない理由」、「高い自殺率」、更に深い「アキヒトイズム」、「女性皇族」問題など関心を持てていなかった「不思議」がまだまだ多いことがわかる。

こう言う記事を読んで、外国人記者のの意見に賛同して単に「日本人は進歩が無い」とか「海外に行く勇気が無い」とか「海外のメディアをもっと注視すべきだ」と言う事は簡単だが、それでは何ら今のこういった社会問題が解決するとは思えない。

もちろん、社会の多様性を増して外国人ともっと積極的に交流した方が良いだろうと思うし、勇気を持って海外に出て異文化を知って欲しいとは思うが、問題なのはこういった内容をまだまだ公の場で日本人同士で対話する機会が少なく、お互い議論することを避けている姿勢にあるのだと思う。

先ずは日本のメディアでも、単に日本の文化を礼賛する番組や記事だけで無く、手厳しい外国人の意見をもっと取り上げて欲しい。そして既に問題意識を持つ大人たちはそういう記事を題材に次世代に問題を投げかけて欲しい。そういった積み重ねがあって、初めて社会に変化の兆しがあるのだと思う。


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