ブックレビュー「社会学をはじめる~複雑さを生きる技法」
今回この本を手に取ったのは、SNS上で著者自身が推薦していたのがキッカケだったと記憶しているが、結果的にわたしの経営人事コンサルタント業務上大変示唆に富んだものだった。
この「ちくまプリマー新書」というのはヤングアダルトをターゲットとした新書だそうで、大変読みやすくわかりやすい。従って読むのに時間がかからない。それでいながらも要点が頭に入ってきやすい。
まず社会学とは何か。
そして科学との対比で考えると、社会問題は、答えをもって解決されうる問題ではない。
対象とする社会は決して固定的なものでは無く、動き続けるから厄介だ。
複雑な社会を調査するのにアンケートだけでは不十分で、特に「対話」が重要。社会学での「根拠」=エビデンスは「客観的なデータ」では決して無い。
そして「対話」において、「全体性」を手放してはいけない。
先に社会学における根拠は対話であることに触れたが、社会学ではインタビュー、観察、資料・文献、統計、地図、アンケート調査など雑多な調査を駆使する。そしてすべての調査方法において対話的に集め、読み、分析する。
そして問題設定、データ集めと分析は同時並行的に行われる。分析は圧縮し、データ化し、図式化によって行われる。それらを(1)分類・類型化し、(2)傾向を見て、(3)比較し、(4)関係をさぐる。
アメリカの哲学者チャールズ・パースは、従来の演繹・帰納という推論方式に加えて、アブダクションを提唱した。アブダクションとは、「何等かの事実を前に、それについてさまざまな考察をしながら、合理的と思われる仮説を発見する」推論方法をいう。社会学はまさにアブダクションなのだ。
私はこれまでも職場課題を調査し、分析し、何等かのアクションを推奨するような仕事の依頼をされたことがある。こういったクライアントの多くはエンゲージメント・サーベイを行なっていたが、さらに効果的な打ち手を打つにはサーベイで不充分なことが多く、ここに第三者としての私のような外部者によるインタビューを組み合わせることが多かった。
今回本書を手にして、改めて職場課題の分析が、まさに社会学だったことを認識した。
昨今人的資本経営のブームで、今やどこの企業でもやっているエンゲージメント・サーベイだが、担当者は本来サーベイは課題調査の一手法でしか無いことを改めて認識して欲しい。インタビュー、観察などの対話的手法と組み合わせないと、効果が望めないアクションのオンパレードとなってしまうことを常に留意されたい。