イベント振り返り「第4回 特許の鉄人」(第2試合選手)~負ぁけてぃんぐの技法~/金子愛子
おはこんにちこんばんは、かねぽん。こと、金子愛子です。
今回は、2024年8月24日(土)に開催されました「第4回 特許の鉄人」、第2試合選手としてのイベント振り返り記事です。長い上に大半が駄文です。寝る前のスマホタイムにどうぞ。
今回で第4回になる、”特許の鉄人”。
2人の弁理士が制限時間内にクレーム作成をし、その出来を審査員及び観客の投票で決するバトルイベントです。
選手の弁理士は、よ~いドン!からの25分間で、発明の説明を聞き、発明者へヒアリングをし、クレーム作成(最大5項まで)を行います。お酒の入った50名余りの観衆の面前で。異常です。
詳しいルール等、イベントの詳細は株式会社知財塾様の公式ページにて。
<第2試合:ソフトウェア対決>
【選手】
室伏 千恵子 選手
*きのか特許事務所 代表弁理士
*株式会社きのからぼ 代表取締役
金子 愛子 (ワタシです)
*弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
【発明プレゼンター】
木本 大介 プレゼンター
*ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
室伏選手、木本プレゼンターのイベント振り返り記事はこちらです。真面目にイベントを振り返り、タメになる記事を御所望の方、今すぐ御両名のページへの御移動を推奨いたします。
~某日:はじまりはここから~
……ここは弁理士法人サンクレスト国際特許事務所、金子の自席。
第二子の育休明け初出勤日。約1年半ぶりに席に着いた金子は、ひととおりデスクに溜まったホコリを掃除して、PCを立ち上げる。
久々の起動ながら、意外と早くデスクトップ画面が表示される。やあ、久しぶり、ボクのPCちゃん。早速、大量に溜まっているであろうメールをチェックすべく、メールソフトを開く。
すぐに、一番上のメールに目が留まる。差出人は、プロフィック特許事務所の谷さんだ。
※谷さんは平素よりお世話になりまくっている大先生のため、個人的には先生とお呼びしたいところですが、谷さんはさん付けの方を好まれるため、最大限の敬意を込めて「谷さん」とお呼びいたします。
「特許の鉄人、でてみいひん?」(メール意訳)
谷さんからのお誘いを断ることができるだろうか(反語)。
私は出場を決めた。
・・・そして時は流れ・・・
~試合前夜~
万全の体制で眠りにつく。
しかし、対戦相手の室伏選手はまさかの試合会場前入り。覚悟の違いを見せつけられる。さすがは弁理士界のクイーン。
~試合当日~
早朝に現地入りする解説者。
イベントにかける各々の熱量の違いを見せつけられ、試合開始前から焦る私。なんとか集合時間の1時間前に会場入り。
控室には誰もいない。誰もいない。誰もいない。。。
・・・って、なんでやねん!!!
2分後に室伏選手がいらっしゃいました。大げさな荷物は背負っていませんでした。
~第1試合開始~
そんなこんなで、「第4回 特許の鉄人」がスタートしました。
第1試合を冒頭から会場の隅っこで観覧し、選手2名の真剣な眼差し・会場のざわめき・司会者と解説者の掛け合い、そのすべてから「特別」感を受け、しっかりとド緊張して控室へ退避。
控室では、私と同じく会場の雰囲気にアテられて先に戻ってきていた室伏選手がモニター越しに試合を視聴していました。第1試合の行方を固唾をのんで見守り、室伏選手と互いに感想を述べ合う時間。ああ、正直このまま帰りたい。
控室で緊張が治まるわけもなく、そのまま時間が来て会場へ戻り、あれよあれよと第2試合が始まります。時間は待ってくれません。
できることなら時間を戻したい。育休明けの出勤初日、谷さんに返信メールを送信するあの瞬間に戻りたい。そしてその時の私に伝えたい。
現在の私「ゲロ吐きそうなほど緊張するで。よぉく考えや。」
過去の私「さよか。まぁ、なんとかなるっしょ。」送信ボタン、ポチー
過去は変えられない。
~第2試合開始~
25分のタイマーがカウントダウンを始め、木本プレゼンターによる発明の説明が始まりました。
第2試合のお題は「文字起こしマイク」
聴覚障害などの聴こえにくさがある方とのコミュニケーションや、会議の場に用いられるマイクツールで、マイクに対する発話者の方向を付した状態で発話の内容をUI表示する発明です。
さて、金子の作戦はというと、「特別なことをせず、普段どおりに徹する」でした。
第1試合の中村選手、畑山選手。そして第2試合の対戦相手、室伏選手。私以外の選手の皆様は、独立されていたり、パートナー弁理士だったりで、おそらくセミナーその他の機会で人前に出るご経験も豊富であろう最前線のド精鋭弁理士です。
一方で、私、金子はというと、事務所勤務の、しかもパートナーでもない一番下っ端の弁理士。なぜ選ばれたし。(谷さん、貴重なお誘い、本当にありがとうございます。)
大変です。功夫(クンフー)の差が歴然です。
前回大会の田村選手(今回の審査員をご担当されました。)よろしく被り物か、あるいはジュディ・オングみたいな面白衣装で臨むことも思案したのですが、奇をてらって普段と違うことをすれば途端に頭が真っ白になって自滅するのは火を見るより明らかでしたので、やめました。やめてよかったと思います。いっぱいいっぱいでした。
ということで、金子は、「普段どおりに発明を聞き、ヒアリングし、クレームを作成する」という作戦で臨みました。作戦でも何でもないですね、そら普通が一番よ、はっきりいうて。
観客の皆様が望むのは、過度なパフォーマンスではなく、弁理士が日々どのようにクレーム作成をするのか、その過程をお酒を呑みのみ雑談しながら眺めることだろうと考えました。この観点からも、保身のためではなく、勝つために、私は普段どおりに徹しようと心に決めました。
さて、金子は、発明面談では普段からイラストを用いたメモをし、面談中や面談後にそのイラストを用いて双方の理解を共有することが多いです。このため、今回の試合にもA4のコピー用紙を持ち込んで、木本プレゼンターの説明を聞きながら、要所要所の発明構成や変形例になりそうなアイデアをメモしていきました。
そのメモがこちらです。
試合はクレーム作成のみですが、発明の説明を受け、メモを描いている時点で、大体の図案・明細書の構成も頭に浮かんでいます(実務経験のある弁理士であれば、おそらくそうなっているだろうと思います)。
解説員の谷さんも、発明面談の際に、発明の内容をイラストに起こすことが多いと解説されていたように思います。スミマセン、試合中、集中と緊張のあまり、ほとんど周りの音は聞こえておりませんでした。打席に立つバッターがチャンテ聞こえないのと同じですね、多分。しらんけど。
メモでいうと、例えば図1がハード構成図、図2が機能ブロック図、図3が制御部の処理フロー図(今回はメモせず)、図4~図6がUIの第1例~第3例(上記メモのUI①~UI③)となり、これらの図とクレームの文言とを明細書の実施形態に展開していくイメージです。
普段の面談でもこの手法を取っており、概ね面談後1週間以内には図案(手書き等のラフな図面)が完成しています。また、その図案の内容についてもなるべく早いタイミング(例えばクレーム案の送付の際)にて、クライアントと共有しますので、特許出願書類のクライアントチェックの後の「図面修正」の戻り作業が少なく済みます。
図面に修正が入ると、色んな方の手を動かす大工事になりかねません。クライアント側も、図面の修正指示のための図を描いたり説明したりする手間が生じますし、事務所側も私だけでなく所内の図面担当者の工数が発生することになります。また、図面を修正すると、その分だけ明細書等の文章の修正も必要になります。
さらに、図面の修正(特に大きい修正)が入るということは、クライアント側の「あ、この人、分かってないな」という不信感にも繋がります。早い段階での図案共有であれば、その傷は浅くて済みます。「この図で合っていますか?」というテイストでお伺いできますから。このように、原稿段階で図面に大工事が入ることは何とかして避ける必要があります。
このあたりの進め方はクライアントや案件次第のところもございますが、上記の理由から、私はなるべく早めに図案を送るようにしています。
話がずれてしまいました。そうですね。クレームの話をしましょう。
~金子の作成クレーム~
金子の作成クレーム(試合当時の原文ママ)を1項ずつ振り返っていきます。
まず、発明の主な特徴は、「方向データ込みで音声データを取得し、その方向ごとに発話内容を文字表示する」ことにあると考え、請求項1の方向性はわりと早い段階で決まりました。
実際の発明品のUIは、画面中央にマイクを表すアイコンが表示され、そのアイコンを中心に、発話者の方向ごとに文字情報を放射状に配置する表示ですが、請求項1は、この文字の配置を上位概念化すべく、「第1領域」と「第1領域とは異なる第2領域」という表現を用いました。
絵にすると、以下のようになります。
……ただ、試合後によくよく考えると、従来のタイムライン表示も「第1領域(例えば、1行目)」と「第1領域とは異なる第2領域(例えば、2行目)」に表示されるといえばそうなので、請求項1において従来技術との差異は「音声データを前記方向に関する方向データを含む状態で取得」という取得部の特徴のみになってしまいそうですね……。しまった。
ちなみにですが、「第1」「第2」という表現を用いたのには理由がございまして、例えば第1表示と第2表示について、表示上の差異を設ける従属項や変形例を書く場合に、従属項等を作成しやすいからです。
発明をお聞きした段階で、木本プレゼンターが述べていないオリジナル変形例として、以下のような例を考えていました。
①発話者の声の大きい方の表示を、より大きく表示する
②会議の場合、議長などが居る特定方向からの音声データを、より大きく表示する
③第1表示・第2表示の消えるタイミングに何らかの工夫をする
例えば①の場合、「前記第1方向から取得された前記音声データの音量が、前記第2方向から取得された前記音声データの音量よりも大きい場合に、前記第1表示に含まれる文字を前記第2表示に含まれる文字よりも大きく表示する」というように、「第1」と「第2」の比較が書きやすくなることが多いです。
このため、後々の展開を踏まえて、「複数の◯◯」が登場する場合、私はよく「第1の〇〇」「第2の◯◯」と記載しています。
ただ、残念ながら上記の変形例①②③に関する従属項は、木本プレゼンターに詳細等をヒアリングする心的余裕がなく、まずは木本プレゼンターが説明した内容を従属項に書くことに必死になってしまい、日の目を見ることはありませんでした…。昨年の谷さんのようなスピード、そして本年第1試合の中村選手、畑山選手のような落ち着きがほしいです。
次に、従属項となる請求項2から請求項4です。
請求項2は、発明の内容そのものズバリを目指しました。
請求項3は、「放射状の表示のほか、従来と同様に発言内容をタイムライン表示することもできる」という発明内容を拾いまして、画面を放射状表示(第1画面)とタイムライン表示(第2画面)とに遷移可能(切り替え可能)であることを限定しました。
請求項3を作成した意図としては、第一に、実際に本件UI機能をユーザが使うとき、方向の表示も大事ですが、会話は結局は時系列で何を言ったかが重要なので、このタイムライン表示は自社・他社ともに外せない機能だと思ったことにあります。権利範囲が狭くなったとしても、実施する範囲・売れる範囲への限定であればそこまで痛くないでしょう。
そして第二に、特許実務上、こういった画面遷移など、従来技術と本件発明との切替機能に関する従属クレームを入れておけば、請求項1,2で苦戦しても請求項3でヒュッと通ることがあるためです。これについては、当日、佐竹審査員にも拾っていただき、非常にありがたかったのと同時に、わりと一般的な「あるある」なのだなと認識いたしました。
請求項4は、機械翻訳機能に関します。
ちなみに、時間的余裕があれば、請求項4は削除して、上記のオリジナル変形例①についてのクレームを入れるつもりでした。全然間に合っていませんが……。
???「明日、もう一度ここへ来てください。本物のクレームというものをお見せしますよ。」
最後に、請求項5はプログラムクレームとしました。
請求項5の作成意図は、3分間のプレゼンタイムにて申し上げたとおり、「発話者の方向ごとに音声データを取得する取得部(マイク)」が何処かから単品で販売されていたとして、そのマイクを使った表示ソフトだけ他社から販売された場合にも対処可能とするためです。
~反省とこれから~
試合結果は、見事に惨敗…。
審査員票にて20対10と負け、観客票でも10票以上の差がついてしまいました。くぅ…。
しかし、今ある実力を出し切って勝負できたので、意外と悔いはありません。そして、他でもない、私と同年代ながら子育てもしつつ独立もされて各所で大活躍中、憧れの室伏選手と戦えたことが、何よりの自信になりました。
「オレ、高校生の時に野球やってて、大谷投手の投げたボールにバットを当てたことがあるんだぜ(安打とは言ってない)」と。そんな感じです。多分、10年後、自慢してます。
室伏選手、本当に対戦ありがとうございました。
さて、それでは今後のワタシのクレーム作成ライフに活かすべく、敗因を振り返っていきます。
公式さん(株式会社知財塾さま)にて、近々、振り返り動画を収録・配信の予定があるようですので、こちらも是非、ご覧ください。
■主な敗因
請求項1を手直ししすぎた。
試合の動画を見直して、客観的に私がクレーム作成する様子を見れば、もっと的確な反省点をつかめると思いますが、現時点で思いつく反省点を考えていきます。
まず第一に、請求項1の手直しをしすぎたという点が挙げられます。これについては、「クレーム作成タイムバトル」ならではの反省点です。
請求項1作成→請求項2作成→請求項1手直し→請求項3作成→請求項1手直し…
というように、従属項作成のたびに、請求項1を見直して、適宜手直しを入れておりました。例えば、請求項3にて「第1画面」という表現を登場させるにあたって、請求項1にて、元々書いていなかった「第1画面」を初出させる…というような修正を都度入れていました。
普段は、デュアルディスプレイで左に請求項1を表示したまま右に現在編集中の従属項を表示して、請求項1を適宜修正するのですが、試合では単一ディスプレイで、しかも観客の皆さんに見えやすいかなと思ってフォントサイズを「13」にして臨んでいたのが却ってアダになり、ページを上下に高速移動する作成模様が映し出されることになってしまいました…。「もっと従属項をじっくり見たかった」というお声も頂いております、反省。
会場・オンラインでご覧くださった皆様、私の請求項、読めましたでしょうか。上に載せておりますから、存分に見てくださいよ。
また、この請求項1の手直しによってかなり時間を消費してしまい、従属項を思うように詰められませんでした。
試合では、記載の仕方こそ違えど、請求項1の内容については室伏選手とあまり差がつかず、審査員の方々のご指摘によれば、従属項(特に、請求項3以降)の勝負になっていました。
この点、室伏選手は請求項1については私よりもコンパクトかつ手早く完成させ、従属項に多くの時間を使われておりました。
もちろん、それだけでなく、室伏選手の請求項が私のそれよりも洗練されてこそだと思うのですが、時間の使い方・画面の見せ方という点で、結構な差が出たのかなと思っています。
■この敗因をどう活かすか
(1)状況に応じて自分の出力を切り替えるスキルを磨く
今後、私にクレーム案を25分以内で作れという事態は生じないと思います。生じさせません(確固たる意志)。
しかし、似たような状況は、今後もきっと生じるでしょう。例えば、クライアントとの打ち合わせで、即席で請求項案を提示することは、ままあることです。また、セミナーや講師活動など、限られた時間で視聴者へ何かを伝えるという機会も増えてくると思います。
その際に必要なのは、試合で発揮してしまった「緻密さ」と「硬さ」ではなく、「速さ」と「柔らかさ」だと思いました。
そして、前者の「緻密さ」と「硬さ」が全く不要かというと、そうでもなく、実際の請求項作成、明細書作成には不可欠のスキルであると考えます。
となると、今の私に足りないスキルは、緻密さ↔速さ、硬さ↔柔らかさという、「状況に応じた切替スキル」であると思い至りました。なんということでしょう、今回の請求項3と同じく、ここでも「切替」という思想が!
思い起こせば、ざっくりした話で済ませば良く、先に全体像を固めた方が良いのに、冒頭の細かいところチマチマと詰めるなど、人よりもメリハリをつけるのが苦手な性分のような気がしてきました。良く言えば「正確」、悪く言えば「気にしい」で「融通が利かない」というやつです。
そんな私に、「クレーム作成タイムバトル」という課題は、「絶対に速く作らないといけない」という機会を与えてくれました。
上記のような切替スキルは、一朝一夕で手に入るモノではないですが、この経験と、今回の反省で、新たな目標を掴むことができました。
目標があるのとないのとでは、スキル習得までの期間は段違いだと思います。今後は、面談等の際に「今、第一に必要なのは正確さなのかな、速さなのかな」という点を意識しながら臨んでいきたいと思います。
(2)負けを擦れるだけ擦る
今回の試合の後の打ち上げで、「チーム負け組」が結成されました。今大会及び過去大会で奇しくも敗者になってしまった弁理士たちの集いです。みなさん、優しい目をしていらっしゃいました……。
★負けた方は、勝者と比べると自慢感が少ないため、自分から『特許の鉄人に出たんだよ、負けたけどね』と話題に出しやすい。
★負けたことを一生擦れる。立場的にオイシイ。
★負けた方が、対戦相手と比べて反省点を見つけやすい。
等々、チーム負け組の先輩方からアドバイスを頂き、私も、ドラフト会議でガッツポーズをした元監督のように、この経験を擦れるだけ擦ろうと思いました。大阪人の血が騒いでいます。
そして、失敗談を擦るために必要なことは、発信することだと思っています。自分からネタにしていかないと、擦れるものも擦れません。
もう少しで私は第三子の産休・育休に入り、実務の現場からは遠ざかってしまいますが、幸い、今はX(Twitter)や、このnoteをはじめ、色々な発信手法が用意されています。
「特許の鉄人で室伏選手に負けた金子です」を擦れるだけ擦れるように、今後も面白おかしく発信活動を継続していこうと思います。
~最後に~
末筆にはなりましたが、第4回特許の鉄人を主催してくださった株式会社知財塾さま、私を1カメ、2カメ、3カメと様々な角度で抜いてくださった株式会社音動さま、大会前から様々な手配・広報活動、何から何まで働き詰めの中の人……もとい余白さま、普段の実務では中々味わえない臨場感のある評価をしてくださった審査員の方々、喉が干からびるほど懸命に解説をして場を暖めてくださった谷さん、関西の雰囲気にも見事に合わせていらっしゃった司会のあずさん、現地・オンラインでご覧くださった皆様、このような素晴らしい大会を支えてくださったスポンサーの方々、そして対戦してくださった室伏さんに、心より感謝申し上げます。
それでは!ヒッヒッフー!