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メヒコ暮らしの話をします

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エネルギーに溢れていて、どこか危ういけれど、惹きつけられてしまう。メキシコはそんな国です。
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近くて、すごく遠い世界

近くて、すごく遠い世界

ずっと、メキシコの"陽"ばかりを書いてきた。
オープンで温かい国民性。せかせかと急がない、のんびりとした街の空気。どれもぜんぶ、嘘じゃない。

けれど明るい光が射せば、かならず暗い影ができる。そしてその影のなかにも、人々の暮らしがある。

そんな「当たり前」を、強烈に思い知らされる出来事があった。



週に一度、わが家の掃除をしてくれるマリアという女性がいる。共働きで3人の子どもを育てる彼女は

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言葉を贈り合う

言葉を贈り合う

週末の朝。
洗面所でピアスをつけていると、鏡の右端にぴょこんと小さな黒髪の頭が映り込んだ。くりくりとしたふたつの目と鏡越しに視線がぶつかると、”にーっ”と笑って言う。

「おかあさんのピアス、めっちゃ可愛くてとっても似合ってる!」

そぅお?ありがとう。照れ隠しに答えるわたしの言葉を終わりまで聞かずに、黒髪頭は鏡から消え、パタパタとどこかへ走り去っていった。

誰かに褒めてもらうこと。

それって

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溶岩の上に立つ家

溶岩の上に立つ家

泣きたくなるほど素敵な家に出会ったことがあるだろうか。部屋の片隅に差すわずかな光までが美しく、思わず胸がつまってしまうような。

かつての溶岩地帯に立つその家は、わたしにとってまさにそんな場所だった。



メキシコシティの中心部からおよそ15km南へ下り、静かな住宅街に立つ一軒の邸宅前で車を降りる。待ち合わせたガイドとともに、荒々しい表情の石塀をたどり木製の門をくぐった。

カサ・ペドレガル。

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【写真エッセイ】季節を連れてくる人々

【写真エッセイ】季節を連れてくる人々

最近身体が東京の秋を忘れかけている。

トライアスロンのような夏を走り切って、倒れ込むように辿り着く秋。火照った全身をひんやり優しく冷やしてくれる秋。

メキシコシティの気温は今ちょうど東京のそれと同じくらいなのに、過酷な夏を越えていないだけで、秋の感じ方がまったく違う。ここでは季節は自然に移り変わっていくのではなく、ぐいぐいと人々が引っ張ってくるものらしい。

目抜き通りで行われたフラワーフェス

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