見出し画像

コレクション展は楽しい #04 東京国立近代美術館 2024年6月

東京国立近代美術館のコレクション展が大好きで、企画展を見に来た時以外でもコレクション展目当てで訪れることがあります。

今回は企画展「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」の観覧と併せて所蔵作品展「MOMATコレクション」を観ました。

〈コレクション展の特徴〉
13,000点を超える所蔵作品から会期ごとに約200点を展示している
国内最大級のコレクション展です。
それぞれにテーマを立てた12の展示室を観ることで19世紀~現代にいたる日本の近代美術の流れをたどることができる内容になっています。

近代美術というと洋画のイメージが強いですが、同時代の日本画も展示されていて、19世紀以降に西洋美術を受容して日本の美術が大きく変化していく様子を見られるところが魅力だと思っています。

この時代の美術についてはまだまだ勉強不足で知らない作家・作品が多く、ここに来るといつも発見があって勉強になります。
あと、第9室の写真の展示をいつも楽しみにしています。

〈展示室の構成〉
展示室は4階→3階→2階の順路で、大きく分けて以下の構成になっています。

第1室 ハイライト
第2室~第5室 明治の終わりから昭和のはじめまでの作品を展示
第6室~第8室 昭和の初めから中ごろまでの作品を展示
第9室 写真・映像の特集展示
第10室 日本画の特集展示
第11室~第12室 1960年代以降~現代の作品を展示
Gallery4(2階) 「コレクションによる小企画」の展示室

〈コレクション展の見どころ〉
以下、美術館HPから引用します。

今期のみどころ紹介です。5室「パリのサロン」、9室「『20 Photographs by Eugène Atget』」、10室「東西ペア/三都の日本画」は、企画展「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(5月21日~)に関連した展示です。また3階7、8室「プレイバック「日米抽象美術展」(1955)」は、当館黎明期の重要展覧会を再現VRなどを駆使して振り返る企画第二弾です。そのほか前会期好評だった1室「ハイライト」の鑑賞プログラムの試み、12室「作者が語る」は作品を入れ替えて継続します。

東京国立近代美術館HPより https://www.momat.go.jp/exhibitions/r6-1

所蔵作品展「MOMATコレクション」
会期:2024年4月16日(火)~8月25日(日)
会場:東京国立近代美術館所蔵品ギャラリー(4F~2F)
観覧料:一般 500円 大学生 250円
※企画展「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」の観覧料で入館当日のみ、コレクション展も観覧できます。

東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
交通アクセス:東京メトロ東西線 竹橋駅 1b出口 徒歩3分


全ての展示室について述べることはできないので、いくつかピックアップして今回の鑑賞を振り返りたいと思います。



鑑賞プログラムの試み(第1室 ハイライト)

この展示室は鑑賞プログラムの一環で、鑑賞者がより能動的に作品を見られるように、展示に様々な工夫を凝らしています

子どもから大人まで楽しめる内容になっていて、この展示を体験した時の作品との距離が縮まる感覚が好きです。
これからもこの展示を続けてほしいと思っています。

加山又造《千羽鶴》 1970年
作品に添えられた問い
「鶴はみんな同じでしょうか」
同じに見えるけれど、どこか違うのかもしれないと思って細部まで注意深く見ていきます。
よく見ていくと、同じパターンの反復のようで、実は場所によって鶴の形が異なることが分かります。
十三代三輪休雪(和彦)《花冠》 2003年
萩焼の花器
作品の横には萩焼に使われる土のサンプルと産出場所の地図が添えられています。
藤田嗣治《自画像》 1929年
藤田嗣治の特徴的な線を生み出す面相筆。
絵と同じ角度になっていて、ちょっとした展示のこだわりが伺えます。
安井曽太郎《奥入瀬の溪流》 1933年
作品に添えられた3つの問いに導かれて、描かれた風景に思いを馳せてみます。
清水登之《チャイナタウン》 1928年
同じ形を絵の中から探すというゲームが楽しめます。
探しながら絵の細部に入り込んでいくとそこで繰り広げられている様々な出来事に触れることができます。
ジャン(ハンス)・アルプ《地中海群像》 1941/65年
壁には「いろいろな角度からみてみる」という言葉が添えられていて、
いくつか立ち位置が記されています。
立ち位置から眺めてみる その1
柔らかい有機的な物体に見えます。
立ち位置から眺めてみる その2
先ほどとは全然違う見え方。犬のキャラクターみたい。

1910年代の絵画(第2室)

明治時代末~大正時代はヨーロッパで学んだ美術家によって西洋美術や西洋の新しい考え方が盛んに紹介された時代でした。
展示作品を通して、日本の美術家が西洋美術に影響を受けながら自己の芸術表現を追求していく様子がうかがえます。

結城素明《囀(さえずり)》 1911年
岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》 1915年
自分にとって東京国立近代美術館といえばこれ、という作品。
太田喜二郎《田植》 1916年
関根正二《三星(さんせい)》 1919年

大正時代の前衛絵画(第3室)

この展示室は「大戦とバブル」というテーマで第一次大戦(1918年)が経済や人々の人生に様々な影響を与えた時代の様相を伝える展示内容でしたが、同時期に海外の影響を受けて現れた前衛的な作品が紹介されていて、その中で古賀春江の作品に目を引かれました。

古賀春江《観音》 1921年
古賀春江《女》1924年

パリのサロン(第5室)

100年前の芸術家たちにとってサロン(公募展)は重要な作品発表の場でした。フランスには次々とサロンが設立され、新しい芸術運動を生み出す土壌となっていました。

冒頭で引用した今期の見どころの一つに挙げられている第5室は、第1次大戦後のパリに滞在した日本人画家の作品を中心に、同時代のサロンの常連だったヨーロッパの画家としてシャガールマティスなどの作品も展示されていました。

佐伯祐三《パリ雪景》 1925年頃
企画展でも登場している佐伯祐三が1度目のパリ滞在時に描いた作品。
冬の陰鬱な雰囲気が漂っています。
清水多嘉示《アルプス遠望》 1926年
3月に訪れたアーティゾン美術館のコレクション展で特集展示されていた清水多嘉示。
短い期間でまた作品を見られて嬉しい。

この展示室で一番嬉しかったのは、銅版画家 長谷川潔の作品が見られたことです。
繊細な線で描かれた風景や静物の静謐な空気感。柔らかさの中に少しだけ緊張感がある独特な雰囲気が大好きです。

長谷川潔《アレクサンドル三世橋とフランスの飛行船》 1930年
長谷川潔《二つのアネモネ》1934年
長谷川潔《玻璃球のある静物》1959年

戦争記録画(第6室)

東京国立近代美術館に保管されている153点の戦争記録画は、1977年以降、所蔵作品展の中で数点ずつ展示されています。
これらの多くは日中戦争(1937年~1945年)から太平洋戦争(1941年~1945年)にかけて、軍部の委託によって制作されたものです。

企画展では扱いが難しいテーマなのでほとんど目にする機会がなく、そういう意味でこの展示室は近代日本美術史の歴史的事実を知ることができる貴重な場所になっています。

ウジェーヌ・アジェのポートフォリオ(第9室)

第9室は写真・映像の展示室になっています。
このジャンルは奥が深くてまだまだ知らないことが多く、いつも勉強になります。
他の展示室に比べてコンパクトなスペースで程よい分量の作品が見られるところが好きです。

今回は、フランスの写真家 ウジェーヌ・アジェ(1857年~1927年)のガラス乾板ネガから、写真家ベレニス・アボットによってプリントされた20点組のポートフォリオ作品が展示されていました。

ウジェーヌ・アジェ《ランプの傘売り》
『20 Photographs by Eugène Atget』より
1899-1900年((printed 1956)
ウジェーヌ・アジェ《道路舗装人夫》
『20 Photographs by Eugène Atget』より
1899-1900年(printed 1956)
ウジェーヌ・アジェ《大道芸人》
『20 Photographs by Eugène Atget』より
1898-99年(printed 1956)

近代化が進んだ1900年前後のパリに残る古い街の風景や建築物、室内装飾を撮影した作品が心に残りました。

ウジェーヌ・アジェ《酒場のカウンター》
『20 Photographs by Eugène Atget』より
1910-11年(printed 1956)
ウジェーヌ・アジェ《中庭、ヴァランス通り》
『20 Photographs by Eugène Atget』より
1922年(printed 1956)
ウジェーヌ・アジェ《サン・リュスティク通り》
『20 Photographs by Eugène Atget』より
1922年(printed 1956)

コレクションによる小企画(Gallery4)

最後に2階 Gallery4のコレクションによる小企画展について。

「新収蔵&特別公開 ジェルメーヌ・リシエ《蟻 》 インターナショナル編」と題された小企画展は、ジェルメーヌ・リシエ《蟻 》と、関連する海外作家の作品で構成されています。

企画展「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」にもジェルメーヌ・リシエの作品が出品されていて、一度に2作品見られるいい機会になりました。

ジェルメーヌ・リシエ《蟻》 1953年
蟻と題されているけれど擬人化した異形の生物のように見えます。
あるいは女性と虫のハイブリットな存在。張り巡らされた網に手足を捕られ、身動きが取れない苦しさを感じます。

第10室の日本画、第11室~第12室の現代作品についてはまた次回のコレクション展を見た時にご紹介できればと思っています。

長い文章を最後までお読みいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!