鬼の目に涙…!
もう、数年前に亡くなってしまった祖母の話。
それはそれは気の強い人として評判だった。
自分の意見は絶対に曲げることはしない。
相手の気持ちなんておかまいなくズバズバ物申す。
故に近所や家族との衝突は日常茶飯事であった。
そんな、不器用にも見える祖母を、私は子供ながらにどこか小ばかに
していたのだろうと思う。
「くそばばあ!」「鬼ばばあ!」と罵声をあびせては
取っ組み合いのけんかをしたこともあったっけ。
私が大人になり、久しぶりに実家に帰省したある日のことだった。
たまたま両親が不在で、茶の間に祖母と二人きりになったときのこと。
それまで何となく面倒な気がして、祖母と面と向き合うということは
なかったように思う。
すると、すでに耳がだいぶ遠くなっていた祖母は、ほとんど一方的に
語り始めたのだった。
同じ集落の○○さんがどうしたこうしたといった話から、
それは時代をどんどん遡って、戦時中食べ物がなくてどう飢えをしのいだか
ということや、早くに亡くなった祖父から受けたちょっとDVなことなど。
私はただ、「ふ~ん、そうだったの、へ~」と適当に相槌をしながら
聞いていた。いや、聞くしかなかったのだが。
ふと祖母の顔に目をやると、そこには目を真っ赤にした祖母の顔があった。
その瞳には溢れんばかりの涙が光って見えた。
(エッ( ゚Д゚)!!!??)
このことは私に衝撃を与えた。
そのとき、祖母の抱えてきた心情の深淵をのぞいたような気がした。
後にも先にも、祖母の涙を見せたのはこの一度きりであったが
私に傾聴の大切さを教えてくれた出来事である。