聴き馴染みのある”カモメ”との再会〜チック・コリア『リターン・トゥ・フォーエヴァー』
団塊世代の父の趣味はオーディオで、かなりの量のレコード(+オープンリールテープ)があり、それらレコードの音が流れる家庭で育った。実家は狭い住居兼店舗の自営業だったので、父の私物が店舗に溢れだし、公私の境目が曖昧な生活環境だった。すでに父は引退しているので、その住居兼店舗から郊外へ引っ越し、オーディオもレコード類も移管されている。
父がよく聴いていたのは日本のフォークソングやニューミュージック、クラシック、そしてジャズ。ジャズに関しては保守的な人で、フリージャズは「騒々しい」と嫌っていたし、マイルスの『ビッチェズ・ブリュー』やウェザー・リポートの1stあたりも、当時の雑誌で話題で一応買ったみたいだが、「何度聴いてもよくわからない」と呟いていた。
そんな中でチック・コリア『リターン・トゥ・フォーエヴァー』通称カモメはよく聴いていた。今聴くと傍目優しそうに見えて、中身は結構エグい、緊張感のある作品だと思うのだが、父はその牧歌的な美しさに惹かれているようだった。自然と自分も馴染みのある作品となり、耳タコ状態になってしまったため、一時期は距離をとっていた。
再び聴きだしたのはジャズへの揺り戻しが起きた大学時代。すでにレコード収集を始めており、「できる限りオリジナル盤で聴きたい」という欲求から、背文字無しのECM独盤を入手。ECM独特の澄み渡るような音で愛聴していた。
でも、小さいときに聴いていた印象とはちょっと違う。昔聴いていた音はもっと中低音に迫力があるような印象だった。もちろん父のハイエンドオーディオ&大音量と、自分のへっぽこオーディオでは比較にならないのだが、こんなに「小綺麗」な印象だっただろうかと。それで父が聴いていたのはポリドールの国内盤初版(Polydor MP2273)だったことを思い出す。ものは試しと補充帯付の国内盤初版を購入したら、ガッツのある素晴らしい音でびっくりしたと同時に「これこれ、小さいときに聴いていたのは」と合点した。
今でも極力オリジナル盤で聴きたいと思う方だが、オリジナル盤が絶対とも言えないところがレコードの面白さであり、自分好みの音を探す楽しさもある(基本デジタルは大きな差違がないから)。カモメに関しては国内盤の方が自分は好きなので、今ではこっちばかり聴いている。
また「US盤も面白いよ」と書かれている人もいて、US盤も聴いてみたいなと思った。アメリカ・ニューヨークのA&Rスタジオで録音された作品だし。
ちなみに「ジャケットの鳥はカモメではなくカツオドリ(or アホウドリ)」というのはよく語られる話だが、自分の父が「カモメのアルバム」と言っていたのを鵜呑みにしてずっとカモメと呼んでいたので、最初知ったときには「今さら言われても」と思った。やっぱりカツオドリでは雰囲気出ないよね。