アズールレーン リノに対するクソデカ感情を消化するための落書き

  指揮官……その言葉は、人間にとっても、KAN-SENにとっても特別なものである。船の力を持ったKAN-SENを指揮し、人類に勝利をもたらす……それはまるで、幼き日に夢見たヒーローのような存在であった。

  それは僕……1ヶ月前、この母港に着任したばかりの新米指揮官……にも、そういう存在であった。

  あったのだ。

ーーーーーー

「指揮官、今日はお疲れ様!!」

「いいや、リノの方こそ……俺の趣味に付き合わせて悪かったな。」

  軍から支給された、基地の外れにある一軒家。そこが僕の住処である。忙しいが故に最低限の手入れしかしていないが、人を家に上げることが出来る程度には片付いている。そして今日は友人……KAN-SEN、オークランド級リノと昼間のイベントの収穫を確認しながら、コンビニで仕入れた安酒を呑んでいる。いわゆる宅飲みだ。

「ううん、そんなことないよ!リノも楽しかったよ?指揮官が好きな重桜のヒーローの展示会に行けるなんて思わなかったよ!誘ってくれてありがとね!」

「ん、それならいいんだけど……リノの好きなものって、どっちかって言うとジャパニーズヒーローよりはユニオン生まれのスーパーヒーローだろ?なんていうか、結構違うんじゃないか?雰囲気とか」

「んー、確かにそうだけど……でも、ヒーローは同じヒーローだから!どこで生まれても、どこで育っても、ヒーローってものは正義の心を持っているってリノは思うの!!」

  なるほど。どこで生まれても、どこで育っても、その心は誰にだって宿っている。「僕もそう思うよ。」と、缶チューハイを煽りながら僕は言った。

  今は4大陣営がセイレーン作戦という巨大な反攻作戦を展開するために、今まで争いあっていた陣営が手を取り合っている時期なのだ。きっと、どの陣営にもリノのような考えを持つ人がいるから、こんな大作戦を決行出来たのだろう。と、僕は思ったのだ。

「それに、重桜のヒーロー、かっこよかったよ!SFの巨大宇宙人ヒーローに、バイクに乗ってキックで戦うライダー、チームで戦って最後はロボットに乗って戦う戦隊……ユニオンのヒーローにはこういうのなかったから!!」

  確かに、と僕は納得した。確かにそういうヒーローって、重桜特有なものの気がする。ユニオンのヒーローばかり知っているリノにとってはとても新鮮だっただろう。

  彼女も満足していた、そう思うと、僕も何故か嬉しくなる。僕は缶に残った酒を一気に煽り、次の酒を開ける。

「ふふっ……指揮官ったら、なんだかご機嫌だね!!……リノのヒーローがこんなに楽しそうにしてるの見たら、リノも嬉しくなっちゃうよ!!」

「ヒーロー?僕が?」

「うん、ヒーロー!!」

  リノは悪びれる様子なく、真っ直ぐな瞳で僕を見て言った。その、放たれた砲弾のように真っ直ぐな瞳が……僕には辛かった。

「どうしてリノはそう思うの?」

  まだ残りの多い缶チューハイを乱暴にテーブルに叩きつけ、僕はリノに聞いた。

  リノは体をびくん、と強ばらせた後、心配そうに僕を見つめ、

「どうしたの、指揮官?」

  と、聞いてきた。

  どうしたの、か。なぜ、なんで。なんでそんな風に気にしてないフリをするのか。僕はいつの間にか、彼女に自分の感情をぶつけていた。

「僕は1度だって、満足のいく指揮をしたことが無いじゃないか!!……こないだだって、君を危険な目に会わせた!!それだけじゃない!!ノースカロライナを、ブレマートンを!!潜水艦のブルーギルやノーチラスだって危険に晒した!!そんな僕を……ヒーローだなんて……!!おかしいよ、そんなの!!僕はヒーローなんかじゃない!!」

  誰一人、無傷で母港に帰すことは出来なかった。中には、大きな傷を負ったもの……特に、みんなを守ろうとしたリノの損害は大きかった……もいたのに、何故リノは僕をこんなに認めてくれるのだろうか。それが単純にわからず、そして……プレッシャーであり、恐怖だった。

  なぜ、こんな僕を信じてくれるのか。

「……そんなことないよ。指揮官がいなくちゃ、リノたちは沈んでいた。指揮官がリノたちを救ってくれたんだよ。」

  なおもリノは優しい言葉をかけてくれる。でも、今の僕には研ぎ澄まされた刃物よりも質が悪い。胸を何かロープのようものでキュッと締め付けられ、死なず、かと言って生かされる訳でもなく、ずっとずっと苦しめられているような気分だった。

「本当のヒーローなら、きっとみんな、笑顔で無傷で救えてたよ。」

  僕は本当の本当に苦しくなってそう言った。僕の指揮じゃ足りない。僕じゃなければ、他の誰かなら……本物の、国籍問わず正義の心を持っている、物語の主人公のヒーローなら。彼女らを無傷で救えているはずなのだ。

「指揮官……指揮官、そんなに苦しんでたんだ。……ヒーローは孤独なんだよ?……あなたが、それだけ思い悩んでたの、初めて知った。私たちのこと、兵器だって思わずに悩んでくれてたんだ。誰かが傷つくのが許せない……指揮官がどう思っていても、その気持ちがあるだけで、指揮官はリノのヒーローだよ。」

  ありがとう。リノは最後にそう言った。……それは、本来僕が言わなくてはならない言葉だ。僕が君たちに対して言わなければいけない言葉だ。

  だから。僕が言われるのは違う。そう思った。

  気がつくと、僕はリノを突き飛ばし、乱暴にベッドへと押し倒していた。本来KAN-SENは人間よりも強い力を持っていて、人間である僕がこんな風に強引に押し倒すことは出来ないはずだ。だから……こうなっているのは、リノが抵抗しなかったってことで……

「リノ……お前ッ!!今からされること、分かってるのか!?こんなの……お前の理想のヒーローがすることじゃないんだぞ!?」

「うん……そうかもしれない。」

「そうかしれないじゃない!!そうなんだぞ!!いいのか!?僕は今からお前を辱め……」

「分かってる……うん、分かってる。指揮官、辛かったんだよね。……ヒーローであること、辛かったんだよね。……指揮官の辛かったこと、リノにぶつけてくれてありがとう。……リノ、きっと指揮官の辛さ全部取り除くことは出来ないけど、いいよ。今少しでも指揮官の辛さが紛れるなら、それでいいよ。……リノ、指揮官のこと受け止めてあげるから……」

To Be Continued……→(大嘘)

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