暗闇と輪郭
夜の底を見たことがなかった。どんなに深い眠りについても。灯りを消した私の部屋の窓からは囁やかな月の光が入ってくるが、それだけでは全ての輪郭を捉えるのには足りないし、特に惹かれるような音が体内に入ってくるわけでもない。この世界の全ての境界が曖昧になり、身体が自分のものとは思えないほどずっしりと重くなる。私の瞼が「暗闇」という重さに耐えかねて、段々と降りてくる。
目を開けていた時、私のいた世界は確かに真っ暗だった。それなのに、瞼が降りると、段々と彼女の輪郭が浮かんでくる。笑った時の細くなった目、ふっくらとした頬、食事をとる姿…。全てが愛おしくて、どの場面切り取っても放って置けないくらい可愛かった。
吉本ばななの「白川夜船」に登場する主人公の寺子は植物状態の妻を持つ男性と関係を続けることによる葛藤、親友のしおりの死に対する悲しみによってどんどん眠りが深くなっていく。眠りでしか避けれない苦しみが夜の「闇」と重ねて描かれており、生きていく中で自分以外の人間を愛することの苦しみや儚さ、歓びが描かれている。水のように滑らかに、穏やかな眠りに導いてくれる本だった。
私はあの夜、大切な人の姿を濃くはっきりと見た、起きている時よりも。私は暗闇にのまれるというよりも、彼女の瞳の中に沈んでいくような、溶け合うような感じがした。今思えば、あれはきっと夜の底だった。
夜の底は不思議な力を持っていた。それは、自分に素直になるようにしてくれる力だった。「暗闇」の中に放たれた一人ぼっちな私を救ってくれて、本当に大切なものを目の前に現してくれる。隣にいるわけではないのに、その人の温もりを感じさせてくれる。私は、寂しくて甘えたくた仕方がなかったらしい。
月の光が差し込む窓にうつる自分の姿を見た時、なんだか涙が出てきた。
⭐︎夏休みのわたし
私が吉本ばななを読む季節は夏なのですが、今年はあまり夏休みという感じがしません。プールバックを持っている小学生とか、虫取り網を買ってもらっている小学生が羨ましいので、来年は昆虫採集に挑戦したいです。仕事も勉強も恋愛も世の中全て「過ぎたるは猶及ばざるが如し」なので思い詰めない程度に励みます。
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